3 わたし、勇者じゃないですってば!
《これまでのあらすじ》
教会に「勇者」と認定され、装備もないまま追い出されたリン。
助けを求めて街のギルドに行くも、ギルド長には「ないない!」と即否定される。
家事と育児が得意なだけの“元・聖女志望”に、魔王討伐なんて無理ゲーすぎる。
けれどギルド長は、そんな彼女に一筋の道を示す――
「この紹介状を持って行け。あの黒い鳥を追え!」
謎の伝書鳥とともに、リンの運命は思わぬ方向へ転がりはじめる!
「待って!待ってってば!」
黒い鳥を追って、転げるように走る。
でもすぐに息が切れる。
孤児院の子どもたちと追いかけっこくらいはしたけど、長距離なんてムリ!!
しかも道がわからない!
花やクッキーを売りに行ったことはあっても、街の外に出るのは初めてだった。
黒い鳥は、暗闇に紛れて見えづらい。
これを見失ったら……わたし、帰れない気がする。
石畳の坂を転がり、農園を抜け、舗装のない道をひたすら突っ走る。
何度も転んで膝をすりむいた。けど、止まれない。
本能が「鳥を見失ったら死ぬ」って、叫んでる。
気づけば、見知らぬ山道。
街の灯りはもう、見えない。
――迷った。完全に。
細い獣道、風で揺れる木々、光のない暗闇。
足が、すくむ。
その間に、黒い鳥は完全に見えなくなった。
「うそ……」
迷子。夜の山道。知らない場所。丸腰。ひとり。
最悪すぎる!!
帰れない。働けない。お金もない。
「お腹すいた……」
教会の食事は清貧が美徳。パン一個とミルクだけ。
カレンは要領よく、余り物とか貰ってたけど……わたしは真面目一辺倒で、いつもギリギリだった。
ギルドの人も……あの鳥に任せるとか、もしかして、厄介払いだったんじゃ……
「……馬鹿だな、わたし」
腰を下ろして、今日を思い返す。
――もう、なにもかもがめちゃくちゃ。
その時だった。
ふと、遠くに光が見えた。
ふわふわと宙を浮いて、こっちに近づいてくる。
「な、なに……!? 絶対あやしいってば!!」
慌てて後ずさる。
だけど、背中に――
「いたぞ、こっちだ!」
ドン。
何かにぶつかって、振り向いた瞬間――
真っ黒な影が、リンを飲み込もうとしていた!!
「ぎゃあああああああああああ!!」
逃げなきゃ、逃げなきゃ、でも無理!前も後ろもふさがってる!
こうなったらもう――飛び降りるしかない!!!
わたしは山道の斜面から、
飛んだ!!
飛んだよ!!
足はパタパタしてるけど!!!
⸻
「落ち着いてくれ。勇者じゃないってことは、もうよーくわかったから」
え?
ふと見ると、首根っこを掴まれて、足がぶらーん。
うっ!?
く、首が、首がぁ!
これ、首吊り!? ぐるしい!! 死ぬぅぅ!!
「ああ、これはいけないな」
黒い男がさらっと言って、ゆっくり地面に降ろされる。
助けて……おねがい……
「ふうむ、いや、助けたんだよ? そこ、普通に崖だから。落ちてたらたぶん死んでたよ?」
――えっ。助けたの? わたし飛んだのに。
その隣から、もう一人の声が聞こえた。
「マクライアさんからの伝令で来たんですけど……めっちゃ傷だらけじゃないっすか」
振り向けば、しゃべるキツネ――いや、二足歩行の狐?耳?え、狐人間??
「女子供に容赦ないな、あのギルド長は」
「まあ、勇者じゃないってことだけは分かりました」
涙目で地面に座り込むわたしを、
黒影の男とキツネは――ふたりで見下ろして、無言でうなずいた。
いやいやいや、なに納得してんの!!?
「初めまして、なんちゃって勇者殿。僕は魔王です」