第73話 ナロパニアン最終決戦(5)
「ここは、、、どこ、、、?」
気が付いたときレイスは、真っ白な空間に立っていた。
「ここはいったい、、、俺はなんでこんなところに、、、」
自分が誰なのかはなんとなく分かる。しかし自分がなぜここにいるのかは分からない。まるで夢の中にいるようなふわふわとした地に足がついていない感覚。そんな不思議な空間の中でレイスは特に何も考えることなくただ歩いていく。
硬いのか柔らかいのか分からない、地面かどうかもはっきりしない地面をただひたすら歩いていると、目の前に人が立っているのに気づいた。
その人物は、見知った服を着て赤く長い髪をなびかせた綺麗な女性であった。
「、、、、、、!」
レイスはその女性を見た瞬間走り出し、飛び掛かるように彼女を抱きしめると、年甲斐もなく顔を涙でぐちゃぐちゃにして泣きじゃくった。
「兄貴!!兄貴!!俺、兄貴にずっと会いたかった!!」
レイスにとって「姉」であり「兄」でもある、レイスが世界で一番愛し、尊敬する人物、シードル・ビネガーがそこにいたのである。なぜ死んだはずのシードルが目の前にいるのかなどどうでもよかった。
彼はただただシードルに会えたことがうれしくて、ひたすらシードルを抱きしめて泣きじゃくった。
シードルは、すでに自分よりも大きくなった弟の頭を「よくやった」とでも言うように優しくぽんぽんと叩く。
「俺、、、もう絶対に離れないから、、、」
ほんの数秒、しかしレイスにとっては永遠に感じられるほどの至福の時間。そんな彼の頭の中に声が聞こえてくる。
(、、、ス、、、イス、、、)
(なんだ、、、?うるさい、、、邪魔しないでくれ、、、)
レイスはしばらくその声を無視していたが、だんだんと頭に響く声が大きくなっていく。
(レイス!)
「ッッッ!!!」
今度ははっきりと聞こえた。それはレイスに自身の持つものすべてを託してくれたフレイヤの声であった。
そしてその瞬間レイスは全てを思い出した。フレイヤと融合して神の力を得たこと。そして、ランドの攻撃によって自身が致命傷を受けたこと。
「グレッグ!ノル!」
彼の脳裏によぎったのは、二人の仲間のこと。彼らは今もあの戦場にいる。早くあそこに戻らな開ければ彼らはあの恐ろしい男、ランドに殺されてしまう。
「兄貴、、、ごめん、俺、、、ここにいれない、、、戻らないと、、、仲間のところに、、、」
レイスは我に返ってシードルから離れる。シードルの顔は寂しがるどころか誇らしげであった。そして、優しく微笑むとシードルは初めてレイスに対して口を開いた。
「それでこそビネガー家の男だ。行ってこい!!」
「、、、ッ!うん!行ってくる!!」
レイスはシードルに背を向けて走り出した。相変わらずここがどこかは分からないが、このまま走り続けることで元の場所に戻れるという確信に近い予感があった。
「レイスーーーー!!!頑張れよーーーー!!!」
背後からシードルの大きな応援が聞こえてくる。それを聞いてレイスの足には一層力が入った。
「この先に、、、いる、、、!」
レイスは感じた、このまま走っていけばその先で、自分の半身と再会できることを。
「レイスーーーー!」
遠くから1人の真っ赤な髪色の女性が手を振りながら走ってくる。それは紛れもなくレイスの半身フレイヤであった。
「ハァ、、、ハァ、、、やっぱりあなたもここにいたのね。」
「お互い同じことを考えていたようですね。」
2人は再会を喜び合う。そしてフレイヤが少し照れくさそうにしながら口を開いた。
「さっきね、、、亡くなったお父様に会ったの、、、でも頭にあなたの声が聞こえてきて、、、お父様にお別れを言って走ってきたのよ。」
「俺も、さっき兄貴に会ったけど、フレイヤさんのでっかい声が頭に響きました。」
「フフフ。さすがは私の半身ね。」
レイスはフレイヤに手を伸ばした。
「戻りましょう。二人のところへ。」
「ええ!」
フレイヤがレイスの手を握ると、二人の体が光に包まれた。
「さて、どうしたものかな。レイスが死んだ以上、ここにはもう俺を楽しませるものはない。一応、お前たちを始末してから行くかどうするか、、、」
ランドは、レイスの亡骸を見て呆然としているグレッグとノルを見ながら呟いた。
「ま、いいだろう。今日は俺は非常に気分がいい。レイスに免じて見逃してやる。城に飛行機が残ってるだろうし、好きなところへ行くがいいさ。」
ランドは勝手なことを言うと、2人に背を向けて去ろうとする。
「おい、待て!」
そんな彼を、ノルは大声で呼び止めた。
「ん?」
「お、俺が、、、!あ、相手だ!かかってこい!!」
「話聞いてたか?見逃してやるって言ってるだろ。」
「やかましい!」
ノルが有無を言わさず飛びかかる。しかしその速度はランドからすれば止まっているも同然であった。
「フン。」
パァン!
「アグッ!」
ノルはハエを払うように吹き飛ばされ、勢いよく岩に激突し、粉々になった岩の破片の下敷きになった。
「、、、、、、なんだというのだ全く。」
ノルが倒れたのを確認したランドは呆れながら再び背を向けてその場を去ろうとする。しかし直後、背後から火の魔法が飛んできて、不意を突かれたランドはまともに食らってしまう。
「ん?」
「ハァ、、、ハァ、、、」
振り返るとグレッグが自分に向けて両腕を前に突き出していた。それに続くように、ノルが石の山から這い出てきて、ボロボロの体を引きずってランドの前に立った。
「まだ、、、これからだ、、、!」
「チ、、、訳の分からん奴らめ、、、」
攻撃に対する怒りはない。そもそもグレッグやノルごときの攻撃を受けたところで効きはしない。しかしランドは苛立っていた。
「圧倒的な実力差」
それは彼らも感じているはずである。にもかかわらずあくまで自分と戦おうとする姿勢を姿勢を崩そうとしないグレッグたちに対して呆れや困惑の感情を持ち、その不可解さがランドの中では苛立ちに変わっていった。
「理解ができないな。お前たちの大将はすでに死んでいるというのにいったい何のために戦うというのだ?」
「、、、ハハッ、冒険者のことをなんにも分かってないなぁ素人め。」
「なに?」
「一度仲間と認めた相手には互いに命を預けあう。それがビジネスライクじゃない本物の「カッコいい冒険者」ってやつだ。ましてや俺は一度もといた組織を裏切っているからなぁ。このうえこいつを殺されっぱなしで終わったら後の大英雄アーノルド・ベスティリオーネの名が廃るってもんよ!」
それに続くようにグレッグもノルの怪我を治しながら前に進み出た。
「こいつの言うとおりだ。もとより私も死地に赴く覚悟などとうにできている。」
「、、、、、、。」
ビリッ!!
2人の言葉を聞いたランドは全身から稲妻のような威圧を放ってぶつけた。本来ならば恐怖で逃げ出すしかないほどの圧倒的なプレッシャー。しかしグレッグとノルはそれに一瞬だけ気圧されたものの、きちんと二本の足で地面を踏みしめて滝のように汗を流しながらもランドをじっと睨み続ける。
「ほう、、、「覚悟」とやらは本物か、、、いいだろう。そんなに言うならしっかりと始末してやる。さて、どちらからにするか、、、」
ランドは買い物の商品を選ぶようにグレッグとノル交互に視線を移す。
「決めたぞ!」
そう言った瞬間、ランドはグレッグとノルには認識すらできないほどの速度で向かっていった。
そして、二人のうちどちらかに、ランドの冷酷な手刀が振り下ろされる、、、
、、、ことはなかった。
バギィッッ!!!
「うッッ!!?」
「何か」に突然顔面に強い衝撃を受け、ランドはそのまま大きく後ろまで飛ばされてしまう。
「この場で、「覚悟」ができてないのはお前だけだ。」
グレッグとノルの前に現れたのは、腰まで届くほどの真っ赤な長髪の「女性」。
2人にはそれがいったい誰なのか見当もつかなかった。
しかし、振り返ったその人物の顔を見たことで、謎は解かれることになった。
「ごめん、遅くなった。」
神々しさすら感じるオーラを放つその人物の顔は、レイス・ビネガーその人であった。
「もう大丈夫。あとは俺に任せといて。」
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