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《完結》聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます  作者: かんあずき


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67 あなたを守るためにわたしは風になった

エアリアさんがくるっと一回転して、笑顔で言った。


「はーい! リンちゃんの疑問、第一部にお答えしました〜! 今度は、私のお願いを聞く番ねっ」


「えっ!? 今ので第一部ですか!? もう、お腹いっぱいですっ!」


思わず声をあげる。いや本当、満腹どころか胸がいっぱいで、なにが聞きたかったのかすら忘れかけてる。


「やだ〜、ガブリエルのことを知りたいってスネク姉さんにきいたの、リンちゃんでしょ?」


ぷぅっと頬をふくらませるエアリアさん。


「……ガブリエル……もう、どうでもよくなってきました……」


「ふふっ、リンちゃんおかしい」


笑い声まで、いつものエアリアさんだ。

“母”だと言われても、見た目はどう見ても二十歳そこそこ。きっと早くに亡くなったから、姿が止まってるんだ。


「お願いって、なんですか?」


「そこの本棚の隠し扉、開けてほしいの〜」


「隠し扉?」


「うん。リンちゃん、ずっと部屋の隅っこに座ってるから開けるタイミングがなくて〜」


言われて、本棚の前まで行ってみる。エアリアさんが触りたがってた赤い本に手をかけると……ん? 引っ張っても抜けない。


「違うの、それね。押すの」


言われるままにグッと押し込むと、ゴウンという重い音とともに、壁が少し開いた。奥に人一人が通れるくらいの通路が現れる。


「……これが、隠し部屋……!」


「だから言ったのに〜、リンちゃん全然見てくれなかったんだもんっ」


笑いながら先に入っていくエアリアさん。慌てて後を追うと——


突然、彼女が立ち止まる。


視線の先には、絵画が飾られていた。

若いエアリアさんと、優しげな青年。そして、赤ちゃんを抱いた二人。


「……バル様……バル様、会いたかった……」


エアリアさんが、ぼろぼろと涙をこぼした。


「記憶がね、どんどん風みたいに消えていきそうで……顔が思い出せなくなるのが怖かったの。だって、バル様はもういないのよ。あの世にも。魔王討伐のあと、瘴気で魂ごと焼かれてしまったから……。歴代の魔王さまの魂は、誰一人残ってなかったの。だから……せめて、絵だけでもって……」


エアリアさんの涙が、床を濡らす音がする。

私は、どうすればいいのか分からなかった。ただ、一緒に泣いた。


誰も救われてない。


バルグレイスさまも。エアリアさんも。そして、今の魔王さまも——。


「……真実を知るだけじゃ、ダメなんだな」

思わず漏れた心の声。

強さと、覚悟がいる。誰かの過去を受け止めるには。


人間の私は、いずれ先に死ぬだろう。

でも、その先に見える未来が、少しだけ分かった気がした。

エアリアさんは、私の未来の姿だ。


やがて、エアリアさんがぽつりと話し始めた。


「……ガブリエルが、憎かった。アルデリアや他の人間を見て、すべてが悪とは思えなくなったけど……あの時、あの子たちが魔界に入ってきてしまったせいで、バル様は……狂化してしまった」


「……!」


「瘴気を撒き散らしながらやってきたガブリエルたちは、無意識に魔界の門を開いてしまったの。夫を殺され、この間は息子まで瘴気に堕とされかけて……。何もできない自分が、情けなかった。だから、偶然が続いて、私はガブリエルのところに辿りつけた。これを逃しちゃダメだと思ったの」


“偶然”じゃない。

それは、周りを巻き込まないように動いた、彼女なりの優しさだった。


「……バル様に、会えてホッとしちゃった。リンちゃんにも話せたし……。私ね、実は精霊契約を解除してもらおうと思ってたの」


「えっ……でも、そうしたら……!」


「うん。消えちゃう。でも、大丈夫。息子を守れた。バル様に、久しぶりに会えた……。もう、それで十分なの」


そう言って、エアリアさんは微笑んだ。

涙を流したあとの笑顔は、風みたいに優しくて、静かだった。



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