第二節
不幸なことと幸せなことは、最終的には5分5分の割合になるらしい。
ということは俺にもそろそろ幸せなときが来てもいいだろ?
今日は登校初日だってのに犬には吠えられるわチャリはパンクするわ道には迷うわ散々だった。ましてや最後にこれだろ?ハハハ、笑っちまうぜ。
……どうして俺の隣の席にこいつがいるんだ?
「……ハァ。」
「溜息なんてついて元気無いですね?」
「いや、別に(てめぇのせいだよ)。」
「あっ、ちなみに私初瀬美久っていいます。よろしくー。」
「あぁ、よろしく。……ってちょっと待て、それって本名?」
「はい、一字違いですね♪」
「ハハハ、一字違いだな、奇遇だな、全く。」
同姓同名じゃなかったことを感謝しておこう。
「そういえば美華君、教科書持ってますか?」
「あぁ、一応。」
鞄から教科書を出す……出す……?
「あれ?確かに入れたはずなんだけど……。」
あきらめず鞄を漁っていると、入れた覚えのない紙が出てきた。
「転校初日は教科書を忘れるものだ。父より」
「……ハハハ……ぜってぇ殺す。」
……まぁあれだ、王道だよな、確かに。これで消しゴム落としたりして、拾おうとしたら指が触れちゃったりして、お互い
「ごっ、ごめん」
とか言っちゃってさ、そこからラブストーリーが……っていつの時代だボケが!ナメンのも大概にしろや!
「……ハァ。」
全く、溜息をつくと1つ年をとるとか言うけど、だとしたら俺はぶっちぎりでギネスにのれるぜ。
「よく溜息つきますねぇ、溜息オブザイヤーもらえますよ?」
「いらねぇよ、そんなもん。」
いや、この前は欲しかったけどさ。
ちなみに今は国語の授業中で、教卓では白髪のおっさんが訳の分からん文を大げさな言葉遣いで寛大に読み上げていた。
何でそんなとこにアクセントをつける?そこは巻き舌で発音する決まりでもあるのか?国語教師に心の中でツッコミを入れ続ける。つーかぜってぇ独身だな、コイツ……。
「あの人って絶対独身ですよね?」
すぐ横から初瀬美久(17)電波系が言った。どうやらコイツと俺の思考回路には同じ部品が多数組み込まれているらしい。
「あぁ、多分独身だろうな。まぁそれはいい。問題は別にある。」
「あぁ、やっぱあそこは銀河鉄道の夜じゃなくて蜜柑ですよねー。」
「ちがう、俺は機械の体に興味はないし、今は夏だ。ハウス栽培はお断りだ。」
「…?……じゃあなんですか?問題って。」
「顔が近い、もう少し離れてくれ。」