51 マクライアを殺したのは誰?――沈黙する精霊と、帰ってきた男
「えっ!? マクライアさん、亡くなったんですか!?」
トミーが部屋に入るなり叫んだ。
皇后の間。
机の上には地獄山温泉まんじゅう、魔界海サブレ、天界のタルトなど、見たことない魔界土産が山のように積まれていく。
「土産を置くスペースがないですね」
リンは急いで、台を追加して、お茶の準備。
メイド服姿で右往左往する彼女の横で、魔王はいつも通り無表情。
ウンディーネとエアリアは、実態がない。
「私たちも食べられるお菓子がないじゃない!」
そんなお菓子最初から存在しない。
そのため、お茶もお菓子も手をつけられず...
やや不機嫌な顔をしていた。
そして、場の空気が固まる。
さあ、お茶の準備できて、和やかな土産話...
とはならないのは当たり前。
まるで警察取り調べ24時のような怒涛の会話が始まる。
「トミーさん、私たちのこと、許せなくて当然だよね。
でも……マクライアをやったのって、あなた?」
ウンディーネが、直球を放った。
「ウンディーネさんっ!?!?」
それは直球すぎ!!
リンとエアリアが、同時に息をのむ。
魔王はじっとトミーを見ている。
嘘をついても、見抜ける目だ。
そのシーンとした空間が痛い。
いつもなら、魔王さまがボケ担当なのに!!
「え、わたし!? ないないないない、ないですってば!!突然何を言い出すかと思えば」
トミーは目を見開き、汗を拭く。
その汗を拭う姿をみて、更にキランとウンディーネの目が光る。いや、目がじゃっぶんじゃっぶん波打ってる!
トミーはそれをみて、更に両手を振る。
「そ!そうだ!!」
カバンをごそごそ漁り始めた。
「えーと、まずその日、地獄山にいました。はい、証拠。まんじゅう買ったときのレシート!」
取り出したレシートには、マクライアが亡くなる前の時刻がはっきりと印字されていた。
「えっと?地獄山ってそんなに離れてるんですか?時差あります?」
「……魔界と人間界に時差はないわ。このレシートの時間は、人間界の時間と同じよ」
とエアリア。
「でも、すぐ転移で戻って犯行ってこともありえるんじゃ?」
とウンディーネ。
「いやいや、そんな簡単に行き来できるの、魔王さまや精霊クラスだけですよ!? 私、普通の魔族なんで!」
魔石に入れるのも、精霊だけですし!!
トミーは焦る。
魔王さまをみると頷いているからそうなんだろう。
トミーはさらに領収書を出す。
「で、その夜は魔界海に行って一泊しました。地獄山から銀河鉄道の夜行で5時間。深夜着でチェックイン」
なんか、こんなシュールな状況じゃなければ、もっと聞いてみたい話だな。
魔界海....荒れ狂ってそうだけど。
地獄山??なんか痛そうなネーミングだけど!
銀河鉄道...猫の車掌さんとか出てきそう。
魔王さまと...行きたいなあ
ちらっとリンが魔王をみると、それに気付いたのかくすくすと微笑む。
少し場が緩くなってほっとする。
だが...
「……これがホテルの領収書?」
リンが手に取って見つめる。
「……泊まったの、二名?」
その場に沈黙が落ちた。
「一緒に泊まった人物は、証人になるか?」
魔王が、鋭い目を向ける。共犯者の可能性もある。
「……なれますけど。彼女に、そんなことさせるつもりはありません」
トミーは真面目な顔をして、キッと睨む。
一気に雰囲気が深刻な雰囲気に変わる。
だけど、だけど。口滑ってませんか?
「彼女!?」
全員の声が跳ね上がる。
「えっと……彼女さんと……旅行へ?」
リンがおそるおそる尋ねる。
トミーは、しまったという顔になり――ピタリと口を閉ざした。
「黙秘します」
「はっっっやしい!!」
ウンディーネが机をバンッと叩いた。
「だって、あなた“里に帰る”って言ってたじゃない! 」
「私見てきたのよ。あなたの里――もう誰もいなかった。家は崩れて、草が生い茂って……!」
エアリアの声に、空気が変わる。
トミーの表情が、一気に冷えた。
「――俺のこと、勝手に調べたんですね?」
まっすぐこちらを見据えるトミーの目に、さっきまでの陽気さは一片も残っていなかった。
「誰だって、知られたくない過去くらいあるでしょう。
俺にだって……守りたかったものくらい、あるんですよ」
低い声。抑えられた怒りと、なにか別の想いが滲んでいた。




