番外編 えっ、まだ結婚してなかったの!?(前編)
いろいろあったけど、リンは俺の妻になった。
……と思ってた。
今では、魔王の仕事も手伝ってくれる。
各地の視察や浄化もしてくれる。
心強いパートナー ーーの、はずだった。
「魔王さま、その……言いにくいんですけど」
と、リンが口を開く。
「ん?」
俺が振り返ると、リンは少しだけ顔を赤らめていた。
年相応に見えはじめたリンは、たまにふと色気をまとうようになってきて、正直ドキッとする。
できることなら、誰にも見せたくないくらいだ。
ああ、結婚しといてよかった……。
「その、わたしと……結婚される意思は、おありでしょうか?」
リンの声は、恐る恐るといった感じだった。
「……え?」
俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
「みんな、皇后のように扱ってくださいますけど……でも、正式にそうなったわけじゃないのに、堂々としてていいのかなって。いろいろ不安で……」
⸻
えっ、待って!?
いや、プロポーズしたよね?
「……プロポーズしたよね? おにぎり一緒に食べるって約束して!」
俺が慌てて言うと――
「はい。ちゃんと食べてます」
リンは真面目にうなずいた。
「……あれ、プロポーズ……だったよな?」
「はい。私は、そう受け取りました」
よかった。きちんと受け取ってもらっていた
けど、プロポーズって、それでいいんだっけ……?
「それに、魔王会議でも言ったよね!“リンを妻にする!”って!」
「そのあと、反対されて、浄化で耐え切れず、私倒れました」
「!!???」
そういえば、あの日、ファーストキスして“まだ妻じゃないけど先走った“って言った記憶がある。
会議終わった直後で、周りの反応も確認してないから、そういったんだけど...今日から妻だよとは言わなかった
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いやいやいや!
みんなが“魔王の妻”として見てる
俺も、そうだし、もう普通に夫婦してるし、っていうか……
いつ子供できてもおかしくないレベルなんだけど!!!?
まさか、リン……独身だと思ってた……!?
俺、まさか無責任な最低男になってないか!?
結婚もせずに未来の約束して、手だけ出してるとか、終わってるだろ!
「リン、俺の妻は君だけだよ。……でも、たしかに言葉足らずだった。ちょっとだけ時間が欲しい!」
そう言い残して、俺は執務室にダッシュした。
「ウンディーネ! ネレウス! 出てきてくれ!!」
机の上の魔石に叫ぶと、めんどくさそうな声が返ってきた。
「……なによ、魔王さま。そんなに大声出さなくても聞こえるわよ」
ウンディーネがひょこっと出てくる。
その後ろからネレウスもついてきた。
このふたり、どう見ても夫婦みたいに見えるけど、実際は違う。愛があるけど夫婦じゃない。それを思い出すたび、なんか余計に気分が落ちる。
⸻
俺が事の顛末を説明すると――
「はあ……」
と、ふたりそろってため息。
ネレウスが眉をひそめた。
「結婚指輪、ないんですか?」
「え? ウンディーネにあげたみたいなやつ?」
ウンディーネが即ツッコミを入れる。
「それ婚約指輪ね。結婚指輪は、お互いの指にはめるの。リングは切れ目がないから、永遠の象徴よ」
ネレウスが補足するように言った。
「所有欲的にも“俺のもの”って意味ありますよね」
「……魔界、種族で指の形違いすぎて売ってないんだけど。作ったら、結婚ってことになるか?」
ウンディーネが首をかしげる。
「うーん、普通は教会で神に誓って、指輪交換して、誓いのキスして、みんなに祝福されて、結婚届出して――それでやっと結婚かな?」
「教会の神父って……ガブリエルか? 死んだぞ!」
ウンディーネがニヤッと笑う。
「ちなみに教会の女神は、わ・た・し♡」
「それは却下だ」
⸻
ネレウスが空気を変えようと口を開いた。
「それと、披露宴もするよな」
「魔王会議で披露したけど……?」
「反対されて倒れたんでしょ? 披露宴って“おめでとう”の場だから、反対されちゃ意味ないよ」
ウンディーネが指を立てて言う。
「あと、会議と宴は別よ。関係者みんなが“おめでとう”って言ってくれる場が、披露宴」
――つまり、リンの中では“結婚してない”。
⸻
「よし、やり直す! 人間界方式で、ちゃんとプロポーズしなおして、指輪作って、結婚する!」
急がなきゃ。
リンはかわいくて、やさしくて、明るくて、美しくて、しかも聖女。
未婚ってバレたら……狸の息子あたりに攫われる可能性すらある!
俺、そんなことになったら確実に狂化する。
⸻
「それが……ちょっと待って」
と、ウンディーネが言いにくそうに口を開いた。
「指輪、本当に必要か、本人に聞いた方がいいかも」
「……俺、いらないってこと?」
「ちがうちがう! そうじゃないの!」
ウンディーネは焦って手を振る。
彼女は最近、リンが時々吐いているのを見ていた。
――指輪よりも、大事なことがあるのかもしれない。
浮腫みやすい体に指輪は向かないし、なによりリンが不安がっているのは――
“未婚のまま母になるかもしれない”ってこと。
でも、それを魔王さまがまだ気づいてないのが、いちばんの問題だった。




