第75話 ナロパニアン最終決戦(7)
レイスとランド、二人の間に流れる短い沈黙。
その沈黙を先に破ったのはランドであった。
「くらえ!!」
ソニックとは全く比べ物にならない、光を超越した速度でランドは槍をレイスめがけて突き出す。グレッグやノルには、まるで感じ取ることさえもできないまさに異次元の攻撃。
しかし、レイスはその槍の動きをはっきりと目で追い、
「オラァッッ!!」
槍が到達するよりも速くランドの間合いに飛び込んで、右手でランドの腹を殴打した。
「グフッッ!!」
強烈な一撃を受けたランドは勢いよく飛び、背中から地面に倒れこむ。
「う、、、おのれ、、、槍のリーチ差が通用しないとは、、、」
ランドはこれまでのように手を抜いていたわけではない。おまけに素手のレイスに対して、ランドは槍を持っているため単純なリーチ差は歴然。にもかかわらず、ランドの槍は届かず、反対にレイスの拳だけがランドの腹に突き刺さる。
このわずかな攻防が、今のレイスとランドの身体能力の差を如実に物語っていた。
「ハァァァッッ!!!」
間髪入れずレイスが倒れるランドに飛び掛かる。ランドを叩き潰す勢いで振り下ろされるレイスの拳を、ランドはとっさに後ろに跳ぶことでなんとか躱し、そのまま地面を蹴って上空に逃れた。
「吹っ飛んじまうがいい!!「獄炎」!!!」
空中で止まったランドは右手に魔力を集中させて先ほど撃ったものの数倍にもなる大きさの「獄炎」を出し、それを地面に投げつける。
宇宙そのものを破壊しかねないほどのエネルギーを目の前にしても、レイスの顔色は変わらない。彼は地面を蹴って「獄炎」に急接近すると、
「フンッッ!!!」
右足に渾身の力を込めて思い切り蹴り飛ばした。
「な、何!?」
ランドは一瞬訳が分からなくなり、思考停止に陥った。ランドの視点では下に向かって放つことで小さくなっていったはずの「獄炎」が、どんどん大きくなっていく。やがて「獄炎」がこっちに向かってきていることに気づいたランドは、空中でなんとか魔法を回避する。
空のはるか彼方に昇っていった「獄炎」は、上空で大爆発を起こした。
「はじき返しただと!?なんてヤツだ!」
今の「獄炎」は手加減状態で撃ったものとは次元が違う。正真正銘、ランドが放った「全力」の一撃だった。それを、ランドの視点では見えなかったが、おそらく力ずくではじき返してきたという事実にランドは衝撃を受ける。
ランドが上空の爆発に意識を向けていると、目のまえに突如レイスが現れる。彼は「獄炎」を蹴り飛ばした直後、さらに地面を蹴って上空にいるランドに急接近した。
「クッ!」
レイスの接近に気づいたランドは直後に攻撃が来ることを察知して、腕をクロスさせて備える。その直後、レイスはランドに対して蹴りを放った。
ランドはその蹴りを防ぎきる自信があったが、レイスの足はランドの強靭な両腕をたった一発でグチャグチャに粉砕した。
「ウオオオッ!!」
ランドは絶叫しながら高速で地面に向かって落ちていく。やがてランドの体は隕石のように地面に墜落し、爆音とともに巨大なクレーターを作った。
「う、、、ぐ、、、っ!」
ランドは穴の中で自身に回復魔法をかける。しかし、そのダメージがあまりにも大きかったために傷の治りが遅い。そのもどかしさもランドにとっては初めての経験であった。
(まさか、、、奴の体のどこにあれほどの力が、、、!)
「どうする、やるか?それとももう終わりか?」
ランドを見下ろしながら、挑発とも、単なる質問ともとれる言葉がレイスの口から発せられる。ランドはレイスの言葉を「挑発」として受け取った。
(コ、コケにしやがって、、、)
ランドは怪我を治してゆっくりと立ち上がりレイスを睨みつける。その様子からランドに戦闘継続の意思があることを感じ取ったレイスが構えを取る。
「ハハハ、、、なに、まだまだ、、、元気いっぱいだぜ!!」
そう言ったランドの体が黄金色の魔力に包まれる。そして彼は槍に魔力を込めて、先ほどレイスを貫いた黒い雷を槍に纏わせた。
「これが俺の、、、「真の黒雷槍」だ。」
ヒュンッ
黒い稲妻がレイスですらも認識するのがやっとのスピードで彼のすぐ真横を通り抜ける。
その直後、レイスの背後に頂上が見えないほどの大きさの「黒い雷の柱」ができる。レイスの視点では分からないが、その柱の発生地点はレイスたちからは数兆光年も離れた場所であり、それをレイスたちのいる場所からいる場所から視認できるということは、当然その柱の大きさもすさまじく、小規模な宇宙程度ならそのまま飲み込んでしまえるほどである。
おまけにその巨大な柱は、ほんの一部分、それこそ掌程度の大きさの中に、ビッグバン数百発はあろうかというほどのエネルギーがつまっている、超高密度のエネルギーの塊であった。
「チ、、、外したか。やはり強力すぎてコントロールが効かん。」
「、、、大した威力だな。」
背後に出た柱を一瞬だけ見た後、レイスは感心するようにつぶやいた。
「これこそが黒雷槍の神髄だ。この槍は俺の手作りでな。俺のパワーとスピードに耐えられる武器はやはり「俺自身が作ったもの」だけということだ。ちなみに、これは槍であると同時に俺自身の魔力を増幅させる杖でもある。正直言って、この魔法を近くで使うのは避けたいが、やむを得ん。」
ランドはそれだけ言うと、再び槍に雷を纏わせて、、前傾姿勢になり槍を前に突き出すための構えを取った。
「今度は外さないぞ。」
ランドの様子を見て、二人の戦いを観戦していたグレッグは血の気が引いた。
「ま、またやる気だ、、、!あの無茶苦茶な魔法を、、、!」
「フンッ!!」
ランドは槍を突き出し先端から光の塊を撃ちだした。
(、、、、、、?)
レイスは身を捩ってその光を躱したが、レイスはそれに違和感を感じた。
「やった!躱した!」
「いや、あれは、、、!」
遠くで見ていたノルは喜んだが、グレッグは険しい顔をする。
「魔力を感じない、あれはこけおどしだ!」
(、、、罠!!)
ランドの狙いに気づいたレイスがすぐに前を向くが、ランドが立っていた場所にはすでに誰もいなかった。
彼はすでに、レイスのすぐ斜め後ろに接近してきており、膨大な魔力が込められた槍を振り上げていた。
(今のはただの閃光、本命はこっちだ!)
ランドの最強の攻撃魔法、「黒雷槍」が最も高い威力を発揮するのは、雷を纏わせた槍を「直接相手に叩き込む」時である。槍が敵に刺さった瞬間、先ほどのものとは比べ物にならない、さらに巨大な大爆発を引き起こす。それが「黒雷槍」の神髄である。
(爆発で俺もダメージは負うだろうが元は俺の魔力だ 。致命傷にはならないハズだ!)
もっとも、ランドにもその確証はなかった。ただ彼は、自身の安全よりも、レイスを倒すことを優先させたのであった。
ランドの凄まじい殺気を感じ取ったのか、槍が彼にたどり着く直前、レイスはバッとランドのほうを向いた。
(さすがの反応速度、、、!しかしもう避けるのは間に合わん!そして当たればその瞬間に終わりだ!)
「勝った!!真・黒雷槍!!!」
勝利宣言をしたランドは槍に渾身の力でありったけの魔力を込めてレイスに突き出す。
そのまま刺さっても、防御しようとしても、レイスの死と自身の勝利は絶対に揺るがない。そう思った時ランドの中では、今までに感じたことが無い高揚感に満たされた。
しかし直後にレイスがとった行動は、ランドの予想のどれとも異なるものであった。
彼は拳をグッと強く握りしめると、
「ウアアアアッッ!!!」
なんと、迫り来る槍と真っ向から打ち合った。ランドの槍は、アッパーのように振り上げられたその拳に触れた瞬間、
バギィンッ!!
と、重たい音を立てて粉々に砕け散った。
槍に込められたランドの最大威力の黒雷槍も、それを遥かに上回るレイスの桁外れのパワーによって完全にかき消されてしまった。
「ハ、、、?な、、、え、、、?」
(なにが、、、起きた、、、?)
その光景を見たランドは思考が止まった。それによって一瞬だけランドの体が硬直したのを、レイスは見逃さなかった。彼は再び拳を強く握ると大きく振りかぶる。それが視界に入ったランドはここで我に返った。
(マズイ!逃げ、、、!)
危機を察知したランドは後ろに飛びのいてレイスから何とか距離を取ろうとするが、レイスはその瞬間ランドの足を強く踏みつけて彼の動きを止めた。
「ク、、、ッ!」
「今度こそ、途中で逃がしはしない。」
女性のように細いレイスの腕にビキビキと血管が浮き上がっていく。
「『デッドリー・フル・コンボ』!!!」
レイスの拳が勢いよくランドの腹に刺さる。激痛に悶える暇もなくランドの体は流星のような勢いで空に飛んでいった。
レイスの攻撃はそれだけにとどまらず、ランドが飛んでいく先にすでに先回りしており、彼の背中に膝蹴りを浴びせて反対方向に蹴り飛ばした。
「グッッ!!」
ランドは蹴り飛ばされ、さらにその先にもレイスが回り込んでおり、追撃によってさらに別方向に飛ばされる。その後さらに先回りからの追撃、先回りからの追撃と、なすすべなくレイスの猛攻を受け続ける。レイスの打撃があまりにも強力でかつ、あまりにも速かったために、ランドは防御どころか反応することすらできなかった。
レイスの攻撃によって魔力を帯びたランドの体が様々な方向へ飛ばされたことで、空にはランドの魔力の跡が線として残り、奇妙な幾何学模様が形成されていく。
「何が起こってるか見えるか?」
「いいや、でもなんか、、、綺麗だな。」
グレッグとノルは地面から、模様が浮かび上がる空を眺めていた。
地上から見れば美しささえ感じる光景であっても、実際の模様の中は苛烈そのものであった。
ランドはわずかな時間の間に体中に何百と打撃を受け、ズタズタになっていく。
(つ、強すぎる、、、メチャクチャだ、、、)
ランドがこれまで散々他人に対して強いてきた、「圧倒的な力という理不尽」。それをランドは今、余すところなく全身に受けていた。
肉体は回復魔法が追いつかず、魔力もほとんど尽きかけている。ランドの命が消えかけているのは誰の目にも明らかであった。
(なんだよ、、、全然、、、満足なんかできないじゃないか、、、)
ランドはこれまでずっと刺激を求めてきた。自分と対等に、いや、それ以上の強さで戦ってくれる相手をずっと探し求めてきた。その結果命を落とすことになったとしても、きっと心の底から満足して死ぬことができるだろうと思っていた。しかし実際には、彼の心は満足には程遠かった。
「負けてたまるか!!!」
ランドは正真正銘、最後の力を振り絞って残った魔力のすべてを右手に込めて、レイスに放つ。しかし、その最後の抵抗も、今のレイスには意味を成さず、難なくランドの手首をつかんだ。レイスはランドをがっちり固定し、とどめの一撃を放つために余ったほうの手に力を込めた。
(ダメ、、、か、、、)
持てる力のすべてを出し切ってなお、到底届かない。それをまざまざと見せつけられて、ランドはとうとう抵抗を諦めた。自分は間もなく死ぬ。それを理解したランドの中に、「恐怖」の感情はなかった。
「あぁ、、、勝ちたかったなぁ、、、」
「フェイタル・パンチッッ!!!」
レイスの最後の一撃が放たれ、ランドの肉体は崩れていく。上半身が完全に消滅し、下半身だけになったランドは地面に落下し、もはや二度と動かない。
長きにわたりナロパニアンに巣食っていた怪物、ジェフリー・ランドは、生まれて初めての「悔しさ」という感情を胸に、ついに果てたのであった。
読んでくださりありがとうございます。
少し遅くなってしまい申し訳ありませんでした。




