40 精霊と人間の再会、そして最後の贈り物
「ギルドやってるって聞いたけど」
ウンディーネ(=アルデリア)は聞いた
「ああ。意味あるかわかんねぇけど……せめて無理な依頼やバランスの悪いパーティには押し付けないようにしてる」
俯きながら、マクライアはぽつりと語る。
『頑張ってるじゃない』
ウンディーネが微笑むと、彼の背筋が少し伸びる。
「でも……ダメだ。最近は“聖女”って肩書きの安売りみたいになってて。あの日、お前が命を削って積み上げたものが、全部無意味にされたみたいに思えて無力さしか感じない」
彼は自嘲気味に笑った。
「この間なんて、細っこい女の子が“勇者”だって言ってきてな……俺、何もできなかった。見てるだけだった」
『……リンちゃんのことね』
「え?知ってるのか?」
『会ったわよ。むしろ、彼女こそ“本物”の聖女よ。今は魔王さまに大事にされてる』
「……は?」
『ふふっ。あんた、そういうとこは鈍感なクセに、変なとこで勘が鋭いのよね』
「俺、あの子を魔界に行かせて正解だったのかな」
『さあね。でも……少なくとも、ガブリエルの元よりはずっとマシよ』
ガブリエルは、魔術師をやめて、アルデリアを“理想の聖女”として利用し、教会の頂点に登り詰めた。
それが、更にマクライアの心に重くのしかかっていた。
「……リースは盗賊崩れで、仲間割れで死んだ。
盾役のキリルは、教会騎士団にいたらしいけど――先週、森で獣にやられたって話だ」
『……先週って。ほんとについ最近じゃない』
「ああ。もう俺たちも歳だしな。……結局、お前に詫びさせることもできずに終わったよ」
『今さら詫びられても困るわよ。……生涯悔やみなさい』
「ああ。悔やみ続ける。そして、お前を……弔い続ける」
『残念だけど、私はもう墓の下にはいないの。精霊になって、自由にやってるから』
「それでも……俺にできるのは、それだけだ」
静かな声で、マクライアは言った。
『でもさ、リンちゃんと魔王さまがね。私が指輪越しに移動できるように細工してくれたの』
ウンディーネは指輪をひと撫でして、優しく笑った。
『だから、誰もいないところで懺悔するくらいなら――
ちゃんと、私の前で懺悔しなさいよ』
「……えっ?」
『それと、次来るときは座布団ね!ちゃんと私用の!』
マクライアは目を潤ませながら、しっかりとうなずいた。
「……ああ、アルデリア。君のために、最高の座布団、用意するよ」
『じゃ、戻るね。リンちゃんたちも心配してるだろうし』
ふわりと水の粒が舞い上がり、ウンディーネの姿は静かに消えていった。
静寂が店に広がる。
――夢じゃない。
指輪も、伝書鳥も、確かにここにいる。
マクライアは、その足で夜の街へと出かけ、彼女が好きだったブルーの指輪ケースを探しに行った。
手に入れたそのケースを何度も見つめながら、心の中で繰り返す。
「気に入ってくれるといいな、アルデリア……」
だが――その願いが叶うことは、なかった。
その夜、マクライアは何者かによって命を奪われた。
翌朝、店のテーブルには、ブルーの指輪ケースに収められた指輪が、ひとつだけ静かに置かれていた。
それが、彼の最後の贈り物だった。
マクライアとウンディーネ(アルデリア)の再会回です。
かつての過ちを抱え続けた男と、精霊となった彼女。
ひとときの会話、そして……。
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