第83話 強襲
ボロ雑巾のように痛めつけられたレイスはモンスターの保安官に引きずられ、車に乗せられた。
しばらくすると、一際巨大な建物の駐車場に停車し、またしてもレイスは引きずられて行ってその建物の中に入り、やがて立派な扉の前につく。
保安官の1人がコンコンとノックすると、すぐに中から「入れ」という返事が返ってくる。
「失礼します、署長。」
中に入ると、署長と呼ばれた頭に二本の角を生やした男が書類に目を通していた。
「そいつはなんだ?人間か?」
署長が倒れるレイスを認識すると、署長は面倒くさそうにため息を吐く。
「おいおい、、、ルル様からお達しがあったのを忘れたのか?「作業効率が落ちるから収容所の人間を殺すのはなるべくやめろ」と。先月言われたばっかりだろ。」
「へっへっへ、ところがですね、こいつは「犯罪者」です。街で馬鹿みたいにウロチョロしていたところを捕まえました。」
「なに?本当か?」
署長は珍しく驚いた様子で聞き返す。「大モンスター連合国」に住む人間は、そのほとんどが「モンスターに勝つことは出来ない」と心の底から理解している。そのためここ数年間、人間による犯罪は起きていなかった。
「今どき我々に歯向かう人間がいたというのか?」
「歯向かうといいますか、、、どうも、「大モンスター連合国」のことすらも知らない感じでしたので、大方、無知な田舎者といったところでしょう。それはそれとして、人間がモンスター街に侵入することは重罪です。尋問室の使用許可をお願いします。」
「好きにしろ。ただし、痛めつけてもいいがなるべく殺すな。そいつも収容所に送る。」
「了解しました。」
保安官は口角を上げると部屋を出て今度は尋問室という名の拷問部屋へ向かう。
様々な器具が並べられているその部屋は人間専用、犯罪を犯した人間たちに苛烈な拷問を加えるための部屋であった。
しかし、モンスターたちの脅威が人間たちに知れ渡ると彼らに反抗しようとする人間はめっきり少なくなってしまい、必然的にこの部屋を使用する回数も少なくなってしまった。
それでも保安官たちは、定期的に「牧場」や「収容所」から人間たちを連行してきて、「教育」という名の拷問を与えてストレス発散をしていたのだが、先月作業効率の低下を理由に政府から「理由のない尋問」の禁止令が下り、ここ数週間はこの尋問室の鍵さえも開けていなかった。
そう言った理由で、最近ストレスが溜まっていた保安官たちにとって、突然現れた田舎者の娘は、まさにちょうどいいオモチャであった。
保安官たちは、尋問室に入ると中央にある診察台のようなベッドにレイスを寝かせた。
「久しぶりだし、じっくりと楽しもう。前みたいに3日で死なせるなんてことはないようにな。」
「わかってるって。それよりもお前はみんなを呼んでこい。俺たちだけでやって後で文句を言われたくない。俺は準備をしておく。」
「そうだな、分かった。」
保安官の1人が仲間を呼ぶために部屋を出ていくと、尋問室には台に寝かされたレイスと、一番初めにレイスに声をかけたゴブリンの保安官の2人だけとなる。
「、、、、、、。」
同僚が部屋を出たのを確認すると、ゴブリンはこっそりドアを閉めて鍵をかけ、レイスの体を舐めまわすように凝視する。
「フフフ、、、人間にしちゃ見た目はなかなか悪くない。あいつらが来るまで5分ってところか、、、十分だな。」
そう言いながらゴブリンは保安官の制服を脱ぎながらレイスに手を伸ばす。
「少しは楽しませてくれよ、人間?」
ゴブリンの手がレイスの胸に触れる寸前、レイスの腕が素早く動いて、ゴブリンの手首をガッチリと掴んだ。ゴブリンは完全に予想外の出来事にぎょっと目を見開く。
「ッ!?」
「お客様、当店ではおさわりは禁止となっております。」
当然、ゴブリンもただひたすら呆然とし続けていたわけではない。彼は念のためにすぐ近くに置いてあったスタンロッドを空いてる手で掴み、思い切り振り上げたが、
「フンッ!!」
それよりも早くレイスの拳がゴブリンの顔に直撃し、彼は部屋を突き破り、廊下の壁に激突して倒れた。
「やはり、わざと捕まって案内してもらうのが一番手っ取り早いですね。ここを制圧して移動手段をゲットしましょう。」
(結局毎回とりあえず暴れることになるのね、、、)
フレイヤが呆れのため息を吐いたのと同時に、外から大勢が駆けつけてくる音が聞こえてくる。
「さて、せっかく警察署に来たんだし、アウトローに行きますか。」
そのころ署長は、執務室の中で椅子に座りながら書類に目を通していた。
今頃連行されてきた女が、部下たちに弄ばれているであろうということを想像しながら。
(それにしても、、、人間一匹がどうやって街に入り込んだのやら、、、)
転移者の1人、「天魔王ルル・ルーン」がモンスターの国家、「大モンスター連合国」を建国して以来、強大な力を与えられたモンスターたちによって人間は完全な支配下に置かれた。
人間の居住地は「収容所」「農場」「工場」に限定され、そこから脱走を図った者は例外なく死刑。
それが「大モンスター連合国」の絶対的なルールである。
ところが、今日連行されてきた女は、部下によると「大モンスター連合国」のことすらも知らない田舎者ということらしかった。
そんな人間の集落が今も存在しているのか、仮にあったとして、女1人がそんな辺境からモンスターの街まで来ることができるのか、署長の頭の中では疑問が尽きなかった。
そうこう考えているうちに、遠くから部下たちが叫ぶ声、そして、物を壁にたたきつけるような音が聞こえてくる。署長はそれが女にかけられた拷問による音に違いないと思った。
(まぁ、今更どうでもいいか、、、どうせあの女はもう助からんだろう、、、それに、尋問の途中で何か吐くかもしれんし、、、ん?)
署長は違和感に気づいた。遠くから聞こえていたはずの音がどんどんと近づいてくる。
それどころか、不規則に聞こえてくるドゴンドゴンという音に合わせて、部屋全体がまるで地震のように揺れるのである。明らかに普通ではない事態が起こっているのは明白であった。
(なんだ、、、?何が起きてる、、、?)
「そぉいっ!!」
直後、署長室の扉を粉砕して何かが部屋に投げ込まれた。その物体は、全身が傷だらけになった部下であった。だが、それ以上に署長を驚愕させたのは、破壊された扉の向こう側にいた存在である。
「貴様は、、、!」
そこにいたのはまぎれもなく、ほんの数分前に部下が引きずってきた女であった。しかしその顔は先ほどとはかけ離れた、華奢な外見に全く似合わない狂暴そうな笑みを浮かべている。
「やあどうも。騒がしくしてごめんね。」
署長の前に現れたレイスは、スマホの画面に地図を出し、それを署長に見せる。
「単刀直入に言うと、この印がついているところまで連れて行ってほしい。言うとおりにしてくれれば危害は加えない。」
「、、、貴様、ただの人間ではないな?」
署長はレイスの言葉を無視してゆっくりと立ち上がると制服を脱いで鍛え上げられた上半身をさらす。
「どうやらそれなりの力はあるようだが、その程度で私を倒そうなどとは、思い上がりも甚だしい。」
署長が力を込めると、彼の体に血管のような赤い紋章が浮かび上がり、魔力が増大していって署長室は魔力の暴風が吹き荒れて壁や屋根が消し飛び、外にむき出しの状態となった。
「我々モンスターは偉大なる魔王ルル様によって力を与えられた。ましてや高位の魔族である私は人間などはるかに超越した力を持つ。貴様がどれほど身の程知らずなのかということを私が思い知らせてや」
ドスッ!!
「ろっ!!?」
次の瞬間にはレイスの拳が署長の腹に刺さり、彼は大きく目を見開いてうずくまった。
「あ、、、あが、、、」
「悪いんだけど時間がない。強硬手段で行くぞ。」
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