第60話 それぞれの夜
時は数時間ほど遡る。
レイスとグレッグ、そしてアーノルドは、町の中にワープしていた。
「おお!マジか!ホントに瞬間移動した!」
「静かにしてください!見つかったらどうするのですか!」
(、、、何をやってるんだろ?俺。)
初めてのワープにはしゃぐレイスとそれをたしなめるグレッグ。そして、その近くにいるアーノルドは、心ここにあらずといった様子で、呆然と立ち尽くしている。しばらくして、虚ろな目をしながらアーノルドが口を開いた。
「、、、ここはあの森から大分離れてる。多分兵隊はいない。近くに宿があるからそこに泊まろう。」
「助かった!!マジでありがとう!!」
「、、、、、、。」
無邪気に喜ぶレイスとは対称的に、グレッグは疑わしそうな視線を向けていた。
「、、、俺は別の部屋をとった。それじゃあおやすみ。」
「どういうつもりですか?我々を助けるなんて。」
レイスとグレッグの部屋から出ていこうとするアーノルドを、グレッグが呼び止める。
「何を企んでいるのです?」
「、、、それはこっちのセリフだ。おい、お前。なんであの時俺を助けたんだ?」
アーノルドはレイスに呼びかけた。あの時というのは、アーノルドが実の兄に殺されそうになっていた時のことである。レイスは考えるように天井を見て、少ししてから口を開いた。
「、、、あんなに痛めつけることもないだろうと思って勝手に動いた。あとアイツなんか嫌いな感じがした。それだけ。」
「、、、そうか。それじゃ。」
「ちょっと!こっちの質問にまだ答えてないんですけど!?」
「うるさいなぁ、、、ただの気まぐれだよ。今度こそおやすみ。」
「ああ、おやすみ、アーノルド。」
「、、、知り合いは皆「ノル」と呼ぶ。」
アーノルドはそれだけを言い残して足早に自分の部屋に入っていった。
「いやーほんとによかった。あのままだと一睡もできなさそうだったからなぁ。」
「レイス、、、あなたもう少し警戒心を強く持ったほうがいいわよ?」
フレイヤがあきれた様子でレイスの体から出てきて、彼の隣に座って広げていたポテチをつまみだした。
「そうです。彼は信用できません。」
「そうかなぁ、、、なんとなく大丈夫そうだけど。」
「その自信はどこから出てくるのよ、、、パナはどう思うの?」
「、、、どうでもいい、、、私もう眠い、、、」
パナケイアはあくびをして目をこすりながらベッドに潜った。眠気がすでに限界に達していることに気づいた三人も、色々と話し合いたいことはあったが、それは明日にするということになり、それぞれベッドに潜ったのであった。
「本当に、、、マジで何をやっているんだ俺は、、、」
レイスたちがすでに寝静まっていたころ、アーノルドはベッドの上で頭を抱えていた。
彼は、転移者の幹部の一人を殺した逃亡犯の逃走に手を貸した。それはすなわち、転移者に真っ向から反抗したも同然である。それがどれほど恐ろしいことなのか、貴族出身であったアーノルドはよく知っていた。
しかし、それでも彼はあの時、レイスを助けずにはいられなかった。
クロードから自身を守ってくれたという恩義、そしてなにより、
(大したことないな、弟のほうがずっと手ごわかった。)
レイスが、かつてさんざん自分をいじめてきた兄クロードに言い放ったその言葉が、勝手に彼の体を動かしていた。
「ちくしょう、、、人生この先真っ暗だ、、、強くなってモテモテになるのが夢だったのに、、、NCCも裏切っちまって、、、もう、知るか、、、」
諦めたように吐き捨て、アーノルドは横になった。
NCCの隠れ家は、幹部たちの無事と再会を祝いあってお祭り騒ぎになっていた。全員が大笑いしながらビールやジュースをあおっている。何も事情を知らない人が見ても、まさか彼らが軍によっていつ殺されるのかも分からない立場にいる人間とは思わないだろう。
刹那主義
それがNCCに所属する人間たちの大きな特徴の一つであった。NCCのメンバー、特に幹部は死ぬことを恐れておらず、その極端に攻撃的な性格がNCCの、犯罪行為を黙認されるほどの高い実績を生み出していた。ゆえに彼らは、今のような追い詰められた状況にあっても、悲観したりはしなかった。
「フーッ、、、さてと、、、」
ひとしきり騒いだ後、リーダーのカインは酒瓶を握りしめたままソファに腰を下ろす。
「十分楽しんだことだし、本題に入るぞお前らー。」
カインが言葉を発したことによって急に空気が張り付いた。一見すると普段と何ら変わらない軽い口調だが、その中にすさまじいほどの不満や怒りが込められていることが、昔からの付き合いである幹部たちには手に取るように分かった。
「とりあえずはあれだ、ノルのやつが俺たちを裏切りやがった。家族だと思っていたし、伸びしろもありそうだったからしっかり教育してきたのになぁ。俺たちよりもレイスとかいうやつを選んで、そいつらと一緒に逃げ出しやがった。」
カインの言葉に嘘は一つもなかった。彼は、末端に至るまでメンバーの全員を自分の家族として愛していた。そして同時に、裏切りにも非常に敏感であった。愛しているからこそ、それを裏切られた時の反動が大きいのである。
「そんで、総督府のクソッタレどもは、なんと俺たちをその共犯呼ばわりしやがって、あろうことかいわれのない罪でこっちの話も聞かないで攻撃してきやがった。絶対許さん。」
言い終わったカインは酒を一気に飲み干し、空になったビンを壁に向けて投げつけた。静かな部屋に、ビンが砕け散った音が響き渡る。
「ということで、退屈を持て余している可哀そうなお前たちに仕事をくれてやる。安心しろ、そんなに難しい仕事じゃない。いいか、今までため込んでてできなかったことを全部やろう。強盗でも誘拐でも殺人でも何でもいい。とにかく悪いことのアイデアがあったらそれをどんどん出して、ひとつ残らず実行するんだ。今までセーブしてた分を全部吐き出して、殺される前に世界全部ひっくり返そう。ついでにノルと、あとレイスってやつにもけじめをつけてやろうぜ。」
「ハッハーッ!!そう来ないとな!!」
単純かつ無理難題とも言える命令。しかし、その命令を聞いてデスターは歓声を上げ、ほかの幹部たちの顔にも笑顔が戻る。彼らはみんな、大真面目にめちゃくちゃなことを言うカインが好きだった。カインの言葉を聞いていると、自然とやる気が満ちてくるのだ。
「じゃ、何からしていけばいいかな、、、ピエール。どうだ?」
「そうですね、、、やはりお金は必要かと。」
「やっぱりそうだよな、さて、どうするか、、、」
「あー。それなんだけど。」
資金調達の方法に悩んでいると、マックスが口を挟んできた。
「俺の実家ここから近いしそこから奪うのはどうだろう?実家一応貴族だし。」
「マジで!?助かる!」
「よーしそれじゃあ、一眠りしてからとりあえずリード家を攻めるとするか。おいルミナ、いつも通りお前には「大砲」として敵の戦線に穴をあけてもらう。しっかり魔力を回復させておけよ。」
「オッケーです。特大のをぶちかますのでお楽しみに。」
ひとまず今後の方針が決まったところでカインは立ち上がり、一蓮托生となった仲間たちに語りかけた。
「全員、今日はひとまずたっぷり休息をとっておくんだ。明日からどんどん面白くなっていくからな。」
その後全員再びドリンクを取り出して乾杯をしてから眠りについた。
彼ら自身もこの時はまだ気づいていなかった。
彼らの内側に眠る「神」が、今にも目を覚まさんとっしていることを。
こうして、レイスら一行、アーノルド、そして、カインらNCCの残党、それぞれの夜が更けていった。
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