10 ゴミ屋敷を掃除したら、魔界の女神が住んでました
《これまでのあらすじ》
勇者認定を受けながらも追い出され、途方に暮れていたリンは、魔王と狐のトミーに救われる。
彼らの住まいは曰く付きのゴミ屋敷だが、魔王の優しさに触れ、リンはメイドとして台所の掃除と整理を任されることに。
傷つき、疲れ切った体で過ごしつつも、魔界流のメイド服に身を包み、少しずつ自分の居場所を見つけていく。
埃と怨念に満ちた台所を掃除しながら、リンはここで暮らす決意を固めるが、思わぬものが潜んでいた
棚に無理やり押し込まれてた、大きな金属鍋。
埃まみれで使いものにならなそうに見えるけど……
意外としっかりしてる。古そうだけど、丈夫。
「……よいしょっ」
ちょっと慎重に鍋蓋を持ち上げた、そのとき——
ぬっ……と、中から“なにか”が動いた
「……ネズミ?」
反射的にそう思ったけど、すぐに違うって気づいた。
ぎゃあああああ!!!
目が合った。しかも、三つ。
つぶら……とは言いづらい、ぎらっと鋭い三つの目。
灰色のモサモサした毛に丸っこいフォルム。
ぱっと見ネズミ?と思わせるけど……
明らかにおかしい。ていうか——
「サイズがおかしいーーーッ!!」
私と同じくらいの大きさなんて、ネズミじゃなくて熊でしょ
それ!?
パニックで思わず叫ぶより先に、体が勝手に動いてた。
手元の鍋蓋を、即席の盾に。
箒を握りしめて構える!
戦闘態勢、完了!
「くっ、来ないでぇええっ!!」
ネズミ(?)は、バタバタと意味不明な動きで突進してきた。
なんか……前足っぽいのを持ち上げて、叫んだ。
「ガオーッ!!」
……って、おまえ絶対ネズミじゃないし!
ネズミはガオーッて言わない!
反射で、鍋蓋で頭をガツン!!
続けて、箒をブンッ!!
ひるんだ、でも粘ってくる……しぶとい!
こっちだって引くわけにいかない!玄関まで一直線に追い立てる!
「出ろ出ろ出ろ出てけえぇぇぇぇ!!」
まさかの箒アタックラッシュで押し出して——
「シュッ」
ドアを出たその瞬間、霧みたいにスーッと、そいつは消えた。
……え、なにそれ?
空気すら揺れないほどの静けさ。
まるで夢でも見てたみたい。
「……魔界なら、ありなの??」
自分に言い聞かせるように言ってみたが、足はまだ震えている。足ガクガク。
なんとか部屋に戻って、引き続き埃をはらってたら……
空気が変わった。
紫の淀みが晴れ、石造りのシンクが現れる。
「これ……シンク、だよね?」
濁った魔石に手をかざすと、ぬるっ……紫の液体が。
「ぎゃっ、なにこれっ!?」
でも、なぜか目が離せなくて。
魔石を拭くと、だんだん光が——
キラキラと水色に。
さらさらさらっ……透明な水が流れ出す。
「……きれい……!」
嬉しくなって皿を洗ってたら、ふわっと声がした。
「まあ、久しぶりに澄んだ空気ね」
振り向くと——水が、人の形に変わっていた。
「……しゃべった!? ていうか人!?」
水の精霊みたいな女の人が、優しく微笑んだ。
「今日から、ここに?」
「は、はいっ。リンっていいます……!」
「ふふ、よろしくね、リンちゃん」
どこかで見た顔だ、と思った。
そう。教会にあった、女神の像——
……この人、女神様……?
でも、まだ聞けなかった。
ただ、きれいな水の音が流れていた。