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15 メイド、魔王に台所を占領される

《これまでのあらすじ》

リンは魔王城近くの商店街で魔王たちと買い物中、魔王に「嫁候補」と紹介されて周囲の視線を浴びる。

腕相撲で肉を勝ち取る魔界ルールに挑み、苦戦しながらも店長の好意で無料に。

ウンディーネとネズミイはそんな様子を見守りつつ、魔王たちは帰って緊急会議に向かう。


「やっぱり、空気が澄んでると仕事がはかどるねぇ」


トミーさんが大きく伸びをしながら、鼻先に珈琲の香りを通す。

その手には猫マグ。隣では魔王さまが、ドクロ模様のマグを片手にドヤ顔でデスクワーク中だ。


……場所は、なぜか台所の作業台の上。


「リンが淹れてくれる珈琲、朝がしゃきっとするなぁ」


「ありがとうございます……」


狐の秘書官とツノつき魔王が、メイドが磨き上げた厨房でカフェごっこ。


なかなかにシュールな絵面だが、雰囲気だけは本格派である。


リンが魔王城に来てから、ちょうど一週間。


あの婚約騒動の件で二人はお偉いさんたちからお叱りを受けているらしいけど――


優しいから、リンの前では何も言わない。



台所には清涼な空気が流れ、磨かれた床はぴかぴか。

……が、その快適さに顔をしかめる者も、いる。


「はあ〜……やっと空気がマシになってきたのに」


「作業台占領すんなっての! モップかけできねーだろ!」


不機嫌そうに腕を組んでいたのは、ウンディーネさんとネズミイ。



そう、

なぜか魔王さまとトミーは、台所で執務をしている



「執務室でお仕事しないんですか?」


恐る恐る尋ねると、魔王さまがあっさり答える。


「廊下が瘴気まみれでね。向かう気力も削がれるんだ」


「従業員も、あれさえなければ出勤するんですけどね!」


トミーさんがバン!と机を叩いて悔しがる。


「魔界の門がこの城にあるせいで、この魔王城が一番瘴気が濃いのよ」


ウンディーネさんがため息混じりに説明する。


人間のリンにとってはそこまで深刻ではないけれど――



念のため様子を見に行ってみると......


廊下は人の目でも紫の霧に飲まれて視界ゼロ。


さらに床を見れば、絨毯はドロドロと溶けかけていて、もはや原型を留めていなかった。


「うわ……これは、ちょっとやそっとじゃ無理そう……」


生活に支障が出るのも納得だ。




「……あの絨毯、洗える場所ってありますか?」


尋ねると、ウンディーネさんが顎に指を当てて考える。


「あるにはあるわ。城の前にある白い噴水と小川。私の魔石を持って行けば、水で清められるはずよ」


その瞬間――ガタン!


「オレも行くぜ!!」


ネズミイが椅子を蹴飛ばし、怒りのモップを肩に担いで立ち上がった。


「どうせこいつらが居座ってる限り、仕事なんてできねーしな!」


台所の守護神、怒りの掃除魂!!フル稼働である。


(……二人とも、本当に台所好きだよね)


リンの内心も虚しく、彼らの圧力はますます高まっていく。


その一方――問題の二人はというと。


「ここにお布団持ってきて寝たいですね」


「目覚めたとき、料理の音が聞こえるって……なんか新婚さんっぽくない?」


……完全に現実逃避モードだった。


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