表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/74

8 勇者失格、メイド見習いは今日も台所で死にかける

《これまでのあらすじ》

リンは剣も装備もないまま突然勇者に認定され、教会から追い出される。

迷子になり襲われるも、魔王と狐のトミーに助けられ、魔界へ辿り着く。


魔王の住まいはゴミ屋敷で、リンは掃除を申し出る。

水晶玉で調べると勇者認定される年齢ではないことがわかり、教会の異常も判明。


魔王とトミーの優しさに触れ、リンは家事を任されメイド服に着替え、新しい生活を始める――。


「早速ですが、ここにある荷物は――触ってはいけません」


さあ、全部外に出すぞ!!

そんなリンの動きをみて、慌てて止めるトミー



トミーさんは相変わらず物腰は丁寧なのに、魔王秘書官だけあって、にっこり笑って怖い。


その後ろで魔王さんは、布団の中でまだ寝返り打ってる。魔王さーーーん!


「このあたりの荷物、すべて魔王さまが引き取った曰く付きの品でして。一般的な魔物たちでも対応困難ですから」


言いながら、床に転がった黒い鏡にさりげなく結界札をペタリ。


ん?今鏡の中でなにか動きませんでしたか?



「魔王さま、優しいところがありますから……処分が、できないんですよね」


トミーは汗を拭う


くーーっ!魔王さんらしい!

その間違った優しさの方向!

いや、わたしもそういうの嫌いじゃないけど……!


なんだったら、わたしもそんな曰く付き物件そのものなんですけど、このゴミたちと同じかと思うと泣けてくる



曰く付きの物には、曰くがあるんです。


たとえば――


「愛していたのに騙されて、捨てられて、身を投げて、憑いた」


「貴族だったけど、夫がアポンでギロチンされて、憑いた」


「戦争で死んで帰れず、ただいま代わりに棚に憑いた」


トミーさんは、冷静にさらっと紹介してくる。

でも淡々と話すあたり、慣れてるんだろうなあ。


「魔王さまにとっては、そういう怨念も“話しかけられるうちが華”らしいですよ」


「え、人生相談とか乗ってそうですね……」


「乗ってますよ?たまに夜通し一人で語ってるとヘビーです。もう寝なさいっていわないと魔王も怨念も話し続けますからね」


うわー。やっぱりだ。


……でも、そういうの嫌いじゃない。

魔王さんのそういうところ、むしろちょっと好きかも。


なんだったら、昨日の私じゃないですか!それ!

このゴミと同じかと思うと再び泣けてくる!




「だからですね、リンさん。こっちに来てください」


トミーさんが次の扉を開ける。


ふわぁあああああっと、


むわっと、くっさ!!


独特の腐臭と、カビと、ホコリと、もう全部!


「ここは台所です。ご安心ください、これは純粋に我々が洗わずに放り込んだ鍋と食器たちですので、怨念はありません」


「いや、別の意味で怨念が篭ってる気がするんですけど……?」


「安心してください。ここは掃除していいです。というか、してほしいです」


そう言って、トミーさんは鼻を押さえながらにっこり笑う。

こっちは思いっきり圧かけてきてるのに、笑顔だけは紳士なんだよなあ。


「需要と供給のバランス、完璧ですね」


「うれしいです。やりたい人と、やってほしい人がかみ合うのは久しぶりです」



台所の隅は――なんだろう?

空気すら紫色に変わって、もわもわと漂ってるんですけど!!



でも、ここまできたら止まれない。

だって、わたしメイドですから!


ええい、ままよ!!


勢いよく息を吸って――

わたしは、そっと鍋の山に手を伸ばした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ