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《完結》聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます  作者: かんあずき


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番外編 えっ!まだ結婚してなかったの!?(後編)

魔界には、魔王やその家族、そして職員たちの健康を管理する専門病院がある。


その名も──魔界保健病院。


俺は、その正面玄関に勢いよく飛び込んだ。


「……リンは、ここにいるはず」


目を閉じると、魔力の波が感じ取れる。……三階だ。間違いない。


だが。


周囲の視線が一斉に突き刺さってきた。


……あっ


魔王が病院に全力疾走で突撃してきたら、そりゃ目立つか。


慌てて背筋を伸ばし、汗をぬぐいながら微笑み、涼しい顔を作る。見舞い客たちの視線も、徐々に“魔王さまどうしたのかな?”くらいに落ち着いてきた。

助かった……。



さて三階……三階……ええと


「……産婦人科」


……………………え?


………………えええええええ!?


冷や汗が噴き出してくる。


「俺、リンに……なに、した……!?」


思考が真っ白になる。

やばい、やばい、やばい。


リンは今、どれだけ不安な気持ちでここに来たんだ?


思い当たることがありすぎる


俺との子のことで受診だよな

一人で、病院に? え、なんで?


「……スネク!!!」



──違う。

スネクはわざと今のリンの置かれた状況を知らせてるんだ。


リンは魔王の妻であり“皇后”

本来なら、医者を呼びつけることができる立場だ。


なのに自分でひとりで病院に来てるってことは──


「俺が、魔王の妻としても皇后としても、それだけの立場のものだとリンにも周囲に対しても振る舞ってなかったからだ..…」


血族の姫じゃない。魔界にたった一人の人間。

後ろ盾もない。


リンは、誰よりも強くて優しくて、皇后の教育も受けて、みんなのために瘴気の浄化もして……

それなのに、俺の愛する妻で、皇后として振る舞える立場を俺がちゃんと作ってやらなかった。


このままでは、リンは都合よく使えるただの聖女になってしまう。


リン、ごめん。今行く。

ちゃんと迎えに行くから──!


立場はともかく、本人の認識とは裏腹に、優しい聖女の皇后としてすでに国民の知名度は上昇中だった。

三階の待合室。

リンは一人で座っていた。そのため、人目を気にしながら、小さくなって。


その姿に、胸がギュッと痛くなった。


「リン、ごめん。待たせた」


俺に気づいたリンが顔をあげる。不安そうな瞳。


「魔王さま……」


「一緒に診察受けよう。不安だったよね。本当にごめん」


俺は人目も気にせず、彼女を抱きしめた。

リンは、ほっとしたように涙を流しながら頷いた。


すぐに医療スタッフを呼び、リンを連れて転移。

皇后の間に戻り、専属の侍医を手配した。


──結果、リンには新しい命が宿っていた。


嬉しい。俺とリンの子どもだ。

人間と魔王の子供。初めての存在。

不安より、喜びが勝った。自分でも驚くほどに。


「……父さんも、こんな気持ちだったのかな」


俺はそばにいて、毎日、伝えていくつもりだ。


「大丈夫。そばにいる。生まれてくるのが楽しみだよ」


そして、リンの前に膝をつく。


「リン。魔界の価値観だけで動いて、君の“当たり前”を無視してた。ごめん。

俺と、結婚して欲しい。正式に。君を俺の妻として、皇后として迎えたい。俺たちの子の、母になってほしい」


リンの左手の薬指に、魔力を流し、契約を刻む。


──契約する。俺は生涯、君以外の妻を娶らない。

君とその子に、永遠の愛を捧げる──


リンは、涙をボロボロ流した。


「契約しちゃったら……魔王さま、再婚できなくなっちゃいますよ。私、人間なのに。ほんとに、皇后で……いいんですか……?」


「もちろん」


俺は、そっと号外新聞を見せた。

“魔王とリン皇后に第一子か?

ーー病院で抱き合う写真付きだ。


リンは顔を真っ赤にして、うわあああっと叫んだ。


「君が思ってる以上に、国民にとって君はもう立派な皇后だよ。これからは僕と同じ扱いを受けてもらう。

あと──俺が再婚?するわけないでしょう?

君は僕以外と再婚するの?」


「私は、再婚なんて……」


「じゃあ、俺の再婚も心配しないで。君以外、考えたことない」


「……人間と魔王の子が、うまく育つかも分からないのに……」


「それでも。子供ができないからって、別の女性を──なんて、俺は絶対に許さない。そんな価値観、未来に残したくない」


そっと、リンのお腹に手を当てる。


「……うん、元気だって。男の子だね」


「わかるんですか……?」


「耳もいいし、手でも分かる。魔王って、意外とすごいんだよ」


「じゃあ、早く気づいてくださいよ……」


「ほんとにな。反省してる」


苦笑いしながら、俺は決めた。


「安定期に入ったら、内輪で披露宴しよう。みんなにちゃんと祝ってもらおう」


リンは、嬉しそうに頷いた。


* * *


後日──


トミー夫婦、ウンディーネ、ネレウス、スネク、オーガ、ネズミイたちに囲まれて、内輪の披露宴が行われた。


オーガとネズミイが作ったウェディングケーキにナイフを入れ、魔王の俺とリンは食べさせ合い、みんなの前で冷やかされながら誓いのキスをする。


みんなが笑っていた。祝福してくれた。


あと少しで、ここに“子供”という新たな家族が加わる。


幸せな時間が、確かに流れていた──。







応援ありがとうございました。

完結後なのに番外編を書くことがよいのか、迷いながらだったので、できる限り本編のような番外編を作成しました。

まだ、二作目なので、ちょこちょこ整合性の合わない部分の直しをしております。

これでこの作品は完結ですが、その後数十年後の話を新シリーズで出します。よかったら、ブクマや評価をいただけるとうれしいです

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