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ツインテイル§ドレイカー  作者: 花凛兎
マリオネット
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【Ⅰ】

まだ昼間だというのに、窓の外に花火が上がっている。





学院内はいつにも増して賑々しく、間もなく始まる創立記念祭の準備に生徒達は余念がないようだ。




窓から見下ろす中庭にも、小さなドリンクワゴンがいくつも設けられ、食堂の職員達が世話しなく飲み物やグラスを運び込んでいる。





本来ならばセレスも楽しみにしていた創立記念祭。



だが、今日を最後にこの学院を去らねばならない。




そして、ルードとの時間も……終わる。






「セレス……セレス。あなたに荷物が届いたみたい」





「え……?」





ぼんやりと窓辺で外を見ていたセレスは、荷物の受け取り対応をナディアがしてくれていたのに全く気がつかなかった。




すでにエレガントな青いパーティードレスに着替え終わっているナディアが、大きな平たい箱を抱えてこちらにやってくる。






あの日からセレスは自室に戻り、ナディアとも、ぎこちなくではあるが以前と同じように寝起きを共にしている。






「ご、ごめんナディア。でも私に荷物って……」





考えてみて、キュッと胸がふさがった。




セレスに何かを送ってくれるとしたら、後見人しかいない。




今日の創立祭終了後に、放校処分になる事情説明と話し合いの時間を持つ事になっているが、おそらく本人ではなく、また代理人のクロセルがやってくるのだろう。




卒業後に会える事になっていたのに、あろうことかセレスの勝手な判断でドレイクをミグレイトしてしまったのだ。



ドレイクマスターになる条件で、様々な援助を受けていたにもかかわらず……である。





(寄付金とかもすごくかかったんだろうな……。一生働いてでも返さなきゃ……)




だが金銭的な事よりも、人の厚意によるものを無にしてしまった事が何より心苦しい。






セレスが慌てて窓辺を離れると、ナディアは差出人のタグに目を落とした。





「ミュッテン=ドレスガーデンからですって。……ミュッテン?」




「……あ!それ、ドナのお家のドレスショップ…」





ドナの名前にナディアが顔を曇らせ、セレスもまた込み上げる胸の痛みに声を詰まらせる。




あれからドナの消息は、ようとして知れない。




彼女の失踪と同時に、オルグは軍の急襲から逃れた。




この二つが偶然ではなかったとしたら。



助けられたとしても、秘密を知ったドナをライアンがどう扱うだろうか。





きわめて危険な状況に、セレス達は二人の繋がりまでも学院長に伝える事を余儀なくされた。




すぐに軍が秘密裏に捜索隊を指揮したが、依然足取りは掴めていない。






「この荷物、もしかしたら……」




ガサガサと包みを開き蓋を開け、目に飛び込んできた優しい色にセレスは息を飲んだ。




オレンジ掛かった薄いピンク色のシフォンレースがふんわりと腰の辺りから降りている。



少し大胆に開いた胸元はそれでも品よくシンプルで、華やかでありながらどこか可愛らしいデザインのドレス……。





「やっぱり……、ドナ……!」




ドレスを取り上げ、セレスはそれを抱きしめた。



胸に熱いものが込み上げて、せっかくのドレスを濡らしてしまいそうになる。





「……セレスに良く似合いそう。ドナ、いつのまにか頼んでおいてくれたのね……」




ナディアの言葉にセレスはドレスに顔を埋めたまま、何度もうなずいた。





優しいドナ。



この学院にやって来て、彼女の明るさと広さに何度救われた事だろう。




そんな彼女がこんな形で傷つけられ、今はいったいどこで、何を思っているのか……。






「……ドナは大丈夫よ。強い人だもの。人としてもドレイカーとしても。今はそれを信じて、無事を祈りましょう」





ナディアがセレスの肩に遠慮がちに触れる。




「うん……そうだよね。そう……ドナはきっと……」




顔を上げると、揺れるナディアの瞳があった。



バエナをミグレイトした時から、こんな風に目を合わせたのは初めてかもしれない。




「セレス。ドナが用意してくれたドレス……これを着て、あなたも創立祭に参加して」




「ナディア……でも私はもう……」




「私が言うのもおかしいけれど……あなたは誰かの為に自分とドレイクを犠牲にする事もいとわない、確かにドレイカーだった。国のドレイカー達の原点でもあるこの学院を、胸に刻んでいって欲しい」




ドレスが床に這うのも構わず、ナディアは膝を折ってセレスを見上げた。





「私の居場所をあなたは作ってくれた。感謝しています。今まで言えなくてごめんなさい……」




静かに頭を垂れるナディアの頬は、もう痣など目を凝らさなければ見えない。




吹き飛んでしまった右耳までは復元できなかったようだが、それでもその美しさはセレスを全ての後悔から遠ざけた。






「……もう創立祭が始まる時間だよ。ナディア先に行っててくれる? 私もこれを着たらホールに行くから……」





穏やかなセレスの声に、ナディアは顔を上げて小さくうなずいた。




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