プロローグ
「ヴィア!次の指示をくれ!」
「三秒後ウルフ右、十三秒後に主が真後ろ!」
「了解!」
光も届かない鬱蒼と繁る森の中で、私たち二人は魔獣の群れと戦闘を繰り広げていた。
『グルルルルァアアアア!』
咆哮と共に多数の木々を薙ぎ倒し、突進を仕掛けてきたのは魔獣の群れの主、グレーターウルフ。
一軒家ほどの巨体を持つそれは地面を砕きながら此方へと向かってくる。
リオは風の魔法を発動させ子分もろとも吹き飛ばし、大きく右にそれる。
そしてそのまま主はリオの背後にあった巨岩へと激突した。
今が好機、そう思ったのかリオはすかさず斬りかかる。
だが主は怯んでなどいなかった。
そればかりか、逆に隙をわざと晒したまであった。
回転しながらの前足での引っ掻きはリオこ体を抉った。
空には無造作に血飛沫と肉塊が撒き散らされた。
「あっ」
『やってしまったな』という表情と微かな呟きをひとつ残して彼は死んだ。
そして目の前に広がる血塗られた森は消え、変わりと言わんばかりに何もない黒い空間が現れた。
「また失敗」
私は再度能力を発動させる。
「ヴィア次の指示をくれ!」
光も届かないほど鬱蒼と茂った森に金髪の青年の声が響き渡る。
「三秒後ウルフ右、十三秒後に主が真後ろ!
それと今回は主に攻撃せず、合図をするまでは防御に徹して」
「了解!」
数秒後、遠くから踏み荒らすように鳴る足音と咆哮が聞こえてきた。
『グルルルルァアアアア!』
リオは風の魔法を発動させ子分もろとも吹き飛ばし、大きく右にそれる。
そしてそのまま主はリオの背後にあった巨岩へと激突した。
リオは先程とは違い片手間に子分を処理しながら様子を窺っている。
少し腹が立ったのか主はすぐさま向きを変えリオに噛みつきに掛かる。
だがリオは直線で向かって来る主に対し、魔法を発動させ大剣を軸にして、弧を描くように横から突進する。
その攻撃はモロに入り、頬に強烈な蹴りが放たれる。
両者の間には反動による距離が開いた。
リオは依然として防御の姿勢を崩さず、隙を見計らう。
主は唸り、口もモゴモゴさせ顎を揺らす。
視線は張った線みたく相手の眼球を捉えており、両者の膠着状態は続いた。
そして先に痺れを切らしたのは主の方だった。
主は駆けた。
だが先程とは異なり、リオを中心とした円を描く様に駆け回った。
物凄い速さを活かしてのヒット&アウェイ。
リオの視線が切れた瞬間に高速の鉤爪が飛来する。
そしてもう一度、またもう一度と何度も何度も攻撃が放たれる。
苛立った主が、大振りの攻撃を繰り出そうとした時。
「今だよ!リオ」
その合図を待っていたんか、リオは持ち手をクルっと回し逆手から直す。
そして丁度飛びかかってきた主に向かって一閃。
口から背骨にかけて一筋の赤い線が浮かび上がり、空中に血飛沫が舞う。
リオは血を払った大剣を背中の鞘へと納める。
「これで良かったかヴィア」
「うんありがとう。本当にありがとう」
「...なるほどな、今回はここまでってことか」
何故彼は気が付いたのだろう、私が今回の世界線を捨てていることを。
言葉だろうか、表情だろうか。何かからかはわからないが、彼は察したのだ。
「うん...ごめんなさい。私は貴方の可能性を否定してしまった。本当にごめんなさい」
そういうと彼は笑った。
「何兆もいた俺は可愛い契約精霊にこんなことも教えていなかったのか!」
私は顔を見上げた。
彼は輝いていた。彼は背後の太陽を萎縮させるほど輝いていた。
「俺は君の全てを肯定し、尊重し、許容し、愛している。だからヴィア、君は胸を張って生きたら良いんだ。他でもないこの俺が言っている。君はただ『ありがとう』と感謝をして託してくれ」
私は無い涙を拭うように当てた手を話して、彼を抱き締めた。
「責任、とってよね!」
淡い未来の可能性は霧散して消えた。
目に映るのはただ黒い黒い空間。
絶望?悲観?絶望?知ったこっちゃ無い。
私は手を伸ばし、ドアノブに手をかけた。
「行ってきます!」
『言ってらっしゃい!』




