第56話 逃走と磁石の魔法(1)
「ここを真っ直ぐ北に向かっていけば、ナロパニアンの首都に着くはずです。かなり遠いので公共交通機関を利用した方がいいと思います。」
レイスとグレッグ、そしてフレイヤとパナケイアの合計4人は、宿の一室でトランプをしながらナロパニアンの支配者の元まで行く作戦を練っていた。
その時だった。
ドカンッ! ド ズドンッ ズドンッ
「「ッッッ!!?」」
ものが壊れる音と銃声のような音が立て続けに聞こえてきた。
「、、、ちょっと見てくる。」
嫌な予感を感じつつ、レイスは後の発生源である一階を見にいった。
「おっと。」
レイスの目の前にあったもの、それは、胸に穴をあけられて屍となった宿屋の夫婦、そして武装した10人ほどの兵隊であった。
「いたぞ!レイス・ビネガーだ!」
レイスと目が合った兵士の1人が叫ぶと、兵士が一斉にレイスに槍や銃口を向ける。
「ヤバイッ!!」
反射的に2階に戻ると、直後、レイスが先ほどまでいた階段に無数の穴があいた。
「なんだあれは!?レーザーか!?」
兵士たちが持っている謎の武器に驚愕しつつ、レイスは全速力で部屋に戻る。
「何かあったんですか?」
「バレた!逃げる!」
「えっ!もう!?」
グレッグにほとんど喋る時間も与えず、レイスは彼を抱えると窓を突き破って宿を飛び出した。しかし、
「まいったな、、、」
宿の周辺はすでに多くの兵隊が待機しており、地面に着地した彼らに対して一斉に武器を向けた。
「おとなしく降伏しろ!!」
「仕方ない、、、しっかり掴まれグレッグ!強行突破だ!!」
直後、意識を集中して神の力を少し解放したレイスは兵士の集団に高速で突っ込んでいった。
「き、貴様! グハッ!!」
レイスの飛び蹴りが戦闘に立っていた隊長らしき男に刺さると、勢いそのままにその後ろに立っていた数百にのぼる兵士たちがまるでボウリングのピンのように倒れる。
「ク、、、ッ な、なんという威力、、、!」
兵士たちが一斉に倒れたことによってできた包囲網の穴をレイスは見逃さなかった。
レイスは倒れる兵士たちを踏み潰しながら走り抜けていき、あっという間に包囲網を脱した。
「お、追え!追うんだ!」
我に帰った兵士たちが慌ててレイスたちを追いかけるが、神の力を解放したレイスに追いつけるはずがなく、どんどんと距離を離されてあっという間に見えなくなった。
「クソ、、、ッ!あいつ、、、超人だ、、、」
その光景を見た兵士は呆れて肩で息をしながらつぶやいた。
「こ、ここまで来たら大丈夫か?」
あっという間に城壁を越えて、街を脱出したレイスは後方を確認しながら呟いた。
見たところ、追っ手がすぐそこまで迫っているような様子はない。
「今のところはそうでしょうね。ですがきっとすぐに森の捜索も始まります。それに、他の街でも私たちの手配書が出回っているでしょう。
、、、やはり通りのいざこざが原因ですかね?」
「もう!いくらなんでもバレるのが早すぎるわ!全部レイスのせいよ!きっと!」
グレッグの考えを聞き、レイスの体から飛び出してきたフレイヤは文句タラタラであった。
「ごめんなさい、、、」
レイスは思いの外シュンと項垂れて謝った。
「、、、ま、まぁ、過ぎたことは仕方ないわ。それよりも今するべきなのは今後どうしていくかよ。」
項垂れるレイスを叱りつけるのは気が引けたため、フレイヤはさっさと話を切り上げて今後の作戦を話し合うことにした。
「あの様子だと、私たちの情報はナロパニアン全体に知られてるとみてもいいでしょうね。これだと新しい街に入るのも大変だわ。頼れる人なんて当然いないし。」
「飛行機を使って一気に首都まで行くというのはどうでしょうか?」
「それしかないかもしれないわね、、、撃ち落とされなかったらいいけど。」
当初の予定とは大分ズレてしまったが、強行突破を図るしかない。
そういった方向性で意見がまとまりつつあったその時、
「ッッッ!!危ない!!」
「アガッ!?」
何かに気づいたレイスがグレッグの首根っこを掴んで思い切り引っ張る。それとほぼ同時に、
ズドンッ!
銃声が森に鳴り響いて、グレッグのすぐ後ろにあった木に大きな穴が開いた。
もしレイスが引っ張らなかったら、グレッグの首から上が消滅していただろう。
「あっちゃ〜、惜しい惜しい。」
銃弾が飛んできたと思われる方向から、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「凶悪なテロリストの1人を倒せるはずだったのに。」
「お前は、、、」
銃を撃った男が、木の影から現れる。派手な金髪で、耳に大量のピアスをつけたその男を、レイスはよく覚えていた。
「たしか、アーノルド・ベスティリオーネ。」
「おっと、わざわざ名前まで覚えていてくれたとは大変光栄なことだな。」
「どうやってここが?」
「念の為お前のスマホの位置情報を俺のに入れといた。」
「マジで!?スマホ持ってたら相手に位置バレんの!?恐ろし!!」
「君があまりにも知識ゼロすぎるんですよ、、、また今度教えますから。」
恐れ慄くレイスにグレッグは呆れながら呟く。
「、、、まぁいいや、仕返しでもしにきたのか?」
「仕返し?クックック、何か勘違いをしているみたいだな。」
アーノルドは笑いながら、懐から1枚の紙を取り出し、レイスたちに向けて放り投げる。その紙は、レイスとグレッグの顔写真が印刷された手配書であった。
(いつの間に撮ったんだ?)
「お前たちは凶悪な「犯罪者」!そして俺は冒険者!今の俺はスリではなく凶悪犯を捕まえにきた「正義の味方」というわけだ!お分かり?」
アーノルドは挑発しながら銃口を2人に向け続ける。彼の自信が手に握られている大きな銃によってもたらされていることは明白であった。
「ククク、、、この銃が気になるか?これは総督府直属の兵士や1部の冒険者のみに支給される「神域武具」というやつだ。当然、速さも威力も普通の銃とは比べ物にならない。さっきはたまたま避けれたみたいだが、そう何度もうまく行くかな?」
余裕の笑みを浮かべるとアーノルドはレイスに向けて何度も引き金を引く。しかし、
「フンッ フンッ フンッ」
レイスは難なく全ての弾丸を見切って避けて見せる。
さらに、
「ホレッ」
グシャッ
そのままアーノルドに急接近すると、銃身を掴んで力任せに握り潰した。
あまりに無駄のない動きだったため、アーノルドはほとんど反応することができず、気づいた時にはすでに銃を破壊されているという有様であった。
「、、、は?」
「あまり大したことないじゃないか。」
鉄屑になった銃を呆然とした表情で見つめるアーノルドをレイスは挑発する。
「こ、この野郎、、、!」
レイスの態度が癇に障ったようで、アーノルドはレイスを睨みつけた。
「、、、見逃してもらえるとありがたい。」
「「見逃してもらえるとありがたい」だって?フンッ!舐められたもんだな。」
アーノルドはレイスからわずかに距離をとって拳を構える。
「お前たちを捕まえたら俺はみんなから認められるんだ!わざわざ逃してやるわけがないだろうが!」
アーノルドの言葉に確固たる意志を感じたレイスは、対話を諦めて彼と似たような構えをとる。
「、、、戦うしかないか。」
「いくぞ!ウオオオッ!!」
アーノルドが雄叫びをあげてレイスに突っ込み、彼に次々とパンチをしかける。
(速い!)
レイスはアーノルドのパンチのスピードに驚きつつも、冷静に彼の攻撃を避け続ける。
「なんだ!?避けるだけか!?それじゃあ一生かかっても倒せねぇぞ!」
(言われなくとも!)
レイスは直後、アーノルドの攻撃をかわして、その僅かな隙をついてカウンターを仕掛けようとする。
それを見たアーノルドはニヤリと笑った。
ガシッ!
「ッッッ!」
「ハハッ!バカめ!」
アーノルドはレイスの腕を掴むと、力任せにその腕を近くにあった大木に押しつけた。さらに間髪入れず、もう片方の腕も掴んで大木に押しつける。
しかし、それ以外に特に何かをするでもなく、アーノルドはレイスから少し距離を取る。
「、、、?どういうつもりだ?」
「祈る時間をくれてやったのさ。お前はもう終わったからな。」
「なに?」
グッグッ
「え?」
アーノルドの言っている言葉の意味が分からなかったレイスであったが、直後、自身の体に起きた異変に気づいた。
腕が大木にくっついたまま離れないのである。
「こ、これは、、、!」
「もう一度言うぞ、お前は終わった。」
勝利を確信した言葉とともに放たれたアーノルドの拳が、レイスにクリーンヒットした。
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