【Ⅰ】
今日も森の入口でルードが待っていてくれる。
一秒でも、一瞬でも早く傍に行きたくて……
森に続く丘をセレスは走り出す。
やがて見えて来る、背の高い、黒い髪の後ろ姿。
セレスの足音に気付いてか、彼がふと振り返った。
「……ルードーー! ……あ……ああああっ! ちょっ……ごめん、そこどいてーー!」
くだり坂を全力で走るセレスの足は止まらない。
「ちっ……またかよ。よし、今度こそ止めてやる。来い!」
両手を大きく広げてルードが身構える。
眩しいほどの笑顔で。
「……ルード!」
自分を待つ胸の中を目がけて、セレスも両手を広げて地面を蹴った。
抱き留められた体が宙に浮く。
クルリとその場で回転して、着地成功。
「……今度は捕まえたぞ」
「うん……ありが……」
そのまま抱きすくめられ、お礼の言葉が途中で塞がれる。
まだ森の入口、人目につくかもしれない。
そんなセレスの心配など、ルードの唇はたやすく掻き消してしまう。
この上なく幸せで、満ち足りた時が流れていく――。
「……あ」
ふいに、セレスの足元を何かがヒヤリと撫でたような気がした。
「どうした?」
唇から離れ、ルードが眉をひそめる。
「何か……ううん、なんでもない。気のせいみたい……」
「お前……こういう時は集中しろ」
ルードがまた鼻をギュッとつまむ。
「いははは……ほめんなはい……」
それは予感。
笑顔を交わす二人に忍び寄る、闇のうねりの予感だったのかもしれない……。




