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第一節

時が止まったような錆色の町は、夕暮れが似合ってしょうがないね。

セピア調の画面演出でもすりゃハリウッド顔負けだぜ、きっと。

「ハァ…なにが悲しくてこんな街に引っ越さなきゃならんのだ?全く。」初瀬美華(17)学生。今まで名前が女みたいという1点を除き別に悩みもなく暮らしていた俺にこんな災難が待ち受けているなぞ誰が想像しようか?

というか無理があるだろ?高2で引っ越しってどうよ?年頃じゃん。彼女とかどうすんの?いないけどさ。

まぁ、こういう時はあれだな、現実逃避。引きこもりだ!

「…ハァ…それはやだな、やっぱし。」

つーかなんで引っ越すことになったのかというと…。



一週間前美華宅夕食中

「そういえば父さん昇進が決まってな、来週から本社に行くことになったんだ。」

「へぇ、そりゃよかった。」

「だから来週までに荷物をまとめとくように。」

「あぁ。…ってちょい待てや!」

「どうした?」

「んで俺が荷物をまとめんといかん?一人でいきゃいいだろ?なんならお袋も連れてっていいよ。」

「それだとおまえが生活できないだろ?おまえの世話をしてくれるような娘さんがいれば話は別だが…。」

「ぐっ………。」

「ということで来週までに荷物をまとめておくように。」



で、今に至る。

「………ハァ、溜息オブザイヤーとかいう部門作ってくんねぇかな。」

まぁ絶対作ってくんないだろうがな。

「………帰ろ………ついでに三点リーダーオブザイヤーも欲しいな。」



「っーかあれだよな、んなこともっとはやく言えっての、マジありえ痛てっ!んだオイッ!って紙飛行機?俺様に攻撃するなんざいい度胸じゃねぇか。」

独り言を連発しながら空を見上げる、お巡りさんがいたら間違いなく職務質問だなとかいうコメントは受け付けません。

俺の頭上には塔?らしきものがそびえ立っている、全長は10メートルを超えるだろう。その隅の方に何かがはためいている。

ちなみに俺の視力は2.0、はためいているものがスカートだということを確認することにさして時間はかからなかった。

えーっと、色は…じゃなくて、自殺?この紙飛行機は遺書ですか?待て待て待て。

どうして俺はこう不幸なんだ?神様は俺に恨みでもあんのか?まぁんなことは置いといて……。

「はやまんなー!!生きてりゃいいことあるから!!」

ありったけの大声を出したつもりだが、彼女は聞こえてないようでまだ紙飛行機を投げている。

「敷島爆撃特攻隊、青木三等空兵、突艦いたします!」

とでも副音声を入れたいくらいの飛びっぷりだ。

現実逃避はこのくらいにしてどうすればいいのか考えよう。

シンプルに塔に登って止めるか?いや、登るまでに飛び降りたらアウトだ。下手すりゃ加害者にされる。どうする?もう塔の前の広場は紙飛行機で埋め尽くされてる……そうだ!その手があった。おれって頭いい!

靴で地面に文字を書く、はやまるな……じゃだめだ、入りきらん。ここはシンプルに……。

「はやまるなー!!」

デカデカと書かれた死ぬなという字をバックにもう一度叫ぶ。

今度は気づいたらしくこっちを向いた。が、俺の目は彼女が首を傾げたのを見逃さなかった。

「くっそ、バカ女が。今日はぜってぇ厄日だ。」

愚痴をこぼしつつ地面を蹴る。こうなったら首根っこひっつかんで引きずり降ろすしかない。

階段を一段とばしで駆けあがる、無駄に段数が多い。

「ゼェゼェ、制作者誰だ?こっちは急いでんだよ、もっと登りやすくしろや。」

足を酷使し何とか一番上まで登りきった頃には汗まみれだった。息も絶え絶え正面の扉を開ける。

「こんばんは。」

女の子が笑ってた。肩まで掛かる黒い髪にセーラー服が映えてイカすぜ(死語)。

「あぁ、こんばんは…じゃなくて。はやまんな!生きてりゃいいことあるから、俺も最近やなこと続きだけどさぁ、真面目に。だから死のうとか思うなっての。」

必死で説得する、多分ここまで必死になったのは学校の文化祭で女装をするという企画を拒否したとき以来だ。

しかし俺の説得は彼女に全く通じなかったらしく、首を傾げてしばらくした後あまつさえ笑いだした。

なんですかこの人?危ない人ですか?電波受信しちゃった人ですか?俺の中で疑問符スパイラルが発生し、エマージェンシーコールが幾度も繰り返される。

「クスクス、ごめんなさい。そう見えちゃいましたか?」

そろそろ頭の中で第三次世界大戦勃発というころ、彼女が驚きの新事実を口にし始めた。どうやら自殺というのは俺の誤解で、彼女はどうやら紙飛行機を投げるためにここに登っただけで、俺の努力はすべて無意味で、やっぱ彼女は危ない人だということが分かった。ハハハ、これだから人生っておもしろいよね。

「……じゃあ俺帰るんで、お騒がせしてすんません、それではごゆっくり。」

「さようなら、また会えるといいですね。」

別れ際の彼女の笑顔はかなり綺麗だった。もう二度と会いたくは無いがな。

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