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《完結》聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます  作者: かんあずき


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26 泣いて食べてまた明日、これがオーガ式メンタル回復術!


夜。

魔王城の台所には、かすかな鼻すすりの音がこだましていた。


「うぅ……しくしく……」

すすり泣いていたのは、リンだった。

人気のない厨房の隅で、テーブルに突っ伏して肩を震わせている。


残っていたオーガの厨房長が、あたふたと手をふっている。

その隣には、ネズミイがちょこんと座っていた。


「みんなと仲良くしたかっただけなのに……っ」

「言い方がキツかった? いやいや、水ぶっかけられたんだろ? そりゃ当然の反応だって」


ネズミイが、耳をしょんぼり垂らして肩をすくめる。


「しかもスネクから“世界基準の対応”って言われたんだろ? だったらお前、よくやったよ。むしろプロだよプロ」


「そうそう!」

オーガは無骨な手で、ちんまりとしたおにぎりを差し出した。


「つらい時はな、まず食え! お前ちっこいから、指先でちまちま握るの大変だったんだぞ。はやく育って、俺の拳サイズのおにぎり食えるようになれ! そしたら誰もいじめねぇ!」


「オーガの握り飯って、俺の頭よりでけぇんだけど……」

ネズミイが突っ込む。


「よし、ネズミイも食え! ビッグマウスになれ!」


「ちょ、俺関係ないじゃん!?」


そんなやりとりを聞きながら、リンは、ぽろぽろ涙をこぼしつつ、おにぎりをひとくち――またひとくちと口に運ぶ。


おいしかった。

味付けなんてされていない、ただの塩むすび。

でも、不思議と、胸の奥がじんわりあたたかくなる。


「昔な、魔王さまもここでよく泣いてたんだ」


「えっ……!?」

「魔王さまが!?」


ふたりの視線が一斉にオーガへ向く。


「ああ。スネクが魔王さまの教育係でな。帝王学に表情訓練、あれやこれや。ちっこい頃から毎日ビシバシよ。……でも、ほんとはリンみたいに、ただの純粋な子どもだったんだよ」


「……でも、それが許されない立場だったんですね」


リンがぽつりとつぶやく。

それに、オーガは少し照れくさそうに頭を掻いた。


「まあ、俺の前ではな、いくらかは子どもらしかったよ」

「……そっか。オーガさんって、昔からの家臣なんですね」


「いや、違う」


と、唐突に言い放たれた。


「スネクは俺の妻だ」


――沈黙。


「えええええええええええ!!!!!」

「え、あの、蛇ムチスネクが!?」

「そう! 俺が夜な夜なビシビシされてるのはそういう理由だ!」


リンとネズミイはそろって変な顔になった。

いや、違う意味で涙が出そうである。


「……だからな」

オーガは、にっと笑った。


「スネクの教育でヘコんで、泣いて、俺のおにぎり食って、また頑張る――それが、ひとつの成長セットなんだよ。魔王さまもそうやって大きくなった。……お前も泣ききったら、明日からまた行ってこい」


リンは、鼻をすする。

涙はもう止まっていた。


「……うん」


小さく、でもしっかりとした声だった。

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