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第二話


 大量の馬の蹄が大地を蹴る音が街道で響く。




「まだ着かないんですかグイルさん」




「着くわけ無いだろ!どれだけ離れていると思っているんだ」




 悪態をつく銀髪の青年と呆れる筋骨粒々な男性を先頭に滅竜師団第三部隊は突き進んでいた。




「お前の力を使って一飛びすれば一瞬だろうに」




「分かっていないですね、僕は最高戦力。


 云わば切り札というやつです、そうポンポン力を使えないんですよ」




 二人の雑談中に一つの声が差し込まれる。




「見えてきました‼アドン村です、既に竜忌教団に襲撃されている模様‼」




「よし、このまま北西の森を突っ切るぞ。そしてエル‼」


「はい!」


「お前は先に行け」




「仕方がないですね。じゃ、行ってきますよっと」 


 銀髪の青年エルは風に乗って地獄へと単身で突撃した。




      ◇  ◇  ◇




 山の中腹あたりに着いた頃だろうか、


 妙に神秘的な、月の雫が池に溢れる開けた場所に出た。




「一旦休もうか」




 願望が思わず口から出た言葉だった。


 その提案にリーナは俯いたまま僅かに首を縦に振る。




 青ざめた顔には苦悶の表情が浮かんでいた。


 木の幹に座らせ、近くに置かれていたバケツに、澄んでいる水を汲む。




「......」




 それを差し出すとリーナは黙って飲み干した。




 ガザザザザ‼




 遠くの森から木々を踏み荒らす音が響いてきた。




「追っ手だ!逃げるぞ」 




「あっ、待ってよリオ!」




 俺らは脱兎の如く駆け出した。


 そして周りには倒れたバケツと、水が溢れた跡が残った。




 ダッダッダッ!


 ガザザザザッ‼


 二人は必死に逃げていたが、二つの音は次第に、着実に近付いていった。




 そしてその距離は数百mという所まで迫っていた。


 まずい、このままだと絶対に追い付かれる⁉


 一心不乱に駆けていると尾根に到着してしまう。




 そこは森を抜けた先にある開けた場所だった。




「追いついたぞ」




 不気味な声がすぐ背後から聞こえてきた。


 振り向くと10mほど下に漆黒の外套を纏う従者が既にいた。




「手間を取らせやがって、さっさと俺らに着いて来れば良いものを」


 と言って奴はフードを降ろす。




 覗かせた顔は皮膚が焼け爛れ、右目には眼帯が付けられていた。




「リオ、貴方だけでも逃げて。私がなんとかして時間を稼ぐから」


 リーナは俺と男の間に立ち塞がり、大きく体を広げる。




「待ってよ姉さん‼それは...それだけは駄目だ。俺を残して行ってくれ」


 肩に手を置き反抗する。




「まったく、家族愛ってやつかい?泣かせるね~」


 男はナイフを持っていない手で、顔を拭う仕草を少し。


 そして着実に距離を縮めてくる。




「でも、お前弱いから無駄だよ」


 男は涙ではなく、ひしゃげた笑みを溢した。




「守りたくてもそれが出来なくて、惨めったらしく泣き叫ぶしかない」


 その歩みは止まらない。一歩、また一歩と。




「悲劇のヒロイン騙ってんじゃねぇよ、てめぇらはさっさと捕まってれば良かったんだよっ」


 男は手を伸ばした、あの時のように。




「ひっ」


 リーナの悲痛な声も、空に散る。




 ーー違うだろ、俺が助けないとだろ!




   逃げたい、泣きたい、




   またさっきみたいに誰かに任せたい、




   助けて欲しい、




   だけど今足を動かさないと、




   俺は顔を上げられない、一緒にいることさえ、




   だからーー




 俺は姉の体を引き、手繰り寄せ、間に割って入ろうとした。





 ーーあっ間に合わないーー


 そう思ってしまった。





 遥か上空。


 何故か吹く暖かな風。


 登る太陽。


 この時を待っていた。


 明るい貴方を待っていた。


 


 次の瞬間なにかが飛来した。




 エメラルドグリーン色の髪をした幼き少女、


 華奢な体に、金色の王冠、ヒラリと宙を舞う衣、


 背後には後光が指して、空を泳ぐ。




 彼女は存在だけで、男を退かせていた。




「ずっと待ってたよ、リオ!」




 太陽にも負けない笑顔に恐怖は消え去った。

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