【Ⅶ】
「あのセレスティナに宿るのは、おそらくバエナという名を持つドレイク。アンフィスとバエナは唯一、つがいの習性を持つドレイクなのだ。転生後、出会う事でそれぞれが完全なる覚醒を果たす。そして、終には融合してこの国最強の真紅のドレイク、アンフィスパエナとなるのだ」
学院長の言葉一つ一つが、ファウストの身体を粟立たせた。
つがいの習性。
そして融合。
それは伝承にも文献にも、何一つ表れていない、間違いなく国家の機密だ。
「アンフィスは転生をする際、必ず公爵家の者を選び左目を糧とする。だが、バエナの方は右目を糧にするのは同じだが、その都度どこの誰に宿るかわからない。習性の事が公然と知れ渡れば、バエナの宿主やバエナ自身をなんらかの形で利用しようとする輩が必ず現れる。もしくは、アンフィスに出会う前にバエナを亡き者にされ、覚醒できないままのアンフィスを抱えた公爵家と国家はどうなる」
「国のシンボルでもあるアンフィスドレイクがいつまでも覚醒できない状態であれば……公爵家への信託は失墜し、ドレイクの存在そのものにすら、人は疑問を抱くようになるでしょうね」
コクリと頷いて、学院長はさらに声をひそめた。
「だからこそ、古来からこの事は公爵とその周りの信頼の置けるごく僅かな者にしか伝えられない。ルドセブ本人にすら、バエナと出会ってアンフィスが制御できるようになるまでは話せない」
「何故です。それを知っていればルードだってあんな思いをせずに済んだでしょうに」
「知れば、必ずバエナの宿主を探そうと動いてしまうだろう? ルドセブはアンフィスの宿主としてすでに各方面から注目されているのだぞ。そんな行動を取ればすぐになんらかの疑問を持たれ、探る者も出てくる。酷かもしれんが、代々アンフィスを宿した者がみな乗り越えてきた試練だ」
皮肉に漏らしたファウストのため息が銀の前髪を揺らす。
そして彼はおもむろに踵を返すと、スタスタとドアに向かいだした。
「まだ話は終わっていないが」
そう学院長がかけた声に、ファウストが背中で答える。
「終わりましたよ。まず、二人を秘かに会わせて覚醒を果たし、ルードを楽にしてやる。でも二人には緘口令を敷きますからご安心を。二人のドレイクがそれらしい行動を取らないように工夫もしますし、万一何かあっても握り潰します」
「……くれぐれも用心しろ。特に今はマスター堕ちが世間を騒がせている。子供の口から親につまらない噂が流れ、そ奴らの耳に入らんとも限らん」
ファウストはドアに手をかけ、肩越しに振り返った。
「上手くやりますとも。もう少しあなたの跡取り息子を信用してくれませんか。……それともまだ子供の頃の戯言を気にしてる?」
笑いを含んだようなファウストの物言いに、学院長は押し黙った。
「はは……やっぱりそうか。本当に僕には甘いんですね。ルードと同じように、試練だって言えばいいのに」
たまりかねたように声にして笑うファウストに、学院長は厳然として低く静かに問うた。
「待て。報告はさっきので全部か。他にセレスティナかルドセブの事で隠しているカードはないだろうな」
ドアを開け廊下に踏み出してから、ファウストは逡巡することなく答えた。
「ないですよ。報告は以上です」




