第82話 立て続けの災難
レイスは、自分の頬がペチペチと叩かれるのを感じて意識を取り戻した。
「レイス!起きて!起きなさい!」
「うーん、、、あと5分、、、」
「寝ぼけてる場合じゃないわよ!いいから起きて!!」
ひときわ強烈な平手打ちを受けてレイスは呻きながら目を開いた。
レイスの目の前には、慌てふためいた様子のフレイヤの顔が映る。
「な、なに、、、?」
「やっと起きた!大変なことになったわよ!!」
「大変なこと、、、?」
キョロキョロとあたりを見渡すと、ごみ溜めのような場所にいることに気づいた。
「え、、、?ここどこ、、、?」
「私たち、ワープ中に放りだされちゃったでしょ?どうやらそのせいで転移者の世界の中に落ちちゃったみたいなの。」
「えーっと、、、あぁ!思い出した!!」
寝ぼけ眼だったレイスだが、フレイヤの言葉を聞いて急速に意識がはっきりしだし、同時に気を失う直前のことも思い出した。彼らは飛行機でワープしている最中、謎の攻撃を受けてワープ空間に放りだされたのである。
「そうだ!グレッグとパナさんとノルは!?」
レイスが聞くとフレイヤは悔しそうにうつむいた。
「どこにもいないわ。そもそもワープ空間の中で離ればなれになって同じ場所に落ちるなんてそれこそ奇跡でも起きないとありえないわよ。私とあなたは一心同体だから当然同じ場所に落ちることができたわけだけどね。」
「ということはあれですね、久しぶりの二人っきりというわけですね。」
「、、、なんかやらしい言い方ね。」
「ごめんなさい。デリカシーがありませんでした。」
「いや、別に謝らなくても、、、まぁいいわ。あなたが言った通りしばらくは二人きりで行動しなければならないようね。スマホは持ってる?」
フレイヤに言われてレイスはグレッグからもらったスマートフォンを鞄から取り出した。
「それでグレッグと連絡をとってみましょう。」
「はい。えーと、、、えーと、、、」
いまだにスマホに慣れていないレイスは、頼りない指の動きでなんとかグレッグに電話をかける。しかし、
トゥルルルッ トゥルルルッ
レイスのスマホは音が鳴るだけで一向にグレッグと繋がらなかった。
「、、、駄目ですね、繋がりません。」
「そんな、、、まさか、、、」
一瞬最悪の可能性がフレイヤの脳裏に浮かぶが、レイスがそれを遮るように強く否定した。
「あの二人がそう簡単にくたばるわけがありませんよ。きっと、、、まだ寝てるか捕まっているか、そのどちらかでしょう。そうに決まっています。」
「そ、そうね、、、ごめんなさい、、、でも、これからどうすればいいかしら?」
「、、、、、、!そうだ!GPS!」
「え!?GPS!?」
突然ひらめいたように叫んだレイスに驚いて、フレイヤは思わずオウム返しをした。
「そう!グレッグが以前お互いの位置を分かるようにしようって言ってた。確かこのメモに、、、」
鞄から取り出した紙を見ながら、レイスはたどたどしい指の動きでスマホを操作していく。
「よし!!場所が分かったぞ!!おまけにグレッグとノルは一緒にいるっぽい!!」
「ホント!?手でもつないでたのかしら!?」
フレイヤが急いでレイスのスマホを覗き込むと、そこには大陸のような形のものの中に自分たちの位置を示していると思われる青い丸、そしてそこから北東、大陸のちょうど真ん中くらいの位置に赤い丸があるのが確認できた。
「この赤いのがたぶんグレッグのスマホだ。ノルのスマホも全く同じ位置にある。そして青いのが俺たち。この赤を目指していけばグレッグと合流できるはずです。さぁ、行きましょうか。」
当然のように出発しようとしたレイスをフレイヤが慌てて止める。
「まさか歩いて行く気!?冗談でしょ!?」
「いや、、、だって地図見た感じ結構近そうですよ?」
「前に私が言ったのを忘れたの?そのスマホの地図だと確かに近そうに見えるけど、12世界はとんでもなくひろいのよ?ナロパニアンとかとは比べ物にならないくらいにね。歩いてなんて行けるわけがないわ。」
「今の俺だったら全力で走ればソニックよりも速いですよ?」
「それでも無茶があるわよ。第一、街をなぎ倒しながら行くつもり?」
フレイヤの言葉を聞いたレイスの頭には、いくつもの街を崩壊させながら前進する破壊神のような自身の姿が思い浮かんだ。
「それはさすがに駄目ですね。」
「とはいったものの、、、どうすればいいかしら。飛行機を使おうにもレイスは顔が割れちゃってるし、、、」
「うーん、、、、、、あ!そうだ!」
数分後、レイスは女性の姿で路地裏から通りに出た。
「我ながら名案だ。これなら絶対にバレない。」
(ホントね、男も女も着れそうな服を城からもらっといてよかったわ。それにしても、、、)
貴族が着るような清潔感ある服に身を包み、レイスは通りを歩いていく。
フレイヤはレイスの体内から周囲の様子を観察して気になったことを呟いた。
(通りを歩いているのはものの見事にモンスターばっかりね。)
フレイヤが言った通り、通りを歩いているのはオーク、オーガ、ゴブリン、ウェアウルフ、さらには頭に角を生やしたおそらく「魔族」と呼ばれる人種の人々、レイスの故郷アルフガンドでいうところの「モンスター」ばかりであった。
「そんな世界もあるということでしょう。なにもおかしくありませんよ。」
(それはいいんだけど、ほら見てよ、周りの人たちの視線。)
フレイヤが気になったのはそれだけではなかった。通りを歩くモンスターたちはそのほとんど全てがレイスのことをジロジロと見ていた。
それも、単に人間が物珍しいからというわけではなく、明らかに侮蔑の色が浮かんでいる。
「まぁ、それだけ人間が珍しいということでしょう。気にしすぎですってば。」
(、、、そうだといいんだけど。)
「おい、そこの人間。」
レイスとフレイヤが会話をしていると、背後から乱暴そうな声が聞こえてきた。振り返ると、保安官の服装をしたゴブリンと思われる背の高いサングラスをかけた二人組が立っていた。
「???」
レイスは周囲をキョロキョロと見渡すが、ゴブリンが呼び止めたらしい人が見つからない。いったい誰のことを言っているのかとレイスは不思議に思った。
「おい、お前に言ってるのだ女。来い。」
「、、、、、、あっ、俺、、、いや、、、私ですか?」
ゴブリンが言った相手が自分だとようやく理解したレイスは、素直にゴブリンたちに近づいて行った。
「、、、私に何か御用ですか?保安官?」
「何か用はこちらのセリフ。人間の貴様がなぜここにいる。ここは「モンスター街」。人間は「人間地区」か「人間収容所」、「人間牧場」のどれかにいることが義務付けられているはずだが?それに人間はボロ布以外を着ることは認められておらん。いったいどこから盗んできた。」
不穏な単語がいくつも出てきてレイスはいろいろと質問がしたくなったが、ここでトラブルを起こすのはマズイと飲み込み、あくまで無害な女性の演技を続けることにした。
「わざわざ教えてくださってありがとう親切な保安官。ですがあいにく私はよその国から来た旅行客。あなたがおっしゃったどれにも私の家はありませんわ。」
「旅行客、、、だと、、、?たわけたことを抜かすな。この世界に「大モンスター連合国」以外の国など存在しない。」
(「大モンスター連合国」?この国の名前か?)
レイスがゴブリンの口から出てきた単語について考えていると、いつの間にか別の保安官が複数やってきて、取り囲まれてしまう。
「本当に何も知らない田舎者なんだとしたら不幸だが、、、仕方がない。この国では人間ごときが我々モンスターの街に入り込むなど重罪だからな。」
その言葉とほぼ同時にレイスは頭部に強い衝撃を受け、地面に倒される。
「おい!何を!」
レイスが抗議しようとするも、保安官たちは止まらずレイスを蹴り続ける。やがて彼はぐったりとして動かなくなり、保安官たちはレイスをゴミのように引きずって警察署に向かった。
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