第48話 廃園(4)
vsタマ クライマックスです。
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
気づいた時には、タマは遥か上空を飛んでいた。いや、飛んでいたというよりも、花火のように「打ち上げられた」という方が適切であった。
「い、1度ニャらず2度までも、、、!」
1度目は、反乱者たちの前に降り立ったタマがレイスの不意打ちを受けた形で吹き飛ばされた。
今回は、その時のような油断はしていなかったが、自身の渾身の雷を投げ返されるという信じられない光景を目の当たりにして、ほんの一瞬だけ思考が停止してしまった。
タマやレイスほどの実力者の戦いでは、その思考停止の影響はあまりにも大きく、事実、レイスはその一瞬に満たないほどの隙を見逃さなかった。
「グググ、、、ッ おのれぇ、、、ッ!」
格下だと思っていた相手に2度も吹き飛ばされたことは彼女のプライドを刺激した。彼女は、尚も天に上がり続けている中で体勢を変え、地面の方向を見る。
すでに地面から数十億キロは離され、広大なコウガランドが一望できる状態になっている。その地面から、超高速で物体が飛んできた。
「ニャッ!?アイツは!」
「待ちやがれこの野郎!!」
自身が吹き飛ばしたタマを、レイスは思い切りジャンプすることで追いかけてきた。
「くっ、、、!わ、わざわざ突っ込んでくるとはバカな奴ニャッ!さっきとは違って、今度は思い切りいくニャッ!!」
タマは手に先ほどよりも大きな雷を生み出して、レイスに投げつけた。
「今更効くか!!そんなもん!!」
レイスは迫り来る雷に動じることなく、拳を突き出して正面から突っ込んでいった。その結果、タマの雷は粉々になって消滅した。
「ニャッ!?そんなバカニャッ!!」
「くらえ!!」
追いついてきたレイスは彼女の腹を勢いそのままに殴る。
「ガッ、、、!」
「フンッ!」
バシィッ!
間髪入れず、タマの顔にチョップを当て、彼女は打ち上げられた時以上の速さであっという間に地面に墜落した。
ドォォォンッ!!
轟音と共に、国の一つくらいなら飲み込んでしまえるほどの巨大なクレーターが出来上がり、タマはその中央で仰向けで倒れる。
「ア、アガ、、、ッ!ニャ、ニャんで、、、!」
通常の状態で相手の方が強いというのはまだ理解できる。しかし、今の自分は獣人の極致である覚醒状態に加えて、コウガから貰った、人智を完全に超越した力であるチートスキル、「無限電力貯蓄」を使っているのだ。
アルフガンドのど真ん中にそびえ立つ電波塔から発信される電気を10年以上も溜め続けてきたタマの中には、それこそ数年はアルフガンドの生活を賄えるほどのエネルギーが蓄積している。
そんな膨大なエネルギーを、たかが1人の人間に超えられるはずがないというのは、至極当然の考えであった。
「こ、こんなこと、、、あるはずが、、、」
「あるはずがニャイってか?」
いつの間にかレイスが遥か上空から降り立ち、冷たい視線でタマを見下ろしていた。
「クッ、、、オマエ、、、!」
いまだにダメージから回復していないタマは、尻餅をついたままズルズルと後ずさる。
「お前は許さない。人々を苦しめ、俺の仲間を痛めつけやがって。今度こそ確実に息の根を止めてやる。」
「フ、フニャッ!!」
タマはレイスに雷を投げつけたが、レイスはそれを片手で難なく掴み、それを握りつぶしてしまった。ほんの少し前までは、彼のガントレットを粉砕し、彼の体に重度の火傷を負わせたタマの技は、もはや彼のガントレットにヒビの一つも入れられない。
「う、、、!く、、、!」
(こ、こうニャったら、、、!)
「無駄な足掻きはもうやめろ。」
「フニャッ!!」
タマは地面に手を置いて、大爆発を起こした。巨大な砂煙が巻き起こり、レイスはタマの行方を見失ってしまう。
「チッ!!どこに行った!!?フレイヤさん!神様パワーとかなんとかで分かりませんか!?」
(ち、ちょっと待って!神様のパワーでなんとか、、、!う〜ん、、、っ!)
無茶振りされたフレイヤは、意識を集中させて、タマのチートスキルに宿った「神の気」を探る。
(ッッ!分かったわ!レイス!北の方角よ!!「コウガランド」の中心に向かってるわ!!)
タマのいる場所を魔法で察知したフレイヤは、レイスの体内から彼に指示を飛ばした。
「中心、、、?もしや、、、。」
タマが「コウガランド」の中心に向かう理由に心当たりがあったレイスは、急ぎ、彼女の後を追った。
「ハァ、、、ハァ、、、で、できれば、、、この手段はあまり使いたくないニャ、、、。」
命からがら逃げてきたタマは、「コウガランド」の中心地にある、高さ数キロメートルはあろうかという巨大な塔のような建造物の前に立つ。それこそが、アルフガンド全土に空気を介して電気を送り出す、電力の永久機関の本体であった。
「けど背に腹は変えられニャイ!!奥の手だニャッ!」
タマは両手をその建物に突っ込んだ。その瞬間、
バリバリバリバリッッ!!
「フニャニャニャニャッッ!!!」
タマの体に、異次元の量の電気が流れ込む。その電力量は、コンマ1秒で恒星一つ分のエネルギーに匹敵するほどであり、チートスキル「無限電力貯蓄」をもってしても、タマは全身に強い痺れを感じた。
「やはりここか!」
タマが電気の吸収を始めてしばらくしてから、レイスもやってきた。振り返ってそれを見たタマはニヤリと笑うと、電波塔から手を抜いた。
「フ、フフフ、、、もう遅いニャ。これでタマはパワー全開だニャッ!!」
タマの体から巨大な電磁波が放たれ、その余波で広い範囲での遊具や建物の崩壊が起こる。アルフガンド全体の電力を担っている電波塔は、とりわけ丈夫に作られていたようで、びくともしなかったのはさすがというべきか。
ともかく、タマを中心に電気の嵐が吹き荒れ、レイスの体に容赦なく電気が浴びせられる。
「クゥゥッ!!」
ようやく嵐が収まってきて、レイスが目を開いた時、彼の目に入ったのは、バチバチと激しい音を立てながら電気を纏い、まさに生きた雷となったタマであった。
「これがタマの奥の手、「雷獣神皇帝」モード。」
タマがそう言った次の瞬間には、レイスは顔に強烈な打撃を受け、後ろに吹き飛ばされた。
「うぅっ!!」
体勢を変えてなんとか着地したが、次の瞬間には、タマが目の前まで来ていた。
「フニャニャニャニャッッ!!」
「うおおおおおおおおっっ!!」
タマの高速連撃に対して、レイスもパンチで応戦するが、
「フニャッ!!」
バチィンッッ!
捌ききれなかったタマのパンチがレイスの顔に直撃した。
「、、、確かに、速くなってるな。」
(大丈夫!?)
レイスの体内から、彼を心配するフレイヤの声が聞こえてくる。タマの膨大なエネルギーを感じ取ったフレイヤは気が気ではなかった。
しかし、当のレイスには焦りはなかった。
「問題ありません。すぐに終わらせます。(捉えきれない速さじゃない。また攻撃してきたところをうまく隙をついて一瞬で殺すか。)」
「ニャハハッ!何を言ってるニャッ!?この切り札だけは絶対に負けないニャ!なにしろこの姿のタマは、模擬戦でコウガにすらダメージを与えたニャ!!少しとはいえコウガを痛がらせることができたのはタマだけだニャ!!」
(な、なんですって!?)
それを聞いてフレイヤは驚愕したが、レイスは逆に、今までにないほど口角を吊り上げた。その言葉は、直前までレイスの頭の中にあった、「隙をついてタマを倒す」という手段を消し去った。
「、、、へぇ。そいつはまさしく朗報だな。」
「、、、?」
タマもフレイヤも、レイスの上機嫌そうな表情が理解できなかった。
「コウガがお前のそんなピカピカ眩しいだけのイルミネーション程度でダメージを受けるなんて、、、な。どうやら、コウガは俺が思ってたよりもぜーんっぜん大したことないみたいだなコウガのやつは!そうかそうか!そりゃーよかったぜ!割と普通にブッ殺せそうだ!!アハハハハッ!!!」
お腹を抱えて盛大に笑うレイス。その態度が、タマの逆鱗に触れたのは言うまでもなかった。彼女の額には血管が浮き上がり、これまでにないほど怒りに支配された目となった。
「調子に乗るニャッ!!ほんの少し強いからってお前みたいなゴミクズにコウガを倒せるわけがニャイ!!コウガどころかタマにも手も足も出ないで負けるに決まってるニャッ!!」
「ハハハハハッッ、、、、、そうか?なら、やってみるがいい。」
そう言うと、レイスはタマの前で直立不動の体勢となった。
「俺はここから一歩も動かないし反撃もしない。好きなだけ俺に攻撃すればいいさ。お前の全てを受け切って、俺がコウガをブッ殺せることの証明としてやろう。」
(ちょっとレイス!?何考えてるの!?とうとうおかしくなったの!?なんでわざわざそんな我慢比べみたいなことをするのよ!!あなた仕返ししたいんじゃなかったの!?)
慌てて止めるが、レイスは聞く耳を持たない。
「忘れるところだった。ただ倒すだけじゃ意味ないよな。お前らみたいな調子に乗ってるどうしようもないクズには、どうしようもない絶望を与えてから殺さないと気がすまなかったんだ。」
「フンッ!頭の沸いたアホが!地獄で後悔するがいいニャッ!!」
直後タマが突進してきて、電気を纏ったパンチをレイスの顔面に叩き込む。その衝撃だけで、周囲にあった、電磁波によって崩壊した遊具や建物の残骸が跡形もなく消し飛んだ。
「ハッハーッ!!これはさっきとは違う、タマの本気の一撃だニャッ!!吹っ飛ばなかったのは褒めてやるけど、顔はぐちゃぐちゃニャッ!!」
「、、、、、、。」
(あぁ、、、レイス、、、)
レイスから返答がないのを見て、レイスは致命傷か、それに近いダメージを負ったに違いないと思った。
しかし、
「、、、こんなものか。」
「ニャ?」
ガッ!
タマの手首が、潰されそうなほどの強さで掴まれた。
「お前の全力ってのはこんなものかって聞いてるんだよ。」
タマの拳が離れたことで露わになったレイスの顔は、鼻から血が流れていたものの、その目からは闘志が溢れ出ていた。そのあまりの迫力に、タマは思わず震え上がる。
「クッ!ニャ、ニャめるニャァァァァ!!!」
レイスの手を振り解いたタマは、光の数万倍のスピードでレイスの周囲を移動をしながら、彼の全身にくまなく打撃を与えていく。
1発1発が星を容易く粉砕するほどの威力の攻撃をその身に何千、何万、何百万と受け続けても、レイスの体はビクともしない。
「ニャら、とっておきニャッ!!「ウルティメイト・ビースト・スピア」!!」
タマはその両手に、巨大な雷の槍を出現させると、レイスに投げつけた。2本の槍はレイスに直撃すると、彼を中心に半径2メートルほどの円形の、光の柱が発生する。
その柱は膨大なエネルギーの塊。広範囲を吹き飛ばすのではなく、ただ1人の敵を完全に消滅させる。柱の中のエネルギーは、先ほどまでのタマが放っていた雷の数兆倍は下らない、オーバーキルにも程がある人外の技。
この技を受けて生きていたのは、タマが愛し、絶対視するコウガただ1人。
そのコウガも、この技を受けた際は、ほんの少しとはいえ火傷を負った、タマにとって最強の、まさに「必殺技」。
「ハァ、、、ハァ、、、今度こそ終わったニャ、、、。タマにこれを出させたのは見事だったニャ、、、。」
勝利を確信したタマは、光の柱を背にしてその場を去ろうとする。
「、、、なんだよ。」
その時、背後から声が聞こえてきた。タマの首筋を、冷たい汗が伝う。
(バカな。)
「お前の力は、」
(そんな。)
「この程度か。」
(ありえない。)
恐る恐る、タマは振り返る。すると、そこにいたのは、
「全然、、、ハァ、、、ッ ハァ、、、ッ 痛くも、、、痒くもないぞ、、、!」
「あ、、、あわ、、、」
全身に重度の火傷を負って黒くなったレイスが、光の柱の中から出てきた。言葉とは裏腹に明らかに重傷で満身創痍であったが、にもかかわらず鋭い眼光で睨み続けるレイスが、タマには余計に恐ろしく見えた。何より、彼は、コウガにもダメージを与えた攻撃から生還してのけたのだ。
「フニャァァァァ!!!!」
半狂乱になったタマは、レイスに何度も雷を投げつけるが、その全てが、レイスの手で空へと打ち上げられる。そして、気がついた時には、レイスは彼女の顔をがっしりと掴んでいた。
「ウ、ウウウッ!!」
「もうお前など、、、相手では、、、ないっ!!」
またしても、レイスの拳がタマの腹部に刺さった。
しかし、今回は決定的だった。
レイスの拳は、肉が潰れる生々しい音とともに、彼女の胃を破壊したのだった。
「え、、、?あ、、、あ、、、」
何が起こったのか理解していないタマは虚な目をしてヨロヨロと一歩、二歩と下がり、ヘタンと地面に座り込んだ。そして、
「ッッッ!!ウプッ!!オエエエエエッッッ!!!」
激痛に襲われると、その場に倒れ込んで血と吐瀉物を吐き出した。
「エエエエッッ!!ゲェェェッッ!!!」
タマのその様子を、レイスは冷たい表情で見下ろしていた。
「これは、、、俺が受けた、、、12年前の分だ、、、あの時受けた、、、一撃を、、、そっくりそのまま返してやる、、、「致命的な一撃」、、、まぁ、ただのパンチだが、、、俺はそう名付けることにする、、、」
「グゲ、、、ッ! ガッ、、、! こ、、、の、、、!」
胃が破裂した痛みに耐え、タマはレイスを睨みつける。
「ニャ、ニャんで、、、おまえ、、、ごとき、、、が、、、そんな、、、力を、、、」
「神、、、神が俺に力をくれたんだ、、、お前もさっきから何度か俺と一緒にいる女神を見たはずだ、、、俺は彼女から力を与えられた、、、」
「ク、、、か、神、、、?そんな、、、そんなもので、、、」
「お前は今度こそ終わりだ。覚悟しやがれ。」
「こ、このタマが、、、そんな、、、「貰い物の力」ニャンかに、、、!」
それを聞いたレイスが笑う。その言葉を待っていたとでも言わんばかりに。
「そうだ、、、お前は、、、コウガに「与えられた力」で好き勝手できてたお前は殺されるんだ。俺に殺されるんだ!「貰い物の力」でイキッてる俺に殺されるんだ!!ただお前よりも強い力を手に入れることができただけのこの俺に!!悔しいねぇっ!?悔しいねぇっ!?」
「クッ!クゥゥゥ!!チ、チクショォォッッ!!!お前みたいなクズにぃぃぃっ!!!!」
タマは最後の力を振り絞って立ち上がると、レイスに飛びかかった。そのタマの顔に、容赦なくレイスのパンチが叩き込まれる。
「フゴォッ!!?」
「これはグレッグの分だ!!」
飛んで行ったタマにすぐに追いついて、彼女のさらに追撃を加える。
「これはここで働かされてた人たちの分だ!!」
レイスの攻撃により地面に叩き落とされたタマは、もはやまともに動くこともできず、ビクビクと痙攣する。
レイスはそんな彼女の頭部を掴んで持ち上げる。
「や、、、やめ、、、許し、、、」
「そしてこれは、、、父さんと、、、兄貴のッッッ!!ぶんッッッ!!だァァァァッッッ!!!」
かつてないほどの怒りがこもったレイスのアッパーが、彼女の顔に直撃し、彼女はロケットのように天高く打ち上げられる。その際、通常の打撃音とは別に、バリンッという、ガラスが割れたような音もした。
レイスの最後の攻撃によって、タマのチートスキル「無限電力貯蓄」は粉砕された。
「ア、、、ア、、、」
バチッ バチチチッッ!
「フニャァァッ!!?熱い!!熱いニャッ!!」
上空にて、タマは自身の体の異変を感じ取った。腹部の痛みも忘れて服が破れるほど強く胸元を掻きむしる。
「アアアッ!!アアアアッッ!!」
タマの体が発光し始め、服は全て燃え尽き、一矢纏わぬ姿となる。「無限電力貯蓄」を失った彼女の体は、もはや電気を貯められるようにはできていない。そのため、彼女の体内の電気が暴発しようとしていた。
「死にたくない!!死にたくない!!助けて!!コウガ助けて!!」
タマは必死に愛する者の名を叫ぶが、それを聞く者などどこにもいない。
「コォォォォガァァァァッッッ!!!!」
ピカッ!!
上空で起こった大爆発は、空を一瞬真っ白にした。レイスはそれを黙って見上げ、その目からは一筋の涙が流れていた。
こうして、アルフガンドを支配した獣神タマは、細胞一つ残さず消え去った。同時に、悪夢の楽園「コウガランド」も、終焉を迎えるのであった。
読んでくださりありがとうございます。




