第49話 次の世界へと(1)
「なるほど、あれが神の力か、、、。」
レオンハルトを消し去った後、いち早く戦場から離脱していたアイザックスは、高台からレイスとタマの戦いを眺めていた。
やがてタマが「打ち上げ花火」となり、レイスの勝利が確定したところで、彼は思考を巡らした。
もしあれを味方につけることができたら?
自分の計画はスムーズに進むのではないか?
一瞬そう思ったが、なんとなく彼は自分の理想である、「虐げられし人間だけの世界を作る」というものに共感はしなさそうだという考えに思い至り、選択肢から外れた。
ともあれ、融合したスルトの記憶から、神との融合者のことも知った。そして彼らが、その融合者を見つけ、仲間にしようとしているのだろうということも察した。
「あいつらについていけば、我が同胞となる者たちも見つかるかもしれないな。今の俺には、世界を作るための「力」が必要だ。」
激闘の傍では、1人の男がその野心を燃やしていた。
「ハァ、、、ハァ、、、や、やった、、、勝った、、、ハ、ハハハッ、、、!勝った!勝った!!勝ったぞ!!!アーーッハッハッ!!!ハハハ、、、ハ、、、」
タマが花火となったのを見て笑いが止まらなかったレイスであったが、ふと足元がふらついて、そのまま地面に倒れてしまいそうになる。
「レイス!しっかり!」
レイスの中からフレイヤが飛び出してきて、倒れる寸前のところで彼の体を支える。
「ありがとう、、、ございます、、、」
「もう!無茶しすぎよ!!あなたが死んだら私も消えるって忘れてたでしょ!?」
「ごめんなさい、、、」
「まったく!けど、、、よくやったわ。私があなたをグレッグのとこまで運ぶから、あなたは少し休みなさい。」
フレイヤはレイスに労いの言葉をかける。神すら超える力を持つ転移者の側近をこんなにも早く倒せたことは、フレイヤの想像を超える戦果だった。
「レイス?レイ、、、あぁもう。言う前にもう寝ちゃってるのね。」
壮絶な戦いを終えたレイスは、フレイヤの肩に支えられながら意識を手放した。
「う、うーん、、、」
「あっ!起きた!」
「レイス!大丈夫ですか!?」
目覚めたレイスが最初に見たものは、フレイヤとグレッグの顔であった。
「こ、ここは、、、?」
「なんかよくわからないけど、悪趣味な変なお城みたいなのがあったからとりあえず連れてきたの!」
「悪趣味ぃ、、、?」
ベッドから起き上がって辺りを見回すと、いかにも高級そうなその部屋には、至る所にコウガの肖像画が立てかけてあった。
「あー。うん。確かに悪趣味ですね。」
「多分タマが作らせたんでしょうけど、人っこ1人いなかったわ。きっとみんな逃げたのね。」
「確かに、あれだけ騒動があったんですからね。」
周りにはフレイヤとグレッグ以外誰もいない。今の状態を認識してようやく緊張の糸が切れたレイスは、豪華なベッドに寝転がって、大きく息を吐いた。
「終わった、、、ようやく1人、、、。」
「そ、そうですよ!!」
ポツリと呟いたレイスの言葉に、グレッグは興奮しながら叫んで彼に顔を近づけた。
「本当に信じられない!あのタマを倒してしまうなんて!!何年もアルフガンドの王として君臨してきたあのタマを!!」
「勝てたのはあんたのおかげだよ。ありがとう。」
「まさか!フレイヤ様から聞きました!タマは完全にあなたに圧倒されていたと!!私が見込んだ通りだ!やはりあなたこそ世界を救う救世主だ!!」
「そ、そうかな、、、?」
グレッグに持ち上げられて、レイスは満更でも無さそうな表情になる。盛り上がっている2人とは対照的に、フレイヤは若干険しい顔をしていた。
「水を刺すようで悪いけど、、、」
「ん?どうしました?」
「正直に言うわ。あの子は「雑魚」よ。」
「、、、、、、え?」
レイスもグレッグも、フレイヤの言っていることが理解できなかった。
「あの子の強さは神で言うところの、強めの「下位神」くらいでしかないわ。それと多分、あの子はコウガのパーティーの中でもダントツで1番弱いはずよ。」
「、、、どうしてそう思うのです?」
「ここからは私の推論なんだけど、、、」
フレイヤはフゥと一呼吸を置いてから、自身の考えを述べ始めた。
「私も一応神だから、転移者のことはあなたたちよりは知ってるわ。それでね、コウガについてなんだけど、彼にとってはパーティーの仲間は、自分の偉大さを示すためのトロフィーのようなものなの。」
「トロフィー、、、ね、、、。」
他人を、しかも自分の妻となっている人物をトロフィー扱いするなど、常人には考えられないことであるが、レイスは記憶にあるコウガを思い出して納得した。
自分自身を含めて、全てが他人事で、まるでゲームの世界にいるかのような態度をとるコウガならば、仲間を自身のトロフィーのように認識してもおかしくないと思ったのだ。
「コウガの性格上、彼は優秀なトロフィーだったら絶対に手元に置いておくはずよ。そして、タマはこのアルフガンドに置き去りにされた。つまり、タマはコウガのパーティーメンバーの中では明確に落ちこぼれ扱いってわけよ。」
「なるほど、なんとも哀れな女ですね。」
特に感情のこもってない相槌であったが、少なからずレイスにはタマを憐れむ気持ちがあった。
彼女の異常とも言えるコウガへの崇拝の念は、コウガに捨てられたも同然であるという事実を認めたくないがためのものだったのだろう。そう考えると、敵ながら可哀想な気になった。
(まぁ、そのタマを俺が殺したんだけどな。)
「つまり、タマを倒したからといっても、全く安心できないと?」
「ええ。さっきも言ったように、タマの強さはせいぜい「強めの下位神」くらいよ。そして転移者たちは、神々の最高位であらせられる「最上位神様」たちを殲滅した。つまり、最低でもあなたは「最上位神」を超える力を得ないと話にならないわ。」
「ふーん。」
強めの下位神と言われても、そもそも神ではなく人間のレイスたちにとっては、いまいちよく分からなかった。
「その「下位神」とか「最上位神」とかの強さの違いがよく分からないのですが、」
「えっとねー」
フレイヤは天井を見ながら、神々の強さについて説明をし始めた。
「もちろん個体差もあるけど、下位神で大体大陸や星を吹っ飛ばすくらいね。」
「あっ、いきなりそんな感じなんですか。」
いきなり星レベルの話が出てきて、2人は呆然とした。
「中位神様は、複数の銀河を統べる。そしてその力は、軽く手をはらっただけでいくつもの銀河を消滅させることができるわ。」
「「?」」
「上位神様はさらにレベルが上がって、銀河を超えて複数の宇宙を管轄されるの。彼らの攻撃の威力はビッグバンを軽く超えてくるわ。」
「「???」」
「そして、最上位神様。彼らは本当に「格」が全く違う。攻撃どころか、彼らが何か行動を起こすだけで、無限を超えた数の宇宙、つまり「多元宇宙」を消滅させてしまうほどのエネルギーを発するわ。」
「すみません。一旦待ってもらってもいいですか?知らない単語とかが多すぎて訳が分からないです。」
情報の多さに脳がパンクしそうになったレイスは一旦フレイヤに待ったをかけた。
「、、、要するに、タマに手こずってたら話にならないわ。転移者はどんな神よりも強大な、正真正銘の怪物なんだから。正直、今回戦った相手がタマだったのは多分かなりラッキーだったわ。
厳しいことを言うようだけど、無駄死にしないためにも現実を知ることは大事よ。」
「そうですか、、、先は長そうですね、、、。」
戦勝ムードが一転して、部屋に重い空気が立ち込める。
「まぁ、それでも勝ったことに変わりはないわ!今日のところはゆっくり休んで、また明日から旅に出ましょう!明日はいよいよこのアルフガンドを出るわよ!」
「、、、!えぇ、そうですね、、、!」
暗い空気を吹き飛ばすように、フレイヤは大声で言った。アルフガンドにとどまっているわけにはいかない。明日からはついに「別の世界」に旅立つのである。
(待っていろコウガ、、、いつか必ず、、、!)
一方、屋敷の外では、1人の男、アイザックスが聞き耳を立てていた。
「なるほど、出発は明日、、、か。ではその前に。」
アイザックスは明後日の方角に目を向ける。そこは、獣人たちの国がある場所。
「時間が許す限り、このアルフガンドの「大掃除」を行うとするかな。奴らでこの力のテストをしてやるわ。」
アイザックスはそう言うと、あっという間にその場から飛び去っていった。
その後、アルフガンドの北部、獣人たちが住む全ての国がたった一夜にして焼け野原となった。
少数民族とはいえ数十億はいた獣人は僅か数千ほどになり、絶滅の危機に晒されることになる。
一命を取り留めた獣人の話によると、「狂ったように笑いながら国に火を放ち続ける悪魔」がいたという話であった。
一方その頃、屋敷の寝室の一つにいたグレッグは、ベッドに肘を立て、手を合わせて祈りを捧げていた。
「主よ、、、我らを見守りたまえ、、、我らが旅に幸在らんことを、、、」
さらに、別の寝室では、レイスとフレイヤが隣り合って寝ながら、話をしていた。
「、、、そういえば、フレイヤさんって実際の強さはどのくらいなんですか?以前俺の前で山を壊してましたが、下位神は星を壊せるんですよね?」
「フッフッフッ!自慢じゃないけどね、私は神学校ではあらゆる成績で私の下にいる神はいなかったわ!」
「あ、すごいですね。「自慢じゃないけど」の文脈で本当に自慢じゃないことってあるんですね。」
絶大な力と思想に酔いしれるアイザックス
もはや存在しない「主」に祈りを捧げるグレッグ
そして、結構呑気してるレイス
新たな世界を目指す3人の夜が更けていく。
読んでくださりありがとうございます。




