第70話 ナロパニアン最終決戦(2)
昔々、まだナロパニアンが1つの惑星だった頃、ある農家の夫婦の間に男の子が産まれました。
男の子は両親に愛され、すくすくと成長していきました。
ある日、5歳になった男の子はお父さんが古本屋で買ってきた魔法の本を眺めました。
男の子は少し眺めただけでその本に書いてあった魔法をすべて扱え、両親はとてもびっくりしました。
息子の才能を知った両親は彼のよりよい将来のために学校に通わせることにしました。
男の子はそこでさらに多くの魔法を覚えていき、さらに運動も得意でした。
入学して数か月が経つ頃には、魔法、武術両方において男の子に勝てる人はいなくなりました。
十歳になると固有魔法が判明するのですが、学校の先生は男の子の使える魔法が多すぎて、どれが「固有魔法」なのかさっぱりわかりませんでした。
男の子はいつの間にか、学校のすべての生徒たちのあこがれの的になりました。
ある日、男の子が学校にいる間に、彼が住んでいた村が狂暴化した魔物の群れに襲われました。
彼が戻った時には村は壊滅していて、彼の両親も殺されていました。
彼は村を襲った魔物を見つけ出し、森中を飛び回って一日でその種を「絶滅」させました。
男の子はこの時初めて、戦いを「楽しい」と感じるようになりました。
男の子はすくすく育って青年になりました。
青年は学校を卒業すると軍隊に入りました。
軍人になった彼は戦いに明け暮れ、敵を次々と撃破していきました。
彼は国の図書館や遠征先でたくさんの本を読み、魔法、武術両方の面でますます強くなっていきました。
彼は英雄と呼ばれるようになりましたが、敵が弱すぎて彼は退屈でした。
やがて彼は、そのあまりの強さゆえに、祖国からも恐れられるようになり、王様は彼を捕えようとしました。
青年は1日で自分が生まれた国を跡形もなく滅ぼしました。
その後、ナロパニアンのすべての国が、青年1人を倒すために同盟を組みました。
しかし、総力を結集した連合軍は、青年の力で容易く粉砕されました。
退屈を持て余した青年は、ついに宇宙に飛び出しました。
彼は遠い地で、ナロパニアンよりはるかに高い技術を持った異星人や、惑星を食らう巨獣と幾度となく戦いました。
しかしそれでも、彼を満足させることはできませんでした。
青年は思いました。
「もうこの世界に自分より強い者はいない」と。
失意の彼は数百年ぶりに故郷に帰りました。
そして王様に自分を静かな場所に幽閉するようお願いしました。
それから青年は、長い間地下深くで待ち続けました。
自分と存分に戦える強い存在が現れるその時を。
「、、、ん?」
ランドは自分の頬からわずかに血が流れていることに気づいた。
(いつの間に、、、?いや、あの時か。)
ランドがレイスを攻撃する直前、レイスがランドの顔めがけてパンチを繰り出してきていた。ランドはそれを避けたはずであったが、実際にはわずかに掠めていた。
「あのスピードの攻撃は初めてだな。といっても、所詮はその程度か。」
ランドが頬の傷をわずかに撫でると、次の瞬間には傷が跡形もなく消えていた。
一方で、
「ヒ、ヒィ、、、ッ!」
レイスとグレッグが一瞬で倒されるのを見たノルは、震えてその場に座り込むことしかできなかった。
ランドはそんなノルを見ると、彼に近づいて座り込んだ。
「うわッ!!」
「アーノルド・ベスティリオーネ、固有魔法の弱さのために貴族の実家を追放され、自分に特別な力があると思い込んでのこのことレイスと同行することを決めたおめでたいお調子者。レイスにくっついてるフレイヤを見ることができるということは、実際その才能自体はあるのかもしれんが、そんな臆病な様子では戦えるはずもないな。いざ強敵に出くわしたら逃げることしかできんだろう。」
ランドはノルを見て、その性質を一瞬で看破してみせる。
「本当ならお前も始末するべきなんだろうが、、、今日は気分がいいし、戦意が全くない奴を殺してもつまらない。見逃してやろう、どこにでも好きなところに行くがいい。」
ランドは一方的にそう言い放つとそれっきり興味を失ったように立ち上がると先ほどと同じように転移者がいるという方角を見た。
「さて、、、それでは行くとするかな。」
ランドが転移者のいる方向へ飛んでいこうとした時だった。
「おや。」
「ハァ、、、ハァ、、、」
意外な光景を見て目を丸くした。先ほど倒したはずのグレッグが立ち上がっていたからである。よく見ると、彼の腹にあけたはずの穴が綺麗に塞がっている。
「とっくに出血死したと思ったが、、、そういえばそういえばお前は回復役だったな。」
グレッグの使う魔法を思い出したランドはうんうんと納得した。
(危なかった、、、痛すぎて逆に気絶しなかったから自分に回復魔法をかけれた。)
ランドに腹を貫かれた後、グレッグは激痛のあまり逆に意識を失いはせず、なんとか自分に回復魔法をかけることで窮地を逃れていた。
「だが、回復役が1人でどうするというのだ?」
「私を回復しかできないと思ったら大間違いだぞ!」
(今の私なら、できるはずだ!)
「ハァァァァッ、、、!」
グレッグは手に魔力を込め、火の玉を生み出した。
「くらえ!ファイヤーボール・マルチショット!」
グレッグはランドに火の玉を次々と投げる。
しかしランドはそれを避けようとすらせず、涼しい顔で火の玉を受け流す。
「くだらんな。そんなもので俺を倒せるか!」
グレッグが飛んでくるファイヤーボールをかき消しつつグレッグに向かっていく。
しかし、グレッグの顔には恐怖はなく、むしろ「してやったり」というような笑みを浮かべていた。
(なんだ?)
ランドがその様子を不審に思った時、
「よう。」
ランドの背後から声が聞こえてきて、彼はグレッグを攻撃しようとするのを止められるように襟を引っ張られた。
「なに!?」
ランドが振り返った時、そこには凶暴な笑顔で拳を振り上げるレイスの姿があった。
「ラァッッ!!!」
レイスはそのまま渾身の力を込めてランドを殴り飛ばした。
「カハッ、、、!」
さすがのランドもダメージを受け、そのまま地面に転がった後、口から血を吐いた。
(間違いなく首の骨を折った手ごたえはあった、、、それに奴は回復魔法は使えないはず、、、なのになぜ、、、)
レイスが起き上がったことが解せなかったランドであったが、先ほどのグレッグの表情を思い出してある可能性が頭をよぎった。
(そうか、ファイヤーボールで俺の視界を塞いでいるうちにおそらく回復魔法を固めてヤツに投げつけたのか。あれは攻撃のためではなく目くらまし、、、!)
「なるほどな、、、」
納得がいったランドはすぐさま起き上がった。
「チ、、、やっぱり大して効いてないか、、、」
「パワーもスピードも、さっきと比べて格段に上がっている。その回復魔法の副次効果か?なかなかいいコンビのようだ。前言撤回しよう、少しは楽しめそうだな。」
ランドは笑顔でそうつぶやくと2人と向かい合った。
「ノル、、、ごめんな、、、」
レイスは小声で、後ろにいるノルに声をかけた。
「え?」
「勝手に巻き込んでごめん。大丈夫だから、安全なところに逃げてくれ。多分あいつはお前を狙っていない。」
「、、、、、、!」
その言葉を聞いたノルは少し悩んだが、
「あ、あぁ、、、その、、、さよなら!!」
うなずくとその場から走り去っていった。
案の定、ランドはノルに興味がないようで、彼が戦線離脱しても何のリアクションもとらなかった。
「第二ラウンドだ。かかってこい。」
「言われずとも。」
ランドはレイスに急接近すると、ドアをノックするように彼の胸を叩いた。
「ガ、、、、ッ!」
その威力は絶大で、一発でレイスのあばらが粉々になるが、今度は吹き飛びはせずに踏ん張り、カウンターでランドの腹部に一撃を叩き込んだ。
「グ、、、ッ!」
ランドは苦痛でわずかに顔を歪めて後ずさる。顔を上げた時ランドは、レイスの破壊された胸が魔法によって治っていくのが見えた。
「傷は私が治します!レイスはどんどん攻撃してください!」
「あぁ、たよりにしてるぜ。」
「フン、面白い。」
「仕方ない仕方ない、、、!どうせ何もできないし、、、俺があんな化け物どもの巣窟にいたって何もできないし、、、!」
グレッグのサポートを得るレイスと、ランドの戦いが始まった時、ノルは頭の中で言い訳を考えながらひたすら走っていた。
「大体俺本来関係ないし!あいつらに協力してやる義理とかないし!うん!忘れよう!!」
(本当にいいのか?)
ノルは声が聞こえてくるのを感じた。驚いてあたりを見渡すが、遠くにレイスたちが見えるだけで周りには誰もいない。
(そうやって、また逃げるのか?)
「え?なに?心の中の声?いや、そんなこと言ったって、、、」
心の声を聞いたことで、彼の頭にこれまでの人生が流れてくる。
じっかを追い出され、冒険者としても大成せず周りから馬鹿にされ、挙句犯罪組織の下っ端として身を置き、そこを抜ける勇気もなかった、無様でどうしようもない自分。
そして、そんな自分を兄の手から助けてくれたレイスの姿が頭に浮かび上がる。
(君、なんか、そんなに悪い奴じゃないでしょ。)
(この子の手も治してやってよ。)
(大丈夫だから、安全なところに逃げてくれ。)
先ほどのレイスの言葉を思い出して、ノルは唇をかむ。そして無意識のうちに、彼の体はレイスたちが戦う戦場へ向けられていた。
(逃げたら、、、ここで逃げたらきっと、、、「偉大になって幸福な人生を歩む」という俺の夢は永遠に死ぬ、、、!)
(そうとも、これが最後のチャンスだ。)
心の中の声も後押しをして、彼は戦場に戻っていく。
戦場ではレイスとコウガによる攻防が行われていた。
「ハァッ!」
レイスはランドに鋭い突きを放つが、彼はその攻撃を軽くかわしてみせる。
そして、ほんのわずかな隙ができたレイスの体に手刀を振り下ろさんとした。
「しま、、、っ!」
「頭を切り落とされても復活できるか?くらえ!」
ランドが手に力を込めた時、
ゴンッ!
石が飛んできてランドの頭を直撃した。
「ん?」
それ自体はランドにとっては痛くもかゆくもないものであったが、急に石が飛んできたことに一瞬だけ気を取られた。
「ウオオオオオオッ!!」
そのほんのわずかな隙を見逃さず、レイスは彼を思い切り蹴り飛ばした。
石を投げて助太刀してくれた相手を見たとき、レイスとグレッグは目を丸くした。
「お、お前は、、、」
「ハァ、、、ハァ、、、よう、、、」
それは、先ほど逃がしたはずのノルであった。彼は速足でレイスに近づくと、
バキッ!
彼の顔を思い切り殴った。
「ハッ!?え!?何!?」
「さっきの無礼はこれで勘弁してやる!!」
「ぶ、無礼って!?」
「この俺を!「助けてもらっておきながら強敵を前にとっとと逃げ出す臆病者」として扱ったことだ!!この「アーノルド・ベスティリオーネ」はそんな安っぽい男ではない!!」
あまりの剣幕に二人は圧倒される。ノルの目には今までにない「覚悟」が宿っているように感じられた。彼は呼吸を整えるとレイスの肩に手を置いた。
「乗りかかった船を俺は下りたりしない。俺は、、、誰よりも偉大になるために、、、お前たちとともに、、、お前たちのために戦うぞ!」
ノルはこれまで、その環境のために自分のために生きることしかできなかった。そんな彼がこの時初めて、「誰かのために戦いたい」と心から思った。その時、彼の体に変化が起きた。
「うわ!なんだ!?」
彼の体が光を発し、彼の中の魔力が急激に上昇していく。さらに、彼の両手の甲にはそれぞれ磁石のように「S」と「N」の字が浮かび上がった。
「これは、、、!」
レイス、フレイヤ、グレッグ、パナ、彼ら全員が、ノルの体に何が起こったのかを察した。
「ノル君!あなた、神と融合したのよ!!」
フレイヤが興奮した様子でレイスの中から飛び出してきた。
「お、俺が、、、!?」
「ええ!今のあなたなら分かるはずよ!あなたの体に何の神が宿っていたのか!」
「え、えっと、、、」
突然のことに困惑したが、ノルの頭には不思議と様々な情報が入ってきた。世界のこと、転移者のこと、そして、
「フォルトゥナ、、、運命の神フォルトゥナ、、、俺の中にいるのを感じる、、、!」
「運命、、、?「引き寄せる」からか?」
「そうだ、、、俺は必ず「幸せ」を自分の手で引き寄せてやる!!」
3人目の融合者の誕生に、いつの間にかグレッグの中から出てきていたパナも含めて、5人は大いに盛り上がった。しかし、
「いやー、、、なかなか感動的じゃないか。」
遠くに吹き飛ばしたランドが戻ってきたことで、その場に一気に緊張が走る。
「その役立たずの腰抜けもめでたく戦力になったことだし、これで3対1、、、いや、「6対1」か? ともかく、そっち側が大幅有利になったわけだ。俺としてもそのほうがいい。」
融合者3人を相手取ることになるというのに、ランドの顔はなおも余裕で満ちている。
「言ってろ、その腹立つ顔を泣き顔に変えてやる。」
そう言い放って構えたレイスとともに、左右にいたグレッグとノルもそれぞれ構えを取る。
「行くぞ!グレッグ!ノル!こいつをぶっ飛ばすぞ!!」
「「おう!!」」
読んでくださりありがとうございます。
ノルが3人目の「融合者」となる回でした。




