表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《完結》聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます  作者: かんあずき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/74

31 穏やかな寝顔と静かすぎる夜

久しぶりに、リンと笑いながらあったことを話した。

スネクの教育、なかなか...想像通りだな。


スネクは愛情はあるのだが、その迫力がすごいのだ。

鞭も痛いというより、いや痛いんだけどそのしなり方と音が激しい。


そして、あの空間を全て支配する長。

もういっそ、魔王になって欲しいぐらいの恐怖感。

俺は相変わらずスネクには頭が上がらない。


それを溺愛するオーガにも、違った意味で頭が上がらない。


一通り話すと、相変わらず...


ごろん、3秒ーーーぐーっ!


早いな。相変わらず。

今日、プロポーズしたらさ、普通は何かあるんじゃないかと思うものだよ。リン。


仕方ない。

時間をかけて、ゆっくり口説き落とそうかな。


そして、添い寝した夜――

俺は、驚きのあまり、思わず引き剥がしてしまった。


……寝相が、良くなっている!?!?


何を言っても、蹴りがこない。

肘鉄も、膝蹴りもない。

うそだろ!!リンだぞ!


むしろ――無意識に、そっと身を寄せてくる。


え? え? どうした!?

その動きのあとに必ずセットで来ていた拳がないぞ!?


(あの鉄拳なしで寄ってくるとか、そんな……!)


もちろん、基本スタイルの“両手バンザイ大の字”は変わらない。

かわいいけどさ。

もう少し、大人にならないと...なぁ。


だが、あの攻撃的な寝方は、彼女の不安の現れだったのかもしれない。


「わたし、今まで寝相が悪いって言われたことはないんです!ほんとなんですよぉ!!」


俺とトミーとネズミイに力説してたけど。

誰も信用しなかったけど...だって、ゴミ山に転がりながら登るんだから。


「孤児院で誰かを蹴り飛ばすような寝方はしてたら、自分は生きていけないし、子供たちかわいそうじゃないですか!」


リンは教会の孤児院で育った後は、神官見習いでこき使われながら、孤児院の子供の世話もしていたそうだ。


だから、掃除と託児が特技なんだと...


ただ、リンのこんなに穏やかな寝顔を見たのは初めてかもしれない。


今、どれだけ精神状態が落ち着いているのか。

逆に、これまでどれほど不安だったのか――ようやく、わかってきた。


魔界で見たことない魔族が大量にいて、虐められたらそりゃ不安だよな


(今日からは俺がいるからね)


魔王は寝ているリンの髪をなでた。


ん??なんか?キラキラ光ってないか?


(……おいおい。ゴミ山が、キラキラに浄化されてるんだが!!)


リンの布団の奥にある、曰く付きのゴミ山が眠っている間にどんどん普通の“ただのモノ”に変わっていく。


(え??いや、寝てるよな?えっ!!)


モノそのものが消えていく。

割れたものが勝手に修復されていく

瘴気も怨念も綺麗さっぱり抜けている。


「必ず片方だけになる靴下」は――なぜか、セットで一体化になっている。


「絡まるイヤホン」は、いつの間にかレッドトゥース対応のワイヤレスイヤホンになって、グレードアップ!!


(……恐るべし、無自覚聖女。寝てても浄化するのか?)


その浄化の波にまぎれて、ウンディーネが“見ないようにしていたもの”まで露出していた。


完全にただの物質。何の力も残っていない。

物の方は何も残ってはいないが、ウンディーネの方の気持ちがどう残ってるかどうかわからない。


魔王は冷や汗をかく。


ウンディーネ、すまない。

早く、マクライアとの決着をつけてくれ。

リンが、リンが止まらない!!


……無意識の浄化、強力すぎる。


そして、そっと添い寝しながら、どさくさに紛れてリンを抱きしめた瞬間だった。


「俺の身体の奥にこびりついていた瘴気まで!?」


ふっと抜けて、驚くほど体が軽くなっていく。

サラサラ自分の体から紫や黒の瘴気が抜けていくのが見える


(俺の瘴気まで!!おいおい!そんなの聞いたことない)


癒された感覚に、戸惑う。

けれどそれ以上に、怖くなる


リンが無意識に聖女として力を使っているなら――


彼女の命を削っている可能性だってある。

ウンディーネのように、力を使いすぎて命を落とすなんて、絶対にダメだ。


(触れたらダメとか、言われたら……発狂するぞ俺)


彼女の力を自覚に変えるためにも、ウンディーネに相談しなければ。

このまま、俺を無意識浄化して、命を縮められたら困る


でも、今日“魔王の妻にしたい”って言われた。

明日は“あなたは聖女でした”って……

さすがに情報量が多すぎるよな


リンの顔のすぐ近くに、そっと顔を寄せる。

寝息は落ち着いている。

けれど、身体はまだ少し痩せている。


(大丈夫。ちゃんと……生きてる)


思わず、ほっと息をついた。


これから彼女に降りかかるであろう嫉妬や嫌がらせからは、今度は俺が守らなければ。


この前、水をかけたメイドたちは、スネクが即クビにした。

そして俺は、彼女たちが二度と魔王城の仕事に就けないように、裏で手を回した。


……この夜、俺が彼女の部屋で一晩を過ごしたという事実も、広まるだろう。


“既成事実”は、勝手にできていく。

それでいい。


周囲の視線は、リンではなく、俺へと向かうようになる。

それが狙いだった。


なぜなら――


この魔界には、「魔王を殺した者が次の魔王になる」という掟がある。


魔王の座は、自身の血族に引き継がれる

瘴気で、狂化した状態になった魔王を、その子供は殺す。

そうしなければ、魔界の秩序は守られない。

魔王も長引けば長引くだけ苦しむ


「……たのむ、殺してくれ」

あのとき、かすれた叫びのように聞こえた声が――今も頭から離れない。


彼らは、俺の傍に立つリンが、

“魔王を殺す大切な後継ぎを産む可能性がある”

と捉えるだろう。


純粋な魔族の血にこだわっていても

迂闊に手が出せない

それで、リンの身が少しでも安全になるなら、それでいい。


俺は、リンに指先を向け、そっと防御魔法をかけた。


(……まさか、俺が聖女を守るようになるなんてな)


それでも、この子が隣にいてくれるのなら。


何だってやってやるさ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ