第52話 ナロパニアンに到着
「ハッハー!どうだ!10の4カード!」
「甘いわね!こっちはジャックの4カードよ!!」
「、、、、、、。」
大声で自分の手札を見せるレイス、フレイヤと対照的に、パナケイアは黙って2人に見えるように自分のカードを床に置いた。数字は3、4、5、6、7。
「「す、ストレートだってっっっ!!?」」
こうしてポーカーはパナケイアの完勝に終わり、彼女はお菓子を独占したのだった。
さながら修学旅行初日の夜のように、3人はとても盛り上がっていた。
盛り上がりすぎて、目をバッキバキにしながら自分たちのことを見ているグレッグの存在に気づくのが遅れてしまった。
「「「あっ、」」」
「ずいぶん楽しそうですねぇみなさん。そんなに楽しんでもらえて機長としてとても鼻が高い。」
真顔で嫌味ったらしく言うグレッグに、レイスたちは返す言葉もない。
彼らも、グレッグを全く気にかけなかったわけではないが、機械の操作がちんぷんかんぷんな自分たちが何か手伝えるとは思えなかった。何より、特にレイスは複雑な機械を見ると頭が痛くなってくるため、結局操縦全部グレッグに丸投げしたのだった。
「えっと、、、操縦は?」
気まずい沈黙の中、レイスが質問をした。
「えぇはい。辞典みたいにクッソ分厚いマニュアル本の1番最後のページに「オートパイロットボタン」の場所が書いてありました。で、フレイヤ様に教えられた場所に設定しています。大体12時間ぶりにあの部屋を出れました。はい。」
「あ、、、そう、、、お疲れ様、、、」
明らかに不機嫌な様子でドスンと音をたててレイスたちの輪の中に入るグレッグ。
のんびりした性格のパナケイアも、この時ばかりは空気を読んで入手したお菓子の一部を黙ってグレッグに差し出した。
「、、、おいしー。」
バームクーヘンをムグムグと頬張って、表情があっという間に柔らかくなったグレッグを見た時、3人は心の底から安堵した。
「、、、ところでフレイヤ様。目的地は「ナロパニアン」というところで良かったのですか?」
「えぇ、そこでOKよ。ここはコウガの直轄地の中でも特に大きな世界だからね。」
「それがどう関係あるんですか?」
レイスはフレイヤの考えがよく分からなかったため質問をした。
「言うまでもないけど、転移者の手下に支配された世界、その全てを直接解放することはできないわ。そんなことしてたら時間が無限にあっても足りないものね。けれど、この国には「複数の小さな世界」を束ねる、転移者にとっても重要な巨大な世界があるの。」
「うんうん。」
「それでね、大きな世界は小さな世界に指示を出す。つまり、その大きな世界を解放すれば、自然と小さな世界は機能不全に陥るってわけ。これから向かっているナロパニアンがまさにそうよ。」
「、、、そんなに上手くいきます?」
理屈としては分からないこともない。元締めにあたる「大きな世界」がなくなれば、「小さな世界」はどうすればいいのか分からなくなってしまうということだろう。
しかし、果たして元締めがいなくなった程度で、周辺の世界の支配が揺らぐのだろうか。レイスはそう思わずにはいられなかった。
「確信とまではいかないけど、可能性は高いと思うわ。そもそもほとんどの世界は、転移者の力に怯えてイヤイヤ従ってるようなものだからね。」
「そう、、、なんですか?」
かつて、コウガを讃えるよう教育される精神病院に収監されていたレイスにとって、それはかなり意外な情報だった。
「まぁ極論だけど、転移者が全滅したら勝手にこの国は崩壊するでしょうね。わざわざ手下を全滅させる必要なんかないのよ。」
「、、、逆に言えば、人望がなくても屈服せざるを得ないほどに転移者が強いとも言えますがね。」
グレッグの指摘によって一気に現実に引き戻される。たとえ賛同しなくとも、転移者の圧倒的な力を前にすれば誰であれ頭を垂れなければ生きていくことはできない。
相手は正真正銘宇宙最大の「巨人」なのだ。
そう再認識せずにはいられなかった。
「、、、まぁ、だからこそ、私たちはナロパニアンに向かうのよ。戦えば戦うほど強くなるらしいレイスの「レベルアップ」もかねて、、、ね。ナロパニアンが落ちれば周辺の支配地域はかなりの範囲が揺らぐはずだしレイスも強くなるしで一石二鳥よ。」
「へぇ、そんなに大きなところなんですか?ナロパニアンって。」
「そぅねぇ、、、ナロパニアンをアルフガンドにおくと、、、アルフガンドはその辺の砂つぶよりももっともっと小さい、、、そんなところかしら?」
「、、、マジっすか。」
「ちなみに、その国の特徴とかはありますか?」
あまりのスケールの違いに呆気に取られたレイスの口からは、語彙力が完全に崩壊した感想しか出てこなかった。レイスに続いて、グレッグも気になっていたことを聞いた。
「それが、結構アルフガンドと似たようなものなのよ。人間以外にも獣人やエルフなど様々な種族がいたり、モンスターがたくさんいて、それを討伐する「冒険者」という職業があったり、、、あ、でも1個面白い特徴があったわね。」
「なんですか?」
レイスとグレッグは、興味深そうに前のめりになってフレイヤの言葉に耳を傾けた。
「えっとね、ナロパニアンでは一定の年齢、確か10歳だったかしら?そのくらいの年齢で、それぞれが持つ固有の魔法が分かるのよ。火の玉を出したりする、才能や努力次第で得られる魔法とは違う、完全に固有の魔法を。固有魔法は基本魔法よりも強い傾向にあるわ。」
「ということは、、、ナロパニアンの人は何かしら魔法が使えるんですか。そりゃずいぶん羨ましいな。」
才能が皆無で魔法を全く使えないレイスにとっては、「誰であれ何かしらの固有魔法を使える」というのは羨ましい限りであった。
「まぁ、いいことばかりとも限らないけどね。ナロパニアンはいわば「才能主義」。どれだけ強力な固有魔法を得るかで人生が変わる。庶民の子供が強い固有魔法を得て、魔物退治などで功績を上げて大貴族になったなんて例も珍しくないわ。」
先ほどと比べて真剣な口調で言うが、レイスにはフレイヤの言っていることの何が問題なのかよくわからなかった。
「夢があっていいことなんじゃないですか?」
「確かにそうとも言えるけど、逆のパターンもあるのよ。例えば、強い固有魔法で功績を上げた貴族の家系では、子孫達は強い固有魔法を手にすることが求められる。もし弱い魔法だったら、家を追い出されたり、幽閉されたり、「はじめからいなかった者」として密かに殺されたりとかがしょっちゅうよ。」
「おっと、、、それはなんとも、、、すごいな、、、。「才能」で人生が決まる世界もあるのか、、、。」
「それと追加なんだけど、ナロパニアンはアルフガンドと比べて魔法の技術とかがかなり発達しているし、肉体もかなり頑丈よ。総じてアルフガンドの人間よりも根本的に強いとみていいでしょうね。だから、もし戦闘になっても絶対油断しちゃダメよ。」
「なるほど、、、肝に命じます。」
アルフガンドとは異なる世界の在り方をしたナロパニアン。
どうやら一筋縄ではいかなそうだとレイスは感じたのであった。
それから、ひたすらみんなでトランプをしたり、お菓子を食べたりしながら過ごして3日後、、、
ビーーッ! ビーーッ! ビーーッ! ビーーッ!
「わぁっ!?なんだなんだ!?」
突如、けたたましいアラーム音が飛行機全体に響き渡り、レイスとフレイヤはベッドから飛び起きると、音の発生源と思われる操縦室に向かった。
そこにはすでに機械をいじるグレッグとパナの姿があった。
「あ、どうやらもうすぐ着くみたいです。」
「え!?こんな火事の時に鳴るみたいな音が到着の合図!?」
乗っていた飛行機のまさかの仕様にドン引きしつつ、飛行機はどんどんスピードを落としていき、やがて外の景色を認識できるほどのスピードになった。
「おぉ、、、」
高所にいるからこそ分かる、いくつもの巨大な都市が点々と並ぶ広大な世界。大きな森や湖、アルフガンドにはまずないであろう巨大な建築物も見える。
「みんな、「新世界」へようこそ。」
言葉を失う2人に、フレイヤは告げたのであった。
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