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《完結》聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます  作者: かんあずき


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18 まだ“候補”ですから! 魔王さまの焦りと聖女の寝落ち

今夜も通常運転ーー


無理やり寄せたガラクタ山のすき間には、ふかふかのお布団が敷かれていた。


秘書官のトミー、メイドのリン、そして魔王さま。

三人は仲良く川の字で就寝スタイルだ。


「……おやすみなさい」


リンは魔王さまの顔をちらっと見る。

そして、毛布にくるまり、コトンと寝息を立てはじめた。


……三秒で寝落ち。


「……あんなことのあとでも寝られるのね」

ウンディーネが呆れたように言ったが、リンにとってはいつも通りだった。


魔王さまも、ただ風邪をひかせるといけないと思っただけ。

孤児院では子どもたちとくっついて寝ていたし。


うん、別に、魔王さまと一緒でも、トミーさんも隣で寝てるし、特に違和感はないんじゃないかな?


――でも。


「りんちゃん、おかし〜!」


布団の端っこでエアリアがくすくす笑いながら転がる。

エアリアが転がると、ふわふわ色んなものが風で飛ぶ。


「あーっ!ダメです。重要書類もゴミ山にいってしまいますから!!」

トミーが叫ぶ。


エアリアは、ぷぅーっと膨れながら、

「風の精霊に風邪を起こすなは無理!風を起こすためにいるのに!!」

と、色んなものを撒き散らしながら魔王城で遊んでいる。


遠くで風の音が聞こえる。

今夜から魔王城の風通しはすこぶる良くなりそうだ。



エアリアさん、なんでおかしいって言ったんだろう?

え? なにが? どうして??


リンは心の中で小さく首をかしげたまま、すやすやと夢の世界へ。


※ ※ ※


「寝ましたか?」

「寝ましたね」


夜更け、そっと起き上がるトミーと魔王。

万歳ポーズのリンを確認。

熟睡、夢の国にご招待されている。


二人は、顔を示し合わせて、静かに寝室を出る。

そして、台所へと向かう。



ネズミイは台所の中の鍋の中に潜り込みながら、寝床を調整中。


「うーん、せっかくだから俺の鍋も明日リンに磨き直してもらおうかな?瘴気はついてないけど、長く洗ってないんだよなあ」


くんくんと匂いを嗅ぐ。

魔界は、鬼クラスのサイズが多いから、鍋も人間が入れるぐらいでかい。

リンに洗ってもらったら、また濡れちまうな。


魔王さまが、また脱がそうとしても困るよなあ??


ったく、びっくりだぜ。


そんなことを考えながらも、バッチリふかふか魔鳥の羽根布団を広げて蓋をのせる準備をする。


「瘴気があるときには、30構造の鍋蓋のおかげで助かったぜ。だけど、やっぱり一度お日様に乾かしたいよな」


そんなことを考えて振り向くと


ーーげっ!


「……なんだよ。夜中まで作業すんのかよ」


ネズミイはジト目で魔王とトミーを睨む。


「いや、ちょっと話したいことがあるんだ」


魔王の声は、めずらしく真剣だった。

それを聞いたウンディーネも、魔石からゆらりと現れる。


「来ると思ってたわ」

ウンディーネはなぜかドヤ顔の仁王立ち


「リンの掃除の件だけど……」


「あーー!まだあいつの服脱がしたいのか?おいおい、普通、あいつのあの掃除姿に発情しろって無理だろ!今日はびっくりしたぜ!」


即ツッコミをかますネズミイ。


「ち、ちがっ……!ハレンチだ!そういう意味じゃない!」

魔王は珍しくうろたえて、耳まで真っ赤になる。


「ただ否定すればいいんです。発言がハレンチなんですよ、あなたが」

トミーが冷静に刺してきた。


「まあまあ、茶化すのはそこまでにして」

ウンディーネが腕を組む。


「話したいこと、私も察してるわ」


魔王が小さく息をのむ。


「やっぱり……そう、なんだね」

「?」

「???」


ネズミイとトミーが揃って首をかしげた。


「彼女――リンは、聖女よ。しかも、相当な力を持ってる」


「ええええええええ!?!?!?」


ネズミイとトミーの声が、廊下に響きわたった。


「マジかよ! もっとこう……聖女って聖女な感じかと思ってたぞ!?」

ネズミイは意味なく、小さな手で聖女を想像するようなシルエットを作る。


「でもよく考えると、リンさんが掃除したあとって、空気が澄んでるんですよね」


トミーは、顎に手を置いて、そういうことかと頷いた。

 

「初日に会った時、あれって思ったの。台所、カビや汚れだけじゃなく瘴気まで消えてた」

ウンディーネが部屋の瘴気だまりがあったところを指さす。


「……ハタキのせいじゃなかったのか?」

ネズミイは思わずごくんと息を呑む。


「だったら全員パタパタしてるわよ」


「だけどよぉ!こんな台所に聖女がはたきを手にしてるのおかしいだろうよ方


「今日の噴水や小川も、リンの掃除のあと瘴気が消えたんだったな」

流石に、ネズミイも嘘だろと言いつつ、今日の紫の瘴気が抜けていくのを見ているだけに次の言葉が続かない。


「でも、紫ぃー!って歌ってたぞ。あれが浄化なのか?」


「絨毯がねを踏んだ瞬間に、瘴気がじわっと抜けてったじゃない。普通の魔族があれやったら死ぬって」


「ウンディーネとエアリアのスペシャルクリーニングじゃやかったのかよ」


「ちがうよぉ。私は風を通しただけ〜」


エアリアも一通り魔王城で風を吹かせて満足したらしい。

ふわっと登場して、指先で空気をくるくる撫でる。


「リンちゃんが瘴気をほぐしてくれてたおかげで、廊下もスイスイだったよ」


天然、無自覚、でも最強クラスの浄化能力。

リンは――まぎれもなく、「聖女」だった。


「これ……大変なことになるぞ……!」


トミーが真顔になる。


「聖女って、本来は魔王を浄化するために召喚される存在じゃないですか……!」


「つか、“嫁候補”になった前例なんかねえだろ……」

ネズミイが頭を抱える。


「……でも、大義名分になるわ」

ウンディーネが肩をすくめる。


「瘴気を消してくれる存在が魔王のお嫁さんですもの。国民みんな大喜び。」


「いや、わたしは……そんな打算じゃ……」

魔王は視線をそらして、耳まで染めて口ごもる。


その顔に、なんとなくリンを意識している?と思わなくもないがーー


トミーはあえて、何も言わなかった。



そのとき――


ドンカラガッシャーーン!!


寝室から、轟音が響く。


「しまった……リンは!!」


魔王が真っ青な顔になる。


「寝相が悪いんだったーーー!!」


深夜の魔王城に、魔王さまの全力ダッシュが響き渡る。

あのゴミ魔窟は、曰く付きだらけだ!

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