5 わたし、17歳でした。勇者なんてやっぱりムリです
《これまでのあらすじ》
リンは剣も経験もないまま、突然勇者に認定され教会から追い出される。
ギルドで笑われながらも、黒い鳥に導かれて紹介状を持ち旅に出るが、迷子になり危険に遭遇。
謎の黒い男と狐の助けで命を救われる。
やがて魔王が用意した場所に辿り着くが、そこは廃墟のような家とゴミ屋敷だった。
それでもリンは、不思議な安心感を覚え、新しい生活の始まりを感じていた。
「すいません……お掃除したいです。いえ、させてください!」
ゴミ屋敷を見たリンはもう半泣きで、手をぎゅっと握りしめて頭を下げた。
「いやいや……ギルド長のマクライアから“至急対応”って連絡だったし。こっちも慌てて飛んできただけなんだ」
魔王は頭を掻きながら、明らかに困った顔をしている。
「数日中には綺麗にするつもりだよ。君みたいな……小さな子にそんなことはさせられない」
「いえっ!わたし、こう見えても十八歳なんですっ!」
勢いよく顔を上げたリンの目には、決意と涙が混じっていた。
「こう見えても……間違えてても、勇者らしいんです! だから、お掃除……させてください!」
「……」
魔王とトミーが揃って固まった。
――言ってることが支離滅裂だ。
「でもさ……」
魔王はリンの全身をじっと見つめ、首をひねる。
「人間の十八歳にしては、あまりに小柄すぎる気がするんだけど……なぁ、トミー?」
「しっかりしたお嬢さんだとは思いますけどね。けど確かに、体つきがちょっと――」
「違うんですっ!」
リンはぴょんと一歩前に出て、胸を張った。
「ボインじゃないだけなんです!!」
「……は?」
「勇者に必要なら、ボイン、頑張って目指します!!だから、お掃除だけでも……!」
「いやいや、ボイン関係ないからね……」
魔王は片手で顔を覆いながら、深いため息をついた。
しかし、ふと....まてよと顔を上げる
「この中に何かあったはずだ!」
唐突に魔王が思い出したように叫び、ゴミの山へと突撃する。
「え? ちょっ、魔王様!? 三種の神器まで投げてるじゃないですか!」
「これは違う、これはゴミ! ……いや、これは神器! これは……ゴミ!」
ドンガラガッシャン!
ガラクタが飛び出すたび、トミーが慌てて外に放り出された神器を拾って中へ投げ返す。
「いやいや!だめです! 出す! 分ける! 減らす! しまう!が片づけの基本なんです! すぐ戻しちゃだめなんです!」
リンが手をぶんぶん振りながら、掃除ガチ勢のテンションで割り込んでくる。
「……あ、あった! これだ!」
魔王が埃まみれの水晶玉を取り出した。
「これに君の血を……その傷、ちょうどいいな。ちょっとつけてくれる?」
「えっ、血を!?」
「大丈夫、怪しい儀式じゃないから。ただの年齢確認用」
リンはおそるおそる、指先からにじんでいた血を水晶に垂らした。
ぼわっ!
水晶が淡く紫色に光り、柔らかく周囲を照らす。
「……おお、やっぱり」
魔王が覗き込みながら頷いた。
「一歳違うな。君、十八じゃなくて、十七歳だ」
「えっ!? わたし、十七!?」
「いやまあ、どっちでも変わらないけど……体格的にはやはり小さいが、勇者認定が誤認だったことは納得だな」
「たしか、教会の聖女認定は18さいだよね。どうして18歳前に聖女認定試験を受けようとしたんだい?」
魔王さま、人間の聖女認定のことよく知ってらっしゃる。
そうか、18歳以上の認定試験を17歳が受けたから間違えて勇者が出たのか。
「私捨て子だから、大体のところの正月が誕生日になるんです。だから18歳だったんです」
捨て子という話を聞き、トミーの顔は曇る。
「てっきり教会の水晶が壊れてるのかと……。
前の日からチカチカしてて、おかしかったんです」
「チカチカ?」
「はい。光がついたり消えたり……。それで、今回の聖女認定試験、大量発掘されて……まるで“聖女のバーゲンセール”でした」
魔王とトミーが目を合わせた。
「……教会の“聖”の力が落ちてきているのかもしれないな」
「マクライアからも、同じような話が来てました。だから……魔界との門が不安定になってるんですよ」
「……え?」
リンの目が点になる。
「それって……つまり……」
「そう。“魔王復活”が近いってことだよ」
魔王はがらくたの山にどかっと腰を下ろし、ぽつりとつぶやいた。
「別にしたくてするわけじゃないんだけどね……」