4 勇者だけど、廃屋で暮らします
《これまでのあらすじ》
リンは突然、勇者に認定されてしまう。
剣も経験も装備もないまま、教会から追い出されてしまった。
ギルドで笑われながらも、黒い鳥が導く場所へ紹介状を持って向かうことに。
街を出て黒い鳥を追いかけるうちに迷子になり、暗闇で襲われるピンチに遭う。
そこで現れた謎の黒い男と、話すキツネの姿をした者たちに助けられる。
彼女の“勇者認定”の真相はまだわからない――。
それでも、リンの冒険は動き始めた。
「さあ、ここに来たら大丈夫だ」
魔王さまに目を軽く手で覆われて、ふわっと体が浮いた。
思わず声も出せずにいたら、次の瞬間には――
「……廃屋、ですか?」
目の前に広がっていたのは、どう見ても“ご実家感”ゼロの廃墟だった。
「まだ着いたばかりだからね」
「手直しが必要ですね」
狐の人と魔王さまが当たり前のようにリンの手を取って中へ進んでいく。
なんか……お父さんと子どもみたいだな。
中はもっとすごかった。
落ちたシャンデリア
埃まみれの絨毯
破れたカーテンに崩れかけた天井
土壁には穴
電気はもちろんつかない
暗闇でもホコリが舞ってるのが見えるレベル
「……だ、大丈夫かな……」
不安はある。でも――
(住まわせてくれるだけで、ありがたいよね)
心の中で、何度も自分に言い聞かせる。
(少しぐらい雨に濡れても、我慢すればいい)
(トイレ行くの怖い……ううん、大丈夫。大人だもん)
ぎゅ、と魔王の手を握ると、彼は驚いたように目を見開いて、そして優しく微笑んだ。
「ケガしてるからね。抱っこしよう」
ひょいっと持ち上げられる。
――お、おとうちゃーん!
優しすぎませんか、魔王さま!
でも、不思議と安心できる。
これまでいた教会よりも、ずっと。
(感謝しなきゃ。この人たち、わたしのこと、ちゃんと見てくれる)
「……あの、魔王さん。ありがとうございます。わたし、一人で歩けます。なので……ここに置いてもらえませんか?」
リンがそう言うと、魔王と狐人間は一瞬固まった。
「え? ここに?」
「だ、ダメですって! 女の子をこんなとこに一人でなんて!」
慌てて首をぶんぶん振る二人。
(……あ、だめか。ここにも、いらないって言われちゃった)
涙が滲んできた。
魔王を倒すどころか、魔王にも必要とされないなんて。
わたし、ほんとうに――
「どうした? 埃が目に入ったか?」
「……あ、いや、この子勘違いしたのかも! 今ここに住むわけじゃないですよ! ここは通路の一部なんです」
狐人間が慌ててフォローする。
「結界をいくつか越えて、魔界に戻る予定です。お嬢さん、もうこの国にいられないみたいだし」
「なるほど、そういうことか……」
魔王さまが少し考えてから、狐に視線を向ける。
「どう思う?」
「……まあ、この国にいてもうちに来ても変わらないと思いますけど。それに、この子もう国に帰れませんしね」
リンは何度か、不思議な光の輪をくぐった。
結界、って言うらしい。初めて見た。
ようやく着いた先で、狐の人が言った。
「今度こそ、魔王さまのおうちですからね!」
ジャーン!
とドアを開けた先は――
ゴミ。ゴミ。ゴミ屋敷。
「……帰りたいかも」
さっきの廃屋よりカオスだった