十年前──運命はもう始まっていた
——あの日。
私が“公園の少年たち”のために書いた詞は、
世界的アイドル・セシュンの手によって
あっけなく奪われた。
ほんの一瞬の出来事だったのに、
私の世界は静かに、確実に書き換えられていた。
そして今思えば、
すべての始まりは——“あの公園”だった。
あの日のベンチで、運命は静かに動き出していた。
それが何を意味するのかを知るのは、
ずっと後のことになる。
——十年前。
私は、弟を亡くした。
病室の白いカーテンが揺れるたび、
現実がゆっくりと心に沈んでいく。
弟の手を離した私の肩に、
そっと触れてくれた人がいた。
小児科の先生——あの優しい女医さん。
「弟の分まで、しっかりと生きるのよ」
そう言ってくれた時、
九歳の私には言葉の意味よりも
“どうしようもない悲しさ”の方が大きかった。
病棟の端の自販機の前で、
私は小さなノートを抱えて泣いた。
弟のために絵本を書き、
外の世界を語ってあげることが
私にできる唯一の“夢”だった。
貧しい家には夢なんてなかったけれど、
言葉だけは、弟を笑顔にできた。
——その時だ。
一人の男の子が、そっと近づいてきた。
何も言わず、ただ私の手を強く握った。
その温かさに、
張りつめていた心が一気にほどけた。
声を出して泣きながら、
私は握り返すことしかできなかった。
——そして今。
あの日、私の手を握ってくれた少年が
世界的アイドル・セシュンだとは、
まだ気づいていなかった。
……そして彼もまた、
あのとき“泣いていた女の子”が
今の私だとは気づいていない。
あの時、泣いていた少女にそっと手を差し伸べた少年。
二人はまだ互いを知らないまま、
運命だけがそっと繋がれました。
ここから、二人の時間は静かに再び動き始めます。
この物語が、あなたの心にも優しい灯りを届けられますように。




