第69話 ナロパニアン最終決戦(1)
翌日のちょうど正午、ほぼ丸一日かかってレイスらが乗る飛行機「ミシェル」はソニックの居城である「総督府」がそびえたつナロパニアンの中心地にたどり着いた。
「ここが、、、本当にナロパニアンの中心地か?」
街の中に入ってすぐレイスはノルに確認をとった。
レイスがそう思ったのも無理はなく、どれほど強固な防衛体制が築かれているのかと思えば、街の入り口にはたった1人の門番もおらず、それどころか街の中に入ってみても確かに大きな建物がたくさんあったがにぎやかさなどは欠片もなく人っ子一人いなかった。
「いや、、、たしかにそのはずだけど、、、えぇ、、、?なんで、、、?」
ノルも困惑して、ここて本当にあっているのか疑いたくなった。幼少期に一度だけ親に連れられて訪れた時には、大勢の人でごった返していたような記憶があった。
しかしどうしたことか、目の前に広がる都市は建物こそ綺麗な状態だったがさながらゴーストタウンであり、活気などとは最もほど遠い状態であった。
「私たちが来ることを察して避難した、、、とかでしょうか?」
「うん、、、まぁ、そうなのかな。」
グレッグの言葉に一応は納得し、一行は不気味なゴーストタウンを歩いていく。しばらくして、ノルは数キロほど先にある巨大な城を指さした。
「あそこだ、あの奥に見える一番大きい建物。あそこが総督府だ。」
「どうしますか?回り込みますか?」
「いや、いい。このまままっすぐ行こう。」
グレッグの提案をレイスが遠くの城を見据えながらきっぱりと否定する。
「なんとなく「待ち構えている」のを感じる。」
「ソニックが?」
「いや、あいつもいそうだけど、、、強いのがほかにもいる。誰かは分からないけど。」
今までにない緊張した面持ちのソニックを見てグレッグは不安になる。
「いや、大丈夫ですよね?確かソニックを圧倒したんですよね?」
「うん、、、たぶん大丈夫、、、だと思う。」
一抹の不安を抱えながら一行は少しずつ決戦の地である城に近づいていく。
そしてついに、レイスたちは城にたどり着いた。レイスが予知していた通り、城の敷地内に入るための門のすぐ前ではナロパニアンの主シャイン・ソニックと、左右には鎧に身を包んだ四人の兵士が待ち構えていた。
「フフフ、ようこそわが城へ。それにしてもずいぶんと遅かったじゃないか。飛行機とかを使えばあの町からここまで1時間もかからんはずだがな。道にでも迷ったか?それとも来るのが怖かったのか?」
「なに、ちょっとみんなで観光をしていただけだ。」
レイスと向かいあったソニックは開口一番彼らを挑発する。彼はすでに傷が完治しており、さらにスピードを最大限まで上げるために以前のような重たい鎧は着ずに最低限の装飾を施しただけの軽い貴族服に身を包んでいた。まさに「準備万端」といった様子である。
「一応言うが、チートスキルをおとなしく手放して、もう二度と人々を苦しめないと約束するなら命までは取らない。どうだ?」
「何をたわけたことを!そんな減らず口はもう言えなくなる。地獄を見るのは貴様らのほうだ!」
「ずいぶんと余裕そうだな。そんなに横にいるそいつらが頼りになるのか?」
「こいつらが?フフフ。」
ソニックはレイスの言葉を聞いて静かに笑った。
「こいつらはただの私の親衛隊。とっととこの街から逃げ出した他の臆病者どもよりは多少マシなだけの奴らだ。お前を血祭りにあげるのはこの男だ。」
ソニックが指さした方向には、地面に寝転がる1人の男がいた。あまりにも気配がなかったため、3人とも男の存在に気づくことができなかった。
「おい、出番だぞ!」
ソニックは熟睡しているようにも見える男に大声で叫んだ。
「ん?ああ、、、やっと来たのか、、、よっこらせっと。」
男はあくびをしながらゆっくりと起き上がった。
その男は見たところ80歳は超えていそうな老人であり、着ている服は使い古した雑巾のようにボロボロ。加えてその体はやせ細っておりぼさぼさの白髪や白髭が伸び放題になっている。身長こそ高めであったが、誰がどう見ても戦うことなどできそうもない見た目であった。
(あれは、、、?)
「え?そんなヒョロヒョロの今にも倒れそうなやつが切り札なのか?」
ノルが呆気にとられて、レイスたち全員が思っていた疑問を口に出す。
老人ことランドはその言葉に対して特にリアクションも取らず、ボーっとどこか遠くのほうを見ているようだった。
「な、なんだよこの爺さん、、、絶対戦ったりとかできないだろ、、、。」
「レイス。」
半ば呆れるノルとは対照的に、グレッグが緊張した面持ちでレイスの隣にやってきて耳打ちをする。
「ソニックがただの老人を連れてくるわけがありません。それに、奴らの仲間ということは「チートスキル」を持っているはず。チートスキルを使えばだれでも強大な力を発揮できるのは知っての通りです。あの老人、相応の実力があるとみたほうがいいでしょう。」
「うん、、、分かってる。」
チートスキルの恐ろしさを知っているレイスとグレッグの2人は、老人が出てきたことに驚きこそしたが、かといって警戒を緩めるということはしなかった。
ソニックはそれに対して
「おいおい、こいつを舐めないほうがいいぞ。おい、お前の力を見せてやれ。」
ソニックはランドに命令を出すが、老人は相変わらずボーっと遠くのほうを見ていた。
「おい!聞いているのか!」
よそ見ばかりで命令に対して何も反応を示さないランドにソニックは怒鳴った。
「ああ、、、聞いている、、、。」
怒鳴られたランドはようやくソニックの言葉に返事をし、こちらまで歩いてきて、4人の親衛隊たちを通り過ぎた。その時だった、
シャッ! シャッ!
風が通り過ぎたような音が聞こえてきたかと思うと、親衛隊たちは一瞬でバラバラになって地面に崩れ落ちた。
「、、、、、、え?」
あまりの出来事に、一瞬その場の空気が凍った。
「な、何をしているんだ!!!」
一呼吸おいて激怒したソニックはランドに詰め寄った。その様子からレイスたちはようやく親衛隊たちを殺害したのが目の前の老人だということを認識した。
(え?なんだ?何が起こった?)
レイスはランドをずっと警戒していた。当然、目を離すこともしなかった。しかし、ソニックのスピードさえ見切ったレイスでも、ランドがどのように動いたのかまるで分からなかった。
ソニックはレイスらがいることも忘れてランドに詰め寄っている。
「おい!「ナロパニアンを攻撃するような真似はしない」と約束したのを忘れたのか!?」
「ああ、、、した、、、たしかに約束した、、、だが気が変わった、、、だからナシで。」
「な、なんだと、、、?」
すごい剣幕で怒鳴るソニックに対し、ランドは全く悪びれることなく淡々と言った。
そして、先ほどランドが見ていた方向を指さす。
「久しぶりに地上に出て分かった。あっちのほうにとてつもない強者が集まっている。あれがお前たちが城で時々話していた「転移者様」というやつだろう?」
地下にいたときのランドはナロパニアン全域を見る程度に抑えていたが、地上に出て範囲を広げてみたことで、彼は初めて転移者の存在を正確に感じ取った。
「転移者がナロパニアンや宇宙を支配したのは今から13年前。儂はそのころ暇つぶしで5年通しの「瞑想」の最中だったから気づかなかったが、、、なるほど、たしかにすさまじい力を感じる。あんなに面白そうなのがいるなら起きておけばよかったな。」
若干悔しそうに話すランドを見て、レイスは違和感を覚えた。
(あの口ぶり、、、転移者のことを知らない、、、?あいつは転移者の部下とかじゃないのか、、、?)
「ということで、儂はこれから転移者とかいうやつと戦いに行くことにする。そっちの方が面白そうだしな。だからレイスを倒した後牢に戻るというのもナシだ。いや申し訳ない。」
そんなランドのあまりにも身勝手な言葉に、ソニックは怒りでワナワナと震え、腰に差したナイフを抜いた。
「貴様、、、!この、、、狂人め!!」
ソニックは即座に最大限のスピードを出して先日レイスと戦った時のようにランドの周りを飛び回り死角から突進して彼の体を切り裂こうとした。
しかし、
彼のナイフはランドの親指と人差し指にやさしくつままれてしまった。
「バ、、、バカ、、、な、、、」
「やはりのろい。修行をサボったツケが回ってきたな。」
レイスの目にはランドの空いている左手がほんの少し動いたように見えた。直後、
「え、、、?」
ソニックは自分が死んだことにすら気づかずに死んだ。彼は「細胞レベル」の大きさに切り裂かれて人どころか「生物」としての形をとどめることもできず真っ赤な「血の煙」となってこの世から完全に消え去った。
「「「ッッッ!!!」」」
その現実とは思えないような光景を見てレイス、グレッグ、ノルの3人は絶句した。勝利したとはいえレイスにとっても決して楽とは言えなかった相手。それを全くの無傷、それどころか蚊でも払うかのように下してしまったのだ。
さらに、ランドの驚愕の行動はそれだけにとどまらなかった。
「さてと、、、久しぶりに戦うわけだし一応若返っておくか。」
そう言うとランドの体が魔力に包まれ、一瞬にして老人から整った黒髪で青い目をした青年の姿に変化する。さらに、
「服も変えておきたいな、、、とりあえず、あいつのを真似とくか。」
ボロ雑巾のようだった服がどんどんと変化していき、ソニックが着ていた服の基調を白から黒に変えた貴族服に変化した。
その様子を見て一番驚いたのはノルであった。
「な!?あれはまさか「若返りの魔法」!?神話にしか出てこない、現代では誰も使えないっていう古代魔法じゃないか!!な、なんであいつがそんなのを使えるんだ!?」
「ん?ああ、、、いや、、、使おうと思ったら使えた、、、それだけだ。」
ランドはそれに対して事も無げに答える。古代魔法は「使おうと思ったら使える」なんて代物ではないことはよく知っており、ノルにはランドの言っていることが全く理解できなかった。
驚愕の光景を見て混乱している3人に対して、二十歳ほどの青年の姿となったランドは相変わらずマイペースな様子で話し始めた。
「さて、、、このまま行っても別にいいんだが、、、このまま約束を破りっぱなしというのは儂、、、いや、「俺」的にも少し後味が悪いかな。それじゃあ、、、」
ランドの全身から氷のような冷たい殺気が放たれる。
「当初の契約通り、お前たちは始末していこう。」
「ッ!!!」
その瞬間、レイスは両手にガントレットを発現させた。
(レイス!こいつ明らかに普通じゃないわ!逃げたほうがいいわよ!)
「いや!ここで倒さなければ!!」
ランドの危険性を察知したフレイヤがレイスを止めようとするも、彼は構わず、全力のソニック以上のスピードでランドに向かっていった。ランドの危険性は彼ももちろん察していた。だからこそ彼は「逃亡」という絶対に追いつかれるうえに余計な体力を消耗するだけの無駄なことを避け、自分の態勢が最も整っているうちに一気に猛攻をかけなければならないと思ったのである。しかし、
パンッ!!
レイスがランドに向けてパンチを突き出したのとほぼ同時に、ランドの放った平手打ちがレイスの顔を直撃した。
力も何もこもっていない、それこそ蚊でも払うときのような動きの平手打ち。それだけで、彼の顔と首の骨をめちゃくちゃにするのには十分すぎる威力であった。
「カヒュ、、、ッ!」
レイスの体は城門に激突し、なおも勢いが落ちず飛ばされていく。
「レイッッ!!!、、、、、、ス、、、、、、」
グレッグがレイスの名前を叫ぼうとしたときにはすでに、ランドが彼の目の前まで来ていた。
全身から冷汗がブワッと噴き出る。
「う、うわぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
半狂乱になったグレッグがとにかくランドを攻撃しようと拳を振り上げたが、
「いや、だから遅いよ。理解も、反応も、動きも、何もかも。」
ランドの辛辣な言葉とともに手刀がグレッグの腹に刺さり、彼はその場に崩れ落ちた。
「え、、、うあ、、、あ、、、」
ノルは恐怖のあまり一歩も動くことができず、そのまま倒れるように尻餅をついた。
一瞬にして3人を無力化したランドは失望した様子でため息を吐いた。
「なんだ、、、やっぱり暇つぶしにもならないじゃないか。」
読んでくださりありがとうございます。




