第7話 武の神フレイヤ
現在、レイスの修行は最終段階に入っていた。
彼の目の前にあるのは、かつて自身が暮らしていた村があった山よりも、さらに一回り大きい山。
レイスはその場で飛び上がり、山の頂上の、さらに上の上空まで移動する。
「うおおおっ!!」
ドゴォッ!!
山の頂上にレイスが渾身のパンチを放つと、山はバキバキと音を立ててひび割れていき、ついに割れ目は地面にまで到達した。10年の修行の末にレイスは、パンチ1発で山を真っ二つにできるほどに成長したのである。
「よし!いける!いけるぞ!シードル兄さんでもここまではできなかった!!」
今のレイスには確かな自信があった。成長した今の自分ならば、コウガたちを倒すことができるという自信が。
「待っていろコウガ!すぐに貴様の顔面にこの拳を」
「止めといたほうがいいわよ?」
コウガのもとに突撃しようとしたとき、突然背後から声が聞こえてきた。
「ッッ!!?」
レイスが驚いて振り返ると、炎のような赤い長髪の女が、岩の上で足を組みながら座っていた。さらに、彼女は、森に似つかわしくないドレス姿であり、1層異様な雰囲気であった。レイスは慌てて、彼女が座っている岩から距離をとった。
(こ、この人はいったい、、、全然気配を感じなかった、、、)
長く森で生活したことで、感覚が鋭くなったという実感があったが、声をかけられるまで、レイスは彼女の存在に全く気づくことができなかった。
「あ、あんたは、、、誰、、、ですか、、、?」
その女の異様さに気圧されたレイスは、敬語を交えながら話しかける。
「フッフッフッ、、、私は神。とっても偉い神様よ。」
彼女は岩の上で立ち上がるとそうつげた。
「は?え?か、神様?」
「そう!私の名はフレイヤ!武を司る偉大なる女神!」
自信満々に名乗る女性に対し、レイスはポカンとする。
「、、、お嬢さん。少し頭を冷やされたほうが良いでしょう。近くに湖がありますので案内しますよ。」
レイスはできるだけ相手が警戒しないように丁寧に話しかけた。
「ちょっと!?なにその可哀想なものを見る目は!!全く信じてないでしょ!!」
レイスの心を見透かしたようで、彼女は怒りだした。
「い、いやまぁ、、、あの、、、はい、、、」
レイスが正直に答えると、フレイヤはため息をついて岩から降りた。
「いいわ。あなたの後ろにちょうどいいのがあるし、、、」
フレイヤはそう言いながら、レイスが先ほど真っ二つにした山を指さし、その前に移動した。
「ち、ちょっとあんた、なにをするつもりなんだ、、、?」
レイスがフレイヤに呼び掛けるよりも前に、フレイヤは山の前で正拳突きを打つための構えをとった。
「証拠よ。神様の力を見せてあげるわ。」
フレイヤがそう言った時、彼女の手が赤く光り、彼女の周りに炎のようなオーラが出始める。
「ッッッ!?」
レイスはフレイヤの姿に驚愕した。その時、
「ハァッッ!!!」
フレイヤが山に正拳突きを放った。その瞬間、この世のものと思えない轟音とともに、辺りに衝撃波が放たれる。
「ぐわっ!」
レイスはその衝撃波に巻き込まれて、吹き飛ばされてしまった。レイスが顔を上げてフレイヤの方を見たとき、彼は自分の目を疑った。
「う、嘘だろ、、、?」
フレイヤの前にあったはずの山が無くなっていた。それどころか、山があった場所から数キロメートルに渡って、地面が大きく抉れていた。
「この辺りにはろくに動物もいないから、少し思いきりやらせてもらったわ。どう?これで信じてくれるかしら?」
手をプラプラとしながら、フレイヤがレイスに聞く。
「あ、あんた、、、ホントに、、、神様だったのか、、、」
「言っておくけど、あなたが狙っているコウガの強さはこんなもんじゃないわよ。」
「っ!?な、なんでそのことを!?」
「私は一応神様よ?心くらいは読めるわ。」
レイスは深呼吸をして少し落ち着きを取り戻すと、フレイヤに問いかけた。
「あなたは、、、コウガのことを知っているのですか、、、?」
「知ってるもなにも、、、あいつは、、、あいつらは私たちの敵よ。」
フレイヤはレイスに聞かせた。アルフガンドを含めた数多の時空のこと、神によって「チートスキル」という力を与えられた転移者のこと、その転移者が神に反逆し、神を殺し尽くして宇宙の全権を得たことを。
「、、、、、、なんだか想像もつかないような話ですね。」
「最上位神様たちを倒したあいつらはそれこそやりたい放題よ。全時空の人たちに自分たちを崇めるように強制して、神や転移者に反抗的な人たちの残党も奴らの手下たちにどんどん殺されていっているわ。」
「なるほど、、、しかし、、、話を聞いたところ、もとはと言えばあなた方神が蒔いた種だそうではないですか。」
「それについては面目ないわ、ただ言い訳をさせてもらうなら、転移者に関することは、最上位神様の間で行われたことであって、私たちのような下っ端は預かり知らないところよ。」
話が一段落すると、レイスはずっと気になっていた疑問を口にした。
「それで、、、フレイヤ様はなんで俺の前に現れたんですか?」
「そう!それよ!本題に入らなくちゃ!あなた、私と手を組みなさい!」
「、、、はい?」
「私が持っている神の力をあなたにあげるわ。10年でここまで鍛え上げたあなたの根性と才能を見込んでね。」
それを聞いて、レイスは喜ぶどころか不機嫌になった。
「俺にあなたの力を「借りて」戦えって言うんですか?「チートスキル」とやらをもらった転移者みたいに?バカバカしい!お断りですよそんなの!俺は「自分の力」であいつらをぶっとばしてやるって決めたんだ!」
レイスの激昂に対して、フレイヤは落ち着いた口調で話を続ける。
「人は誰しも少なからず神の恩恵を受けているのよ。もっと言えばすべての人は神の力を「借りている」状態なの。
例えば、、、魔法が代表的かしら?人の体の中にある魔力は神によって与えられたものなの。そして、それら「神の加護」は転移者の「チートスキル」とは違って本人の才覚や努力に左右されて増えたりするの。
私があなたを選んだのは、あなた自身の「力」を見込んだからよ。私があなたに与える力は単なる「借り物」なんかじゃなくってあなた自身の力って言ってもいいわ。」
「、、、、、、」
レイスは無言でフレイヤの言葉を聞いている。
「それに、あなたはどうやってコウガの元にいくつもり?コウガはもうこの世界「アルフガンド」にはいないわよ?」
「ど、どういうことですか?」
「アルフガンドは今や、転移者たちが君臨する「宇宙統一帝国」の細胞にも満たないほんの一部分になってしまったの。転移者たちなんてとっくにここを去ってしまったわ。」
レイスは信じられない気持ちだった。
「そ、それじゃあどこに?」
「詳しい場所は私にも分からないんだけどね、奴らは「時空」全てを支配するために、神界に代わる「世界の中心地」を作っているらしくてね、その周りには、転移者がそれぞれ直接支配する「直轄地」をつくったらしいの。いるとしたら多分、それのどこかにいるんじゃないかしら?
とにかく、こことは違う「別の時空」に行くためには、「神の力」かそれに匹敵する力が必要なのよ。今のあなたにそんな力なんてないでしょう?」
「うっ、、、」
確かに、別の時空にいるとなると、レイスには手のだしようがない。しかし、それでも他人の力で戦うことには抵抗がある。
「第一、今のあなたにはコウガに傷1つつけることもできないわ。あいつらは信じられないくらい強いもの。今行ったところで一瞬で細切れにされちゃうのがオチよ。」
フレイヤがレイスに警告したとき、
「その通りだ。」
上空から声が聞こえてきた。
「ッッ!」
2人が見上げると、騎士の鎧を着た1人の男が宙に「立って」いた。
男は2人が自分の存在を認識したことを確認すると、地面に降り立った。
「お初お目にかかる。私の名はイーバーン。転移者様に絶対の忠誠を誓う騎士である。」
読んでくださりありがとうございます。
近いうちに、また続きも投稿します。