60 今こそ母として動く時
スネクの姿勢はいつも正しくまっすぐで、ピンと張り詰めている。
そして、廊下を歩くと威圧感が半端ない。
その道は彼女のためにある!
と周りが思わず思ってしまい道を譲ってしまう
彼女が一直線に向かうのは、夫がいる厨房。
ああ、厨房長!ガンバ!
心から声援こそ送るが、別にスネクが厨房に顔を出すことに誰も疑問は持たない。
ーーー
そんな厨房は、唐揚げの香りで満たされていた。
「……鳥が鶏肉食ってご機嫌って、どうなんだ?」
オーガが渋い顔をしながら、伝書鳥用の山盛り唐揚げを皿に盛っていく。
「まあ、伝書鳥は魔鳥ですし。魔族の一種ですし」
ネズミイがいつも通りの口ぶりで答える。
「魔王さまの忠実な相棒が唐揚げで機嫌取れるなら、安いもんだけどさ」
唐揚げの山を前に、オーガはひと息ついた。
そのとき、厨房の扉が静かに開く。誰もが振り返りもせず、姿を見ずとも分かった。
スネクだった。
「魔石、拾ったわ。ウンディーネのかしら。姿が見えなかったけど」
「ウンディーネなら、彼氏が精霊になりたてなんで、指導中です。」
ネズミイがあっさり言う。
「でも、リンの部屋にウンディーネの魔石があったような?それエアリアかも?」
スネクは小さく頷き、厨房の奥、オーガの傍へ歩いていく。
魔石を、そっとオーガの手元のテーブルの上に置いた。
「ウンディーネに確認、お願いね」
その一言だけを残して、また音もなく去っていった。
「ひぃ〜、なんか言われるかと思ってドキドキした……」
オーガがこめかみを押さえながら、魔石を手に取る。
「じゃあ、俺、伝書鳥んとこ行ってくるわ」
大盛りの唐揚げと魔石をオーガが手にもって外に出る。
ここまで、誰も疑問に思うことはない。
伝書鳥の部屋。
オーガは山盛り唐揚げと魔石を運び、無言で机に並べた。
その瞬間、魔石の中から、風が生まれた。
「義兄さん、ありがとう」
現れたのは、風の精霊・エアリア。
「……いいのか?」
「ええ。考えた結果だから後悔はない。それに、夫が生きてても、なんとかあの子の手助けになりたいと動いたはずよ。」
静かにそう言って、エアリアは伝書鳥に向き直る。
「久しぶりね、伝書鳥。唐揚げ食べたら、お願いしたいの」
伝書鳥は一瞬、驚いたように目を見開いた。
でも次の瞬間、その瞳が黒ダイヤのようにキラリと輝く。
「じゃあ、すべて終わって戻れたら回収よろしくね」
オーガが頷いた。
そして、わざとらしくオーガが大声を張り上げる。
「おーっ!? いけねぇ!窓、開けっぱなしだったー!!
ああっ、伝書鳥が飛んでっちまった〜〜〜〜!!!」
バサッ!!
伝書鳥は唐揚げを食べ終えると、魔石をくわえ、一直線に空へ。
羽ばたくたび、窓から風が吹き込んだ。




