52 耳で戦う一族の末路が、想像以上にカオスだった件
「それは、エアリアがわたしのためにしてくれたことだ。
すまない、トミー。だが、立場上、誰であろうと、たとえリンであっても、きちんと調べなければならない」
魔王は、トミーをみつめて話した。
トミーはため息をついて、肩をすくめた。
「……わかってますよ。そういう方ですから、魔王さまは」
そして、魔王は静かに、深く頭を下げた。
「それと――お前に、謝らなければならない。魔王になったばかりの頃、本当なら、お前の母を失った悲しみに一番に寄り添うべきだった。それなのに……私は、お前に甘えてばかりだった。家のことも、もっと――私にできたことがあったかもしれない」
その姿に、トミーの目がわずかに見開かれる。
スネク式帝王学において、王が頭を下げるのは最も避けるべき行為。
けれど――彼は、それをせずにはいられなかったのだろう。
「……魔王さまが、謝る話じゃありませんよ。これは、私の家の問題です」
トミーの声は落ち着いていたが、どこか遠くを見ていた。
「母が死んだあの日。家族は皆、心を折られました。私も……悔しさと同時に、助けられた負い目があった」
ふと、トミーはリンのほうを見た。
「前に話しましたよね。マクライアさんに尻尾を狙われて、反射的に尻尾で叩いて怪我させたって」
リンがこくりと頷く。
「……あれ、嘘です。尻尾は狙われただけで傷もない。
むしろ、マクライアさんが私を庇って怪我をしたんです。 だけど……情けなくて、誰にも言えなかった」
静かな声に、部屋の空気が一瞬だけ重くなる。
「だから私は、過去と決別するために、母との最後になった服を脱ぎ、魔王さまに尽くすと決めたんです。」
トミーさんは魔王に確認するようにうなずいた
「私が恨み言しか言わなかった時、誰よりもつらかったはずのあなたは、マクライアを裁かず、ウンディーネさんも見捨てなかった。なのに、私は……誰も救えなかったから」
ほんの少し笑って、トミーは続けた。
「でも……そのせいで、私は一族を裏切ったような気がして、実家と疎遠になっていきました」
そして、ふと真顔になる。
「……ある日、長兄が怒り狂って飛び込んできたんです。“父が、ブラッドバニー一族との戦いで陥落した”って」
「陥落……?」
魔王が眉をひそめる。
「ええ。九尾一族の宿敵である、うさぎ耳のブラッドバニー族。……うちの一族との争いの理由、わかりますか?」
「えっ、えっと……領地とか、資源とか?」
「いいえ。“耳、どっちが尊いか”です」
「…………耳」
その場が、固まった。
「母は強くて、耳だけじゃなく九つの尾で圧倒してたから、ずっと我が家の圧勝でした。でも……母がいなくなった途端、父がボロ負けして。その戦いを見ていたブラッドバニーの女性が、あまりにも意気消沈している父を慰めて……そのまま結婚。そして――婿養子に入ったんです」
「……は?」
「兄たちもリベンジに向かったのに、次々と落ちていって、全員うさぎ耳に陥落。そして家を捨てました」
「ちょっと待って、それ聞いたことないんだけど!?!?」
「誰にも言いたくなかったんですよ!! 恥ずかしいし!」
「いや、うん、それは……確かに……」
「でも、もうバレましたし。隠す必要もない。
今回、みなさんが前に進んでるのを見て、私も区切りをつけようと――母に形見の服を返して、墓参りしてきました。そして……」
「そして?」
「――城で一緒に働いているブラッドバニーのバニーさんと、婚前旅行でプロポーズしてきました!!
「ええええええええええええええ!?!?」




