42 魔王の隣に立つには、まず魅了ビームを習得せよ!? ~聖女お披露目大作戦、発動です~
重鎮たちに初めて顔を見せる、大事な“お披露目の場”。
リンは心の中で、作戦名をそっと唱える。
――名付けて!
「如何にも私は聖女大作戦」!!
そしてついでに……
「ついでに妻になりますけどなにか?」も添えて!
まずは衣装、勝負服。
白を基調としたローブは、純度高めの“清浄”仕様。
胸元と袖には金糸で花と水の刺繍が細やかに施されている。
「私、浄化できますけど?」
というオーラを全力で放ってみる。
背中のケープは、エアリアが風魔法を仕込んでくれたおかげで、歩くたびにふわり。
完璧すぎてちょっと笑いそうになった。
そして、いよいよ入場。
魔王さまに手を取られ、ゆっくりと扉をくぐる。
その瞬間――空気がピリリと張り詰めた。
魔王の隣に立つ、小柄な人間の少女。
部屋の空気が一気にざわついた。
(よし……作戦開始!)
まずは――
「我が娘の方が可愛いんですけど!?」
という根拠なき親バカマウントを撃破せよ!
さらに――
「人間のくせに魔王の隣って何様!?」
的な敵意を吹き飛ばせ!
魔王さまが一歩、前に出る。
「紹介しよう。――わたしの愛すべき伴侶、聖女・リンだ」
……その瞬間、空気が止まった。
「聖女……だと?」
リンは一礼――しない。
代わりに魔王さまの隣で堂々と立ち、
口角だけほんのわずかに上げた、微笑みとも無表情ともつかない表情を浮かべる。
顎を少しだけ、上げる。
頭は、下げない。
(私は、“ここにいるのが当然”なんですから)
その場にいた魔界の重鎮たちは思った。
「……なに、この圧」
かつてこの魔王が即位した時の、あの“理不尽な威圧感”に似ている――。
(うっ、視線が痛い……でも、大丈夫。スネク先生のムチよりはマシです!)
リンは息を吸い、一歩前へ出る。
「はじめまして。リンと申します」
そして――
魅了スマイル、発動。
ビーーーーーム!!!
慈愛に満ちた微笑み。
“ここにいて当然”
と語るその表情は、光を纏うように美しく、
まるで――
「あなたたちは、救われます」
と告げるような。
ふわああああああーーー……
その場にいた重鎮の大半が、その瞬間、落ちた。
空気が、完全に支配される。
リンは内心ドキドキしながらも、完璧な“聖女の顔”を保っていた。
(よし……勝った!!)
だが、そんなリンのスマイルビームが効かない者もいた。
狸谷宰相。
鼻息を荒くして、真っ赤な顔で立ち上がる。
「聞いてませんぞ!! 聖女とはどういうことですか魔王さま!!」
わなわなと震えるその口調は、怒りをまったく隠していない。
「聖女ということは、我々を“浄化”する力を持っているということ。そんな危険な存在を、魔王の妻に据えるなど……!」
魔王は、にっこりと微笑んだ。
「その通りだ。過去、我々の味方についた聖女はいない」
「だが――」
魔王はリンの手を取り、うっとりとした声で言った。
「わたしは、この聖女を愛しているのだ」
……そしてそのまま、リンの手のひらに口づけ。
(魔王さま!! 手ですけど……それ……ファーストキスなんですけど!!)
叫びそうになるのを、リンは必死で堪えた。
(こ、こらえろ……私っ!)
――こうして、魔界初の聖女による、伝説の“お披露目会”は
ビームと微笑とファーストキス(?)で、堂々幕を開けたのだった。




