12 メイド、台所改革に乗り出す!
《これまでのあらすじ》
勇者に間違われて聖女認定試験を受けたものの、年齢不足が発覚し、追放された少女リン。途方に暮れるなか、魔王と秘書トミーに拾われ、ゴミ屋敷状態の魔王城でメイドとして働くことに。
呪いの品、謎の瘴気、巨大ネズミに悪戦苦闘しながらも、少しずつ居場所を見つけていくリン。掃除で澄んだ水場を復活させると、水の精霊ウンディーネが現れ、さらに鍋から出てきた巨大ネズミは“台所の守り神”だったと発覚。
魔界で巻き起こる不可解な出来事のなか、魔王はリンを「新たな勇者ではなく、魔王城のメイド」として迎えたと紹介するのだった
「リンちゃんは、メイドさんっていうより……」
ウンディーネが首をかしげた。
「なにかありましたか?」
魔王さまが興味深げに反応する。
「うーん……まあ、そのうち分かると思うわ。それより……」
ウンディーネはふいっと腰に手を当て、キリッとした顔になる。
「あなたとトミー! 台所にガラクタ投げ込むのやめてちょうだい。魔石が完全に埋もれてたじゃない!」
「そうだぞ! 俺の手じゃモップくらいしか持てねーんだからな! 足の踏み場がねえってどういう状況だ!」
ネズミイもまるでカスタマーセンターに苦情を入れるクレーマーのような勢いで詰め寄る。
ちなみに彼の手は、身体に比べて極端に小さい。確かに、モップを挟む以外の用途はちょっと想像できない。
「だから、これからはリンが一緒にやってくれるよ」
……あれ? 今朝言ってた“無理のない範囲でできることを”っていう設定、バグってない??
でも、ここに居させてもらうんだし、がんばるしかない。
「まあ、瘴気が消えたのは助かったよ」
ネズミイは床にちらっと目を落として、ホッとした表情を見せる。
「魔界の門の綻びから、ドロドロの人間の怨念が入り込んでたな」
「人間界では、最近“聖女”が大量発生してるそうですね。正しく浄化できていないのかもしれません」
魔王さまが静かにうなずく。
「ふん、人間界で真面目に聖女なんかやってたら——私みたいになっちゃうわよ」
ウンディーネがゲンナリした顔でため息をつく。
……私みたいに??
どういうこと、それ?
私の疑問顔に気づいたのか、ウンディーネはふっと笑って、片目をつぶる。
「いろいろあるのよ。これから長い付き合いになるでしょうし、ゆっくり話すわね、リンちゃん」
ウインクした気がしたけど……気のせいじゃない気もする。
⸻
そこからは、まさかの——
「俺もやるよ。三角巾はどこだい?」
と、魔王さまがエプロンと三角巾を着用して、まさかの“大掃除参加”を表明。
これは、魔王城史に残る日かもしれない。
物置からガラクタを引っ張り出して、洗剤や鍋磨きグッズを探してもらう。
途中「ドンガラガッチャーン!」という爆音がしたけど……今夜、寝るスペースあるかな??
ウンディーネと私は、せっせと泡立てた洗剤で食器を洗っていく。
魔王さまは、洗い上がった食器を丁寧に拭きあげて、それを私が棚に戻す。
そして、ネズミイはというと——ひたすら床掃除。モップ片手に床の石畳を磨き続ける姿は、もはや職人の風格。
段々と、くすんでいた床に、かすかな光沢が戻ってくる。
「おお……やればできるじゃないか!」
一同、達成感に包まれる。
⸻
「ご飯はどうしましょうか? 食材もないようですし」
私がそう尋ねると、魔王さまは腕を組んでうなった。
「そういえば……最近ずっと“カツアゲ弁当”だったな」
「カツアゲ……?」
耳を疑うネーミングが飛び出した。
「魔界商店街にある店の名前が“カツアゲ亭”なんだ。悪魔っぽくて人気らしいよ。弁当はまあ、ギリギリ人間でも食べられる」
なんだかいろんな意味でアクが強そうだ。
次なる課題は、台所だけじゃない。
魔界での“まともな食生活”の確保である。