1 聖女になりたかったのに勇者といわれました
「今まで手塩にかけて育ててやったというのに! 教会から聖女が出ず、よりによって勇者とは、大恥だな!」
ガブリエル神父、ご立腹。顔は真っ赤。
「でも私、強くないですし!戦闘経験ゼロですし!ていうか勇者の剣とか、装備も何も持ってないんですけど!」
たぶん、なにかの間違いだと思います――
と言いかけたところで、
「バカがァ!!」
怒鳴り声で脳が揺れた。ガブリエル、沸点突破。
「剣が一本、いくらすると思ってる!? 勇者なら、自分でどこかで引き当てるくらいしてみろ!」
「どこかって、どこですか……?」
涙目の私、リン。泣きたいのはこっちです。
今日の試験の準備、誰よりも頑張ったの、私ですからね!
名簿作って、
会場設営して、
整理券配って、
クッキー焼いて売って、
紙吹雪切って、
落ちた人の慰め役までこなしたんですよ!?
しかも最近、水晶チカチカしてて神力不足っぽかったのに――
その水晶が、聖女判定ラッシュしてるのおかしくないですか!?
聖女なのにその顔でいいんですか!?
そのボインで!?
白ワンピに体が入ってませんけど!? 10Lまでしか用意してないんですよ!?
そんな疑惑の聖女たちが大量発生した挙句、私はなぜか勇者認定!?
ねぇ、これ誰のせい!?
これ、やさぐれていい案件ですよね!?
ねぇ神父!!!
「これまで育ててやった恩も忘れて、教会の役にも立たず、勇者なんて魔王がいないと使えないくせに、この恩知らずがぁ!!」
うるさい!もう知らない!!
誰か助けて!……そこの聖女像!!
ちょっとでいいから手を貸して!!
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「神父様〜、言われたとおり、リンの荷物持ってきました〜」
神官見習いのカレンだ。
神父の前だと猫なで声出すの、ホント得意だよねこの子。
「カレン、手間をかけたな。今日は疲れただろう」
「いえ、神父様こそ。あ、それと国から電報が届いてました〜」
「おっ、聖女認定試験の労いの言葉かな?」
神父とカレンはにやにやしながら電報を開ける。
なにその予定調和。気持ち悪い。
――そして、ガブリエルが電報を開いた瞬間。
「なに!? 魔王が復活しただと!!」
「……」
「よかったな、リン! 国からだ! 早速、討伐に向かえと!」
ぽいっ。
「うそでしょ!? ちょっ、なんで荷物ごと外に出されてんの!?」
「魔王倒して金になるまで、戻ってくるなよ!」
門が、バタンと閉じる。
私は今、教会の外。荷物ひとつと心細さ満点で立ち尽くしていた。
街の人通りはもうまばら。空も薄暗くなってきてる。
――……これ、どうすんの。