第68話 決戦の1日前
「ところでノル。あのソニックってやつの根城がある場所はどこか分かる?」
「え?あぁ、ナロパニアンの総督府がある場所ならえっと、、、」
ノルはスマホを取りだして慣れた手つきで地図を起動する。
「あっちだ。ここからまっすぐ北。わりと近いから飛行機とかだと一時間くらいで着くはずだ。といっても、飛行機なんかあるはずもないけど。近くの街までは何とか歩いていくしかないか。」
ノルが残念そうにつぶやくと、グレッグが自信たっぷりな様子で進み出てきた。
「フフフ、、、あるんだなそれが。」
グレッグはマジックバッグから自分たちをこれまで乗せてきた飛行機を取りだしてノルに披露した。
「これは、、、」
「ハハハ!これで目的地まで一瞬さ!」
グレッグの飛行機を見たノルは口をポカンと開けている。きっとあまりに素晴らしい飛行機なんで、感動のあまり言葉が出ないのだろうと、グレッグは誇らしげだった。
しかし、ノルの口から出てきた言葉は、グレッグの予想を外れていた。
「なんだコレ!ただの鉄クズじゃないか!」
「て、鉄クズ!?」
あまりにも予想外の言葉に、グレッグは大声で聞き返した。
「そうだよ!なんだこの旧式のガラクタ!これだと総督府のある都市までざっと丸一日以上はかかっちまうぞ!これ乗るくらいなら隣町まで歩いたほうがマシだ!」
「い、言わせておけば!私の愛機「ミシェル」をコケにするなんて!」
「え?この飛行機ミシェルっていうの?」
完全に初耳だったレイスがグレッグに問いかけるも、怒り興奮したグレッグの耳には届いていない。
彼は「許さん!!」と叫ぶとノルに飛びかかり、二人は取っ組み合いの喧嘩になった。
「時速150億キロらしいけどそれでも足りないのかい?」
「当たり前だろ!今の旅行用飛行機ならその二十倍以上が普通だ!今どきこんなガラクタに乗る奴なんかいないって!」
「このヤロ!まだいうか!」
2人の喧嘩はどんどんとヒートアップしていく。レイスはため息を吐くと2人の首根っこを掴んで強引に引きはがした。
「2人とも一旦落ち着いて。このままこの飛行機、、、「ミシェル」で行こう。敵が多いだろう隣町に行くのは危ないし、正直、すぐにソニックのところに行くメリットがあまりない。体力を回復させたいし、このドレスも着替えたいからな。1日はむしろ諸々の準備のためにちょうどいい時間さ。」
レイスのとりなしで、ノルは渋々といった様子で「ミシェル」で移動することに同意した。しかし彼は乗り込んだ後も、
「なんで仮にも貴族の俺がこんな飛行機に、、、」
と小声でぶつぶつと文句を垂れていた。
一方グレッグはもはや慣れた手つきでノルに教えられた座標に従い操作を行った。
「「オートパイロットモード」に「ステルス機能」セット完了。フフフ、、、やはりこの子は天才だ、、、」
だから、そんなもん標準搭載が当たり前だっての。田舎者。」
「おだまりなさい!」
どうにもグレッグとノルは相性が悪いようで互いに睨みあっている。
レイスのほうは、ノルが発した「田舎者」という言葉が心に残った。
(そうか、、、タマの屋敷にあったこの飛行機が本当に旧式なら、、、「アルフガンド」ってこの世界からしたら本当に田舎だったんだな、、、)
レイスはこの時初めて本格的に、世界の広さというものを実感したのだった。
その夜、飛行機の座席でレイスたちは睡眠をとることになったのだが、ノルは昨夜と同じくなかなか寝付くことができなかった。
あまりにも現実離れした出来事が立て続けに起こったからである。また、プライドの高い彼は「特別な才能がある」と言われてその場ではテンションが上がったが、少し冷静になると心の中で「怖さ」が膨れ上がってきた。
これまでナロパニアンの「圧倒的強者」として君臨してきたシャイン・ソニックが「転移者」の手下でしかなく、今後自分はレイスたちとともにそんな未知数の化け物たちとの戦いに身を投じていかなければならない。そう考えるとどうしても不安を感じずにはいられなかった。
そしてもう一つ、ノルには気がかりなことがあった。
(NCCのみんな、本当に死んじゃったのかな、、、)
ソニックが襲来する前に冒険者から聞いた、「NCCが軍の攻撃によって全滅した」という情報についてである。
ノルがレイスに語った、「NCCにうんざりしている」という言葉は嘘ではない。NCCの悪行の話はもちろんノルの耳にも入ってきていたし、そんな犯罪の片棒を担がされていることがずっと心苦しかった。
しかし一方で彼にとってNCC、特にリーダーのカインは野垂れ死ぬ寸前だった自分を拾い上げてくれ、家族として扱ってくれた紛れもない恩人であった。
そんなカインへの恩義から、彼のNCCに対する感情は複雑であり、NCCを抜けたくても決断ができないという状況が延々と続いていた。
レイスと戦ったあの日、なし崩し的にカインの命令に背いてNCCを離反することになり、その後NCCがおそらく壊滅させられたことで、もはや彼にはNCCを気にする必要など無くなったわけであるが、彼の心は決して晴れ晴れとした物ではなかった。
「「カインさんすみません。NCCを抜けます。今までお世話になりました。」、、、ちゃんと別れの挨拶くらいはしたかったな、、、今さらどうしようもないけど。」
心残りを拭いきれないまま、ノルは静かに目を閉じて夜はふけていった。
ノルがNCCに思いを馳せていた頃、ノルたちがいる場所よりも遥か遠く離れた地区の兵士の詰所では阿鼻叫喚の地獄が繰り広げられていた。
「助けてくれーッッ!!」
「バ、バケモノだッッ!!」
アイザックスが新たに加わったNCCは覚えたばかりの神の力を思いのままに行使して、兵士たちを次々と虐殺していた。
「ハハハハハッッ!!壊せ壊せ壊せ!!!新しい力の実験だ!!アハハハハッッ!!」
ノルは知らなかった。カイン達が神との融合によりこれまでとは次元の違う力を手に入れ今まさに各地で元気よく暴れ回っていることなど。
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