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《完結》聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます  作者: かんあずき


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28/74

27 魔王会議、修羅場につき

魔王城 最上階会議室


窓を開ければ、薄靄に包まれた城下町が霞んで見える。

ふわりと風が舞ったが、エアリアの気配はない。


──まあ、来るはずないか。

こんな、腹黒魔物だらけの密室に、精霊が好き好んで来るわけがない。

エアリアもウンディーネも、あの子のそばにいるのは……あの空間が澄んでいるからだ。


「それで魔王様──ご説明いただけますかな?」


会議室の空気を裂いたのは、狸谷(りこく)宰相の声。

丸い尻尾がピクリと揺れ、金縁の眼鏡がギラリと光る。


「人間の娘を、嫁候補にしたという噂。あれは……本当ですかな?」


出た!初手から爆撃!さすが狸谷様!


周囲の魔族重鎮たちは、ニヤニヤが止まらない。

こいつは大波乱の予感だ。


「説明も何もない。人間界に逃げた魔物回収に行ったとき、彼女に一目惚れした。それだけだ」


魔王はいつも通りの無表情で、平然と爆弾を投下した。

一瞬、静まり返る。


……そして、爆発。


「正妻という意味ですか!? 妾なら、まだ……!」


狸谷の目がカッと見開かれ、尻尾が逆立つ。


「おや? 私が愛した人を、妾にしろと?」


魔王の目が、きらりと光った。


周囲の空気が凍る。


「ま、魔族の血を絶やすおつもりかと……!」

「我が家の姫もお会い願えませんか!」

「抜け駆けはなしだ、うちの娘も──!」


堰を切ったように、各家の重役たちが口々に叫ぶ。

完全に婚活戦争である。


「静まりたまえ」


一喝したのは、トミーだった。

メガネをくいと直し、表情を崩さない。が──


(……いやいやいや、いつ惚れて、いつ愛して、いつ求婚したんですか)


手がぷるぷる震えていたが、周囲は「怒り」と勘違いしてくれたようで、場は静まり返る。


だが、狸谷は引かない。


「魔王様。先日の瘴気事件。門の綻び。魔物の暴走。お体は……限界なのではありませんかな?」


魔王の目が、かすかに揺れる。


「……」


「我々は知っております。先代魔王の最期も。

瘴気を抱えすぎた魔王は理性を喪い、“魔王復活”となる──」


ざわり、と空気が動いた。


誰もが知っている事実。

そして、それを討ったのが今の魔王であることも──


「だが魔王様、貴方には後継がいない。どうされるおつもりで?」


「まだ死ぬつもりはないが……。それとも宰相、私が倒れたら君が代行するかい?」


魔王は口元を緩める。


スネク式の教育のおかげで、表に出す感情は抑えられている。

……だが、リンの前では毎回だだ漏れだ。


「ご存知のはずです。魔王になれるのは、魔王の血を継ぐ者のみ!」


狸谷が叫ぶ。


「だから嫁を決めていただきたいのです!」

「わたくしどもの子供は、自身の犠牲など厭いませんぞ!」


ふん──

お前やお前の子は“名誉”がほしいだけだ。

だが、産まれてくる子供が同じだと思うな。


脳裏に、かつての父の最期がよぎる。

震える手。潰れる声。

あのときの絶望が、今も背後に張りついている。


(父さん……ごめん)


魔王はゆっくりと立ち上がる。


「私の後任の件は保留だ。瘴気は処理済み。体調に問題はない。そして──」


言葉を区切り、ゆっくりと一歩前に出た。


「私は、リンを嫁に迎える予定だ。以上だ」


どよめきすら起きない。

ただその背を、皆が無言で見送った。


唯一、表情を崩したのは──


「へぇ……言っちゃったな」


にやりと笑ったトミー。


(いよいよ、聖女が魔王の嫁になるか)


狐の目が、妖しく細められた。


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