第62話 光越者シャイン・ソニック(1)
ナロパニアンの支配者シャイン・ソニック。彼はもともとはナロパニアンで有数の貴族の生まれであった。
しかし、彼が十歳の時に固有魔法が判明したことで、彼の人生は変わった。
「馬鹿馬鹿しい。そんな弱い魔法しか使えない役立たずなどソニック家には必要ない、すぐに出ていくがよい。」
シャインの固有魔法が判明してから一週間、彼はその固有魔法の有用性を示すために特訓を行ったが、決して強いとは言えない魔法であった。
兄弟たちの派手で強力な固有魔法とは比べるまでもないほど弱い魔法。
元々ソニック家は武功によって名をはせた貴族家であり、強い固有魔法を手に入れることが重要視されていた。そのような家系で、弱い魔法を授かった者がどうなるかは明らかであった。
それから、シャインは冒険者として活動を開始したが、当初彼の冒険者生活は順風満帆とはいかなかった。
ただでさえ「追放された貴族」に対する風当たりは厳しい。おまけに実力もないときたものだから、彼はパーティーも組むことができず、周りの冒険者に馬鹿にされながらひっそりと活動を続けるしかなかった。
転機が訪れたのは、冒険者になって二年が経過したころ。
ある日彼は知った。彼が持つ固有魔法の「真の力」を。
それを自覚した彼は目覚ましく成長していき、気づいたころには、ナロパニアンで彼に敵う者はただ一人を除き存在しなくなっていた。
「、、、こいつがナロパニアンで一番強い男か。」
「いかにも。サインいるか?」
「いらない。」
気の抜けた会話内容とは対称的に、レインとシャイン・ソニック、二人の間には常人であれば倒れてしまうほどの緊張感が流れていた。
「レイス気を付けて。こいつかなり強いわよ。」
「そんな感じがしますね。」
余裕の笑みを浮かべた様子だが、ソニックの立ち振る舞いには全く隙が無いことを、レイスとフレイヤは感じ取った。
「おいおい、怖い顔をするなよ。せっかくの戦いなんだから」
「楽しもうじゃないか。」
「!!?」
目のまえにいて喋っていたはずのソニックの声が後ろから聞こえてきて、レイスは驚愕して振り返った。
しかし、レイスの背後にはソニックの姿はなく、再び前を見ると当然のようにソニックが立っていた。
「フフフ、、、どうかしたのか?」
(気のせい、、、か?)
「まぁ、どうでもいい。お前も「チートスキル」持ちなんだろ?だったら倒すまでだ。」
「ずいぶんと強気だな。そういうやつに限ってすぐに死んだらする。」
「俺は不死身だ。」
「結構。」
短いやり取りが終わった後、ソニックは意気揚々と巨大なランスを構える。
「そんなでかい武器で」
素早く動けるものか。
レイスがそう言おうとしたときにはすでに、知らぬ間に腹部に強烈な一撃を受けて吹き飛ばされていた。
「レイス!!え!?何が!?」
グレッグは訳が分からず叫ぶ。彼の目には、レイスが突然ひとりでに飛んでいったようにしか見えなかった。しかし状況的に、ソニックからなにかしらの攻撃を受けたことは察した。
「ま、待っててください!回復を グハッ!!?」
グレッグがレイスに回復魔法をかけようとしたとき、突如彼は顔に打撃を受け、訳も分からずに吹き飛ばされる。幸い、パナとの融合による肉体強化のために、その一撃は致命傷にこそならなかったものの、戦い慣れてないグレッグの意識を奪い取るのには十分であった。
「余計なことをするな。」
(マズイ、逃げないと。)
圧倒的な力の差に直面し、ノルはすぐさま逃亡を図ったが、
「お前もだガキ。逃げようとするんじゃあない。」
それをソニックが見逃すはずもなく、彼はノルの前に無数のファイヤーボールを落とした。
「ヒィッ!」
「雑魚どもが、どうやらお前ら2人はこの場で殺す必要もなさそうだな。後でたっぷり時間をかけて始末してやろう。」
「イテテ、、、」
ソニックが得意になっていると、レイスがお腹を押さえながら起き上がった。
「痛いなーコンチクショー」
「レイス!平気!?」
「すごく痛いけど怪我はしてないので平気といえば平気です。」
その言葉の通り、ドレスが破けてむき出しになった彼のお腹は、赤くなってはいたが、血は一滴も出ていなかった。
「ほう、報告にあったように頑丈だな。だがさっきの私の攻撃はまだただのウォーミングアップだ。」
「、、、、、、」
(吹っ飛ばされる直前、一瞬だけどこいつが動いたように見えた、、、)
腹部に衝撃を受けて吹き飛ばされるその時まで、レイスは瞬きもせずソニックを注視していた。そして、攻撃の直前、ソニックが一瞬だけ体を前に倒したことを思い出した。
「もしかしてだけど、、、スピードが上がるとかか?お前の魔法。」
「ご明察、なかなか鋭いじゃないか。その通り、俺の固有魔法は「俊足」。効果は、、、まぁ、そのまんまだ。」
ソニックは特にごまかす素振りも見せず、平然と種明かしをした。それは自身の能力に絶対的な地震があることの証明であった。
「俊足、、、!?あんなのまるで瞬間移動じゃないか!?」
ソニックのあまりに規格外の能力に、ノルはただただ驚愕するしかなかった。
「ついでにもう一つ教えておいてやろう。私が転移者様から授かったチートスキルは「電光石火」。どんなにトロいやつでも光より速く動ける代物だ。チートスキルは使い手がもともと持っていた才能に伴っていくらでも強くなる。そして「俊足」と「電光石火」のシナジーは完璧だ。誰であろうと、私にスピードで追いつくなどできはしない。こんな風にな。」
ドスッ!
「ウッ!」
レイスはわき腹に一撃を受け倒れこむ。しっかりソニックの姿を見ていたが、それでも彼の動きをとらえることができなかった。
「私と戦った者は全て、本人すら知らぬ間に跡形もなく消えてしまうのさ!」
勝ち誇ったようにソニックが叫ぶと同時に、彼はレイスの周囲を超高速で飛び回りながら巨大なランスを用いた攻撃を開始する。その攻撃はたった一秒の間に何千、何万と放たれるほどのスピードであり、レイスは全く反応できず、その高速の連続攻撃を受け続けることしかできない。
数秒立った時には、すでにレイスが着ているドレスはあちこちがボロボロに破れていた。
ソニックは、加速を止めて彼の前に立つと得意になって話し始めた。
「フハハハハハ!まだ形を保っていられるとは、頑丈なものだ!だが、それはむしろ苦しむ時間が長引くだけだ!」
「だ、だめだ、、、あんなバケモノ勝てっこない、、、」
あまりに歴然とした力の差を目の当たりにして、ノルの心は絶望感に打ちひしがれた。その言葉が耳に入り、さらに目を見開いて呆気にとられたような表情をするレイスを見て気分を良くしたソニックは得意になって叫んだ。
「ハーハハハ!!!どうだ!!恐ろしいだろう!?凡骨には感じ取ることさえできないこの私の攻撃は!!」
ソニックは次にレイスが発する言葉に期待した。
いったいどんなみっともない命乞いを聞かせてくれるのだろうかと。
しかし、実際にレイスが発した言葉に、ソニックは耳を疑った。
「いや、全然。むしろ、思ったよりも大したことなくて驚いたよ。」
「、、、、、、なんだと?」
バキッ
「ッッ!?」
ソニックは真横で、何かが割れるような音がしたのを聞いた。見ると、手に持っていたランスにひびが入っていた。ランスはそのままみるみるうちにひび割れていき、ついには先端から真ん中あたりまでが粉々になって破片となって地面に落ちた。
(オリハルコンでできた槍が耐久負けしただと、、、?)
「、、、フン。本当に頑丈さだけは大したものだな。だが状況に変わりはない。いくら頑丈であろうと攻撃を受け続ければいずれは死ぬ。お前は文字通り私に手も足も出んのだ。」
「頑丈さだけじゃないさ、、、少し掴めてきたところだ。」
そう言うと、レイスはガントレットを纏った右手でクイと手招きした。
「かかってこい、次は捕まえてやる。」
「世迷言を、武器を壊した程度で勝ったつもりか?」
ソニックは使い物にならなくなったランスを投げ捨てると、初めて走り出すための構えを取った。
「私が重たい武器を手放すということは、それだけスピードも攻撃力も上がるということだ。さっきですら私に反応することもできなかったというのにこれ以上速くなれば」
「長いんだよ。いいからさっさと来い。」
「、、、フン。後悔する時間があればいいな。」
ソニックはそのまま、先ほどよりもさらに速くレイスの周囲を飛び回る。
「お前のような調子に乗っているやつを殺すときこそ、最高に至福の瞬間だ!!死んだ瞬間のお前の顔がどうなっているかを見るのが今から楽しみだな!!」
「、、、、、、」
「終わりだ!!くらえ!!」
ソニックはレイスの正面の位置で角度を変え、今の自分が出せる最高の速度で彼に突っ込んでいく。
当然ながら、レイスはそれに反応することはできない。
(勝った!!)
勝利を確信したソニックは手に魔力を込め、レイスの頭を切り飛ばすために手刀を振り下ろした。
バシッ!
「、、、、、、は?」
ソニックは一瞬、何が起こったのか分からなかった。やがて、レイスの首に当たる直前の自身の手首がレイスにがっちりと掴まれているのを理解した。
「バ、バカな、、、!」
「自分の攻撃を止められる」という、生まれて初めての事態に、ソニックは動揺を隠せなかった。
そのソニックの硬直を、レイスは見逃さなかった。
「「手」はちゃんと出たぞ。ついでに、、、「足」もな!!!」
呆然とするソニックの腹に、強烈なレイスの蹴りが刺さったのだった。
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