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旅立つ君へ

 洋服や日用品を詰めた段ボール、愛用のパソコンなどなど。

 この春就職が決まった息子の部屋は、雑然としていたのが嘘のようにがらんとして、代わりに荷造りの済んだ引っ越し荷物が積まれている。


 配属先は新幹線に乗らないと行けない街で、もうすぐ息子は引っ越していくのだ。がらんとした部屋は私の心を映しているようで、寂しさが募る。

 なにせ息子が巣立っていくのだ。

 いつか来る日だとは思っていたけれど、実際その日が来ると心にくるものがある。

 とはいえそんな気持ちを顔に出すことはない。ただふざけた声色で「ママ寂しいわ〜」とおどけてみせるのがせいぜいだ。

 ちなみに息子は私のことを「ママ」とは呼ばない。普段は「おかん」だ。実は一番呼ばれたくなかった呼称だけど、今となってはそれ以外で呼ばれてもゾッとする。


「これも持って行ったら?」


 荷造りを手伝いながら息子愛用のカップを手渡すと、「そうだね」とそれを受け取る息子の手が私の手をかすめた。


 ほんの一瞬触れた体温に、そういえばいつの間にか彼に触れることはなくなっていたな、と気付かされる。


 小さな頃は抱っこしたり、手を繋いであちこち連れて行ったり、一緒にお風呂に入ったりしていたのに、息子が成長するに従って触れ合う機会はなくなっていく。

 あの頃の小さな温もりが腕の中に蘇る気がして、鼻の奥がつんとする。



 さあ、センチになるのはここまで。

 息子の成長とこれからの未来を祝おうじゃないか。手を離れても貴方なら大丈夫と背中を叩いてやろうじゃないか。


 新天地でも頑張れ、息子。

 いつでも帰っておいで。

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