表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます  作者: かんあずき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/74

35 精霊になった聖女の話

ここから、ウンディーネの過去回です。話がちょっと長め&重めですが、大事なところなので読んでもらえたら嬉しいです!

「……私ね、もともとは人間だったのよ」


ぽつりと、ウンディーネが呟いた。


「えっ? 精霊じゃないんですか?」


「それは、今の姿ね」


そう言って、ウンディーネはかすかに笑った。けれど、その瞳は少し寂しそうだった。


「私は、聖女としての力が生まれつき強かったの。それでよく頼まれて、ダンジョンに潜っていたわ。……そこで、ある男の人と出会ったの」


「男の人?」


「弱かったけど、まっすぐで一生懸命で……毎日、剣の練習をしていたの。よく怪我してね、私がいつも回復魔法で治してあげてた」


「回復魔法って、聖女の?」


「ええ。あなたも、きっと使えるようになるわよ。教えたくないけどね。利用されるから」


ウンディーネはそう言って、ウインクをしてみせた。


「私、回復だけじゃ足りなくて、ポーションも、解毒剤も、防御薬も……ぜんぶ自分で作ってた。そうするしかなかったから。

でも彼は優しくて、私の魔力を心配して回復を断ってくれることもあったの。そんな彼に惹かれていったわ」


「……その人って、もしかして」


「そう、勇者に選ばれたの。あの水晶にね」


「勇者……ギルド長!?」


「ええ。名前はマクライア。今はどうか知らないけど、あの人が勇者なんて、ね」


ウンディーネは皮肉めいた笑みを浮かべた。


「パーティは、私が回復役で、偵察がリース。魔法使いはガブリエル。

そして盾役が――キリルって男。物資を運んだり、ダンジョンの前衛もやっていたわ」


「……キリルさんって、教会に出入りしてるの、何度か見たことあります...ってえっ!ガブリエルってあのガブリエル神父??」


「ふふ……まだ繋がってるのね、あの二人」


ウンディーネの声が、ほんの少し震えた。


「魔界の門が開くと、魔王が復活する。それで私たちは魔王討伐に向かったの。……そのとき彼は言ったのよ。“これが終わったら結婚しよう”って――指輪をくれた」


一瞬、ウンディーネの瞳に光が宿った。でも、それもすぐに翳る。


「でも、その日は来なかった」


彼女の声は、静かに沈んでいった。


「瘴気がすごくて……周りには見えない。でも、私は見えるから、ひたすら浄化したの。どんどん狂化した魔物が押し寄せて、回復魔法を撃ちまくったわ。体が壊れそうでも、吐血しても、なんとかしようとした。でも無理だったの」


「……」


「それなのに、彼は言ったの。“助けてくれ、聖女だろ”って――泣きながら縋ってきた」


リンは言葉を失った。


「魔王ですらこの状況を止められないのに……どうして、私にできると思ったのかしらね」


ウンディーネは、少しだけ笑った。痛みの混じる、乾いた笑みだった。


「そこに、トミーさんがいたの。まだ小さくて、何も知らなくて……

マクライアは剣を振り上げたのよ。

“魔物”って! 誰であれ、子供を一番に狙うような人じゃなかったはずなのに――」


「……!」


「トミーさんを庇って、お母さんが前に出た。そこを、今度は盾役のキリルが殴り殺した。

その時のトミーさんの顔が記憶から離れなくて、私は……思わず、全部の回復魔法を放ったの。でも、間に合わなかった」


ウンディーネは、そっと胸に手を当てた。


「そこで、私の人間としての時間は終わったの」


「……」


「それからは、何もかも壊れたみたいで、何がなんだかわからなくて。

でも――魔王様が、私の指輪を外してくれたの。“きれいな心を思い出して”って」


ウンディーネは、ふっと微笑んだ。


「それで、ようやく思い出したの。助けたかったんだって。

ただ、それだけだったのにね」


ウンディーネは机に置かれた指輪の周辺をくるくる回る

指輪には、マクライアと……アルデリアと彫られている。


「ウンディーネは精霊の名前。ほんとはアルデリアっていうのよ」


ふふっと微笑んだ。


「浄化されて、自分のそばに戻ってきたら……なんか、久しぶりに会いたくなっちゃった。変よね。あんなに憎んだ人なのに」


指輪が、きらりと光る。


「愛されたかったの。みんなに搾取されてたから、大切に思ってくれる人が欲しかったの。

でも、スネクの教育を見て、あなたたちを見て、わかったわ。

私が選べばよかった。“そんなこと言うやつお断りだ”って、“浄化してほしかったら跪け”って、言ってやればよかった」


ウンディーネは泣いた。


「そして、あなたたちみたいに――一緒にいれば、それだけで幸せなんだって。

役に立つとか、立たないとか、関係ないんだって……気づければよかった」


ウンディーネは、リンを見つめた。


「わたし、マクライアに会いに行こうと思う。

自分がここに戻れるのか、会ったら狂化するのかすらわからない。

だから……リンちゃんが求めるなら、私が知ってる知識をすべて、あなたに渡す」


「でも、覚えていて!

意識的に、もしくは無理やり使ったら、わたしみたいに――あなたの命を削ってしまうわ」


リンにとっては衝撃だった。

でも、私にしかできない。

ウンディーネさんと同じ道を辿りそうだった。魔王さまに何かあったら、きっと全力で助けたいと思うはず。


だけど、


「聖女の技術、引き継ぎます。大丈夫! だって私が世界基準だから!!」


リンは笑って言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ