2 勇者?ねえよ!そんなもん
《これまでのあらすじ》
聖女試験の当日。
誰より準備を頑張ったはずのリンに告げられたのは、「勇者認定」の一言だった。
神父の怒号、空回りの水晶、どこか胡散臭い聖女たち。
そして届いた一本の電報――
「魔王、復活」
気づけば教会の門の外。荷物だけがそばにある。
何も持たない彼女の旅が、今、無理やり始まろうとしていた。
「あんたが勇者!?ないない!」
そう言い放ったギルド長の俺の目には、驚きよりも、なに言ってるんだ?という純粋な疑問
彼女がいうには、今日発令されたばかりの勇者認定と魔王討伐の命令。国はこの子が勇者が本物かなんて確認していない。教会からは勇者討伐に行けと丸腰で追い出される
こりゃ、教会の内部も、どうしようもなく腐ってやがる。
金も武器もパーティもない、服に至っては、ただの神官服の女の子。聖女認定試験を受けたわけだから18歳というが、見た目はかなり痩せて小柄。18歳には見えない。
特技は家事と育児?
勇者スキルって何だそれ?って聞かれたぞ
「とりあえず、お金を稼がないと……何か仕事、ありませんか?」
震える声で言いやがる。正直、酒場兼ギルドの片隅にあるこのボロボロの木の看板の下で、そんなこと言う奴はただのアホだ。
この辺は治安も悪い。そんな若い女の子が「私は勇者だ!」なんて言い張ったら嘲笑されるし、「住むところがない」って言えばろくでもない奴らに絡まれて終わりだ。
「うちで雇ってやってもいいが、国からは『魔王討伐に行け』って言われてる書面もあるんだろう。止めたら国家反逆罪だ。」
そう言いながらも、こいつの腕も体も細すぎて、剣なんて持ち上げられるかどうか怪しいくらいだ。
このまま放り出したら、魔王じゃなくて人間にやられる可能性が高い。
「一晩くらい泊めてやるのは構わねえが……未婚の若い娘を泊めるのは後が怖えんだよなぁ……」
悩んでいるとき、ふといい考えが浮かんだ。
「紹介状を書いてやる。そこでまず話をして、雇ってもらえ。ほとぼりが冷めるまでは絶対帰ってくんなよ。」
俺は店の奥から鳥籠を持ってきた。
中には真っ黒な鳥が一羽。
艶やかな黒い目がダイヤのように輝いている。
「カラス?」
「違う。これは俺がとあるお方と連絡を取るときに使う伝書鳩だ。悪い人じゃねえ。この人なら経済力もあって、人望もある。信頼されてる。なんとかしてくれるはずだ。」
鳥の足につけたカプセルに羊皮紙を入れると、カプセルはポンッと煙とともに消えた。誰も気づかない。
「ほら、さっさと行け。あの鳥を追いかけろ!」
「えっ、あの鳥?」
「そうだ、見失ったら終わりだ!」
女は慌ててお礼を言い、黒い鳥を追いかけていった。
酒場の客の中には女を追いかけようとする奴もいたが、足がもつれて動けない。
「お客さん、飲みすぎじゃねえか?」
俺は床に転がる男たちに声をかけ、心の中でつぶやいた。
「うまくやれよ、お嬢ちゃん。」