第58話 NCC殲滅作戦始動
「以上が討伐隊からの報告内容となっております、スター閣下。」
ナロパニアン総督シャイン・ソニック、通称スターは、彼の前に跪いた男から報告を受けていた。
その内容は、レイスたちに向けた討伐隊から聞いたことの顛末である。
「、、、で、逃したのか。」
なんの感情も表に出すことなく、スターは言い訳に彩られた報告内容を一言にまとめた。その冷たい声を聞いて、冷静であろうと努めていた部下の肩がびくりと震えた。
その声色は、スターの機嫌が悪い時のものである。ここから先の一挙一動次第で、自分の命が尽きるか助かるかが決まる。長くスターに仕えていた彼はそのことをよく知っていた。
「、、、申し訳ありません!討伐隊の指揮官をすぐに処分します!」
「その必要はない。」
スターから発せられた意外な言葉に、部下は目を丸くした。てっきり、厳重な処断を行うよう厳命されるかあるいは自分自身が処分されると思っていたからである。
(た、助かった、、、!)
「閣下、、、!」
「もうすでに全て処刑した。」
「、、、え?」
部下の血の気がサァと引いた。スターが言っていることはデタラメではない。すでに街の討伐隊は本当に息絶えているだろう。たとえ何億キロ、何兆キロ離れた場所にいたとしても、彼がひとたび狙いを定めると次の瞬間には殺すことができる。彼の「固有魔法」と「チートスキル」をもってすればそれが可能なのだ。そのことを知っている部下は、もはや体の震えを止めることができなかった。
それに気づいたスターはフッと笑うと部下の肩に手を置いた。
「それで、、、こちらのほうが重要だ。レイスたちはどうやって逃げた?」
「ハッ、、、忽然と姿を消した以外の情報は、、、」
「返り討ちにするでもなく突然消えたか、、、「ワープストーン」を使った可能性が高そうだな。」
「ワープストーン」は、ナロパニアンで最強と言われるマジックアイテム。その効果は、いたるところに設置されている中継ポイントの魔力を石に記憶させることで、いつでもその場所にワープできる。まさに「無法」といえるほど便利な道具である。当然ながら値段も法外なものであり、「ワープストーン」を手に入れることを人生の最終目標にしている人も少なくない。
「今日ナロパニアンに来たばかりの二人がそんなものを持っているはずがない。そもそも存在自体知らんはずだ。協力者がいたに違いない。」
「ハッ、それですが、報告ではその場にレイス・ビネガー、グレゴリー・グラッドストンのほかにもう一人いたそうです。」
「ほう?」
「名はアーノルド・ベスティリオーネ。すでに家を追い出されていますが、ベスティリオーネ家の末子で、現在はNCCの下っ端です。おそらくワープストーンはアーノルドが持っていたものと思われます。」
「NCC、、、冒険者崩れのチンピラどもか、、、よし、新たな討伐隊を組織しろ。」
「恐れながら閣下、レイスたちの行方が分からぬ以上、、、」
「標的はそいつらではない。」
部下は一瞬だけ考えて、スターが言わんとしていることを察した。
「、、、かしこまりました。メンバーがレイスたちに協力した連帯責任として、討伐隊にNCCの排除を命じます。」
「ああ。」
先ほどとは一転して、部下はスターの命令に乗り気で、ニヤリと口角を上げた。冒険者特権があり、実力者が集まっていて街の利益になっているとはいえ、あまりにも素行の悪いNCCに、総督府の人間は頭を悩ませていた。
それを一気に排除する理由ができたのは、彼らにとって願ってもないことであった。
NCCのギルドは、本部も支部も共通で、街の繁華街に置かれている。NCCの建物は酒場のような内観であり、夜になると一仕事を終えたメンバー達が集まって、賑やかに酒盛りをするのである。
NCCのリーダーであるカインも、レイスとアーノルドのいざこざがあった街に設置されている支部の中で酒をあおっていた。
「さて、、、アルのやつはうまくやったのかねぇ、、、念のため神域武器とワープストーンまで持たせてやったが、、、」
カインが考えていたのはアーノルドのことであった。初めて任せた単独仕事は失敗した。しかし代わりにレイスという旅行客と因縁ができた。しかも後に知ったことであったが、レイスとグレッグの2人は、何かしらの大きな罪を犯した犯罪者であるらしかった。
それを知ったカインは仕返しも兼ねて、アーノルドをレイスの討伐に向かわせた。すでに討伐隊が向かっているらしいので実際に戦いになるかは不明であったが、少なくとも「戦いに行った」という行動が、アーノルドの男をあげることになると思ったからである。
(それにしてもあいつが戦いたがるとはな、、、明日からは強盗に参加させてみてもいいかもしれん。しかし、勝ったにしろ負けたにしろ、随分と遅い気がするな。)
すでにアーノルドを送り出してから数時間は経っている。あまりの遅さを不思議に思っていたその時だった。
ズドンズドンズドンッ!!
突如、建物の入り口付近に穴が開き、その穴の直線状にいたメンバー三人の頭部が吹き飛んで、どさりとその場に倒れた。
一瞬建物内がシンと静まりかえる。
最初に正気に戻ったのは、総長たるカインであった。
「敵だ!!」
カインの号令と共にその場にいた全ての冒険者が持っていたグラスを投げ捨て、腰の武器に手をかける。
しかし、
ズドンッ ズドンッ ズドンッ
敵の攻撃の第二波が彼らを襲い、ほとんどの冒険者が全く対応できず体に穴をあけられて倒れていく。
ここまででわずか20秒。その短時間でギルド支部は血の海となり、立っている者はカインを含めてわずか数人という有様であった。
そして、それ以上に、建物にあいた穴から見える敵の姿に、カインは驚愕した。
(兵隊だと、、、!?)
「突入!!」
指揮官の号令と同時に、大勢の兵士がドアや壁を破壊しながらなだれこんでくる。
「チッ!お前ら怯むな!!全員殺せ!!」
負けじとカインも部下たちに攻撃の指示を出し、戦闘が始まった。
しかし、あまりにも多勢に無勢。冒険者は1人、また1人と倒され、カインも奮戦するが、兵士5人の命を奪った段階で取り押さえられてしまう。
(クソ、、、飲みすぎたか、、、シラフなら20は殺れたろうに、、、)
「フンッ。野良犬の分際で手こずらせてくれる。」
カインがハメを外しすぎたことを後悔していると、長身で眼鏡をかけた、兵隊たちの指揮官と思われる男が入ってきた。
「お前ら、、、何の真似だ、、、」
「「何の真似だ」はないだろう、犯罪者どもが。」
カインの言葉に対し、指揮官は心底軽蔑した視線を彼に向けて吐き捨てた。
(チッ、賄賂で見逃してきたくせによく言う。)
「まぁ、心当たり自体は山ほどあるが、それにしてもここまでされる謂れはないぜ。」
「そうだな、せっかくだし教えておいてやるか。お前たちNCCには、レイス・ビネガーおよびグレゴリー・グラッドストンを匿っている疑いがある。」
「、、、なに?なんの話だ?」
カインからすればあまりにも突拍子もない知らせだった。そもそも彼はレイスらの討伐に積極的に参加こそしなかったが、個人的に因縁があったアーノルドを向かわせていたのである。匿っているなどと言われる筋合いなど本当になかった。
「お前のところの新入り、アーノルドという奴が、ワープストーンを使ってレイスらと共に逃げたのが映像で残っていた。」
そう言って指揮官はカインにスマホの映像を見せる。それはドローンが撮影したらしい映像で、アーノルドがレイス、グレッグと共にワープストーンを使って消えた瞬間が映っていた。
「これは、、、まさか、、、!」
あまりの衝撃に、カインは動揺して言葉を失ってしまう。
「ま、コレがなくとも貴様ら社会の害悪はいずれこうなったと思うがな。」
指揮官は嫌味を言いつつ、手に持った銃でカインの頬をペチペチと叩く。しかし当のカインはそれに反応せず、心ここに在らずといった様子でブツブツと呟いている。
「アーノルド、、、よくも、、、俺たちを、、、」
「さて、無駄話はおしまいだ。この世にさっさとサヨナラするんだな。」
指揮官はカインの額に銃口を向ける。カインはそれに怯むことなく、まっすぐと睨みつけた。
「許さねぇてめぇら、、、絶対に全員ブッ殺してやる、、、!」
「それが最後の言葉か?害虫らしい。」
指揮官が引き金に指をかけた。その時、
ガタッ
「プチファイヤーボール!!!」
物陰から突如人が飛び出してきて、指揮官に向けて魔法を放った。
人の身長ほどもある巨大な火の玉を指揮官はなんとか躱わすが、その代わり彼の後ろで控えていた兵士たちに直撃し、ギルドの半分近くを吹き飛ばすほどの爆発を起こした。
「ぎゃああああっっ!!」
火だるまになった兵士たちがギル発狂して転げ回り、ギルドの至る所に引火していく。
そして、目の前の指揮官と、自身の両脇を固める兵士たちの意識がその惨劇に向いた一瞬の瞬間を、カインは見逃さなかった。
「フンッ!」
カインは一瞬で兵士から手を振り解くと、目にも止まらぬ速さで左右にいた兵士の首を切り裂いた。
「なっ!?」
それに気づいた指揮官がカインを撃とうとするが、それより速く動いたカインは指揮官の手を掴み、余った手で彼の顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。
バギィッ!
「グハッ!カッ!」
鼻から血を流して悶絶する指揮官。彼から銃を奪い取ったカインはゆっくりと近づいていく。
「言っただろ?ブッ殺すってよ。」
「き、きさ」
ズドンッ!
ほとんど言葉を残す猶予も与えられず、指揮官の頭部が消滅した。間髪入れずプチファイヤーボールに動揺した兵士たちにも弾丸を撃ち込んだいき、ギルドを襲撃した約20人の兵士たちは全滅した。
「カインさん!大丈夫ですか!?」
先ほどプチファイヤーボールを撃った人物がカインに近づいていく。魔法使い用の大きな帽子とローブを羽織った少女を見て、カインは思い出したように彼女の名前を呟いた。
「ルミナか、、、存在を忘れてた、、、」
NCCの一員であるルミナは騒がしい場所が苦手で、飲みに誘った時もいつもギルドの隅っこでちびちびとソフトドリンクを飲んでいた。
今回の場合はそれが良い方向に働き、兵士の攻撃が始まった瞬間近くに身を隠し、不意をつくことができたのであった。
「無事でよかっ、ゲホッ ゲホッ」
彼女はカインに駆け寄る途中で咳き込み、体のバランスを崩してしまい、カインに支えられる形となる。
「相変わらず魔法の威力は大したもんだが、やっぱり体が弱いのは弱点だな。」
「ゲホッ、、、ご、ごめんなさい、、、いつも迷惑をかけて、、、」
「なぁに、今回はマジで助かった。ありがとな。」
ルミナに礼を言うと、カインは彼女を抱えて、予備として持っていたワープストーンを取り出した。
「さーて、きっとすぐに援軍の兵士どもが来るだろう。一旦逃げるぞ。」
「はい!」
カインとルミナはワープストーンを使ってその場から消えた。直後に兵士たちが雪崩れ込んできたが、そこにあったのは兵士と冒険者の死体だけであった。
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