第47話 廃園(3)
アイザックスの放った光線は、あらゆるものを焼き尽くした。
その距離は数十どころか数百億キロメートルに及び、レオンハルトに粛清された人間たちの後始末をしていた獣人たちや、距離が離れ過ぎていたために、騒動に気づかず普段と同じように人間をこき使い、作業に当たらせていた獣人たちと、従わされていた人間奴隷は、何が起きたのか気づくまもなく、その破壊的な攻撃の巻き添えとなって塵と化した。
多大な犠牲を出したのにも関わらず、アイザックスは地面が大きく削れ、グツグツと煮えたぎる地獄のような光景を前にしてご満悦であった。
「ハ、ハハハハッッ、、、」
自分は、世界を変えることができる力を手にしたのだ。その充実感が彼を支配した。
もちろん、彼はまだその力を使いこなせてはいない。
指先で無数の宇宙を消滅させることが可能な最上位神スルトにとっては今のアイザックスの攻撃など子供騙しもいいところである。
しかしアイザックスには、鍛え続ければ全盛期のスルトさえ上回り、この世のどんな存在よりも強くなることができるという、確信に近い予感があった。
「ここから、、、ここから俺の「理想」は「現実」となるのだ、、、思い上がった全ての亜人を人間に跪かせるというこの偉大なる理想が!!」
一方、タマたちの方も当然、すぐ近くで起こったとてつもない破壊を目にしていた。
「な、なんニャ、、、?今の、、、?」
すぐ近くで放たれた尋常ではないほどの膨大なエネルギーに、タマは驚愕した。
これほど巨大なエネルギーは、コウガの放った攻撃くらいしか、タマの記憶にはなかった。
そのため、タマにはその破壊の跡ばかりに目がいき、その攻撃を放った張本人であるアイザックスの存在すら認識できなかった。
グレッグも当然、アイザックスの破壊の跡に一瞬目と心を奪われていた。
しかしそれ以上に、アイザックスはこの状況がチャンスだと思った。
(しめた!!奴の意識があっちに!!)
タマが爆発の跡に気を取られているのを確認したグレッグは、全速力で彼女の脇を抜け、倒れ伏すレイスの元へ駆け抜けた。
「!!?」
「うおおお!!」
叫びながら手を伸ばし、回復魔法の射程内までレイスに近づけそうになったその時、
ドカッ
「ああああっ!!」
一瞬でタマがグレッグの前に現れ、鞭のようなしなやかな動きで彼の顎を蹴り上げた。
「あ、あと、、、ちょっとだったのに、、、」
「フー。あぶニャイあぶニャイ。油断のないヤツだニャ。」
タマの攻撃によって、さらにレイスから遠ざかる。タマとグレッグでは根本的に身体能力が違いすぎるため、タマにとってはグレッグを遠ざけるなど赤子の手を捻るに等しかった。
「ウ、、、グ、、、クソ、、、」
自身に回復魔法をかけ立ち上がるが、だからといって状況が一向に良くならないことは、彼自身がよく分かっていた。
(この魔法をかけたい相手は私ではないというのに、、、!どうする?いったいどうすれば?)
さっきのはまさに、「最大のチャンス」というべき状況であった。しかし、グレッグにはそれを活かしきれるだけの地力がなかった。
(だめだ、考えても考えても、どうすればいいのか全く分からない、、、!)
「まだ無駄なことを考えてるニャ?アンタみたいなヒョロヒョロがタマを出し抜くニャんてできるわけがニャイ。それがまだ分からないニャ?頭を強く打ちすぎておかしくなったニャ?」
どれだけ考えてもいいアイディアが思い浮かばない。そうした焦りがタマにも伝わったようで、彼女は口角をあげながら、グレッグを嘲った。
「さっきの爆発は気になるけど、それもアンタを殺してからでいいニャ。、、、で、アンタには他に手があるニャ?このままだと退屈すぎるニャ。」
タマはわざとらしくあくびをしながら挑発する。
「、、、そうだ!刺激が欲しいなら、レイスともう一度戦ったらいいじゃないか!私なんかと戦うよりもずっと歯ごたえがあるはずだ!!」
「その手にはのらニャい。そういう刺激は求めてニャい。」
「、、、。」
タマが戦闘狂であることに期待したグレッグの目論見はあっけなく砕けた。
チートスキルを発揮したことで、タマはレイスに瀕死の重傷を負わせたわけであるが、レイスの戦闘能力はタマにとって無視できるものではなかった。彼女はリスクの高い戦いは好きではない。刺激とは言っても、それはあくまでゲーム的な刺激で、自分の命が脅かされないことが大前提である。故に彼女の中には、「レイスを回復させてもう一度戦う」という選択肢などかけらもなかった。
しばらくにらみ合いが続いたが、グレッグの怯えた表情から、彼に何のアイディアもないことを感じて、ため息を吐く。
「ないニャ?少しは楽しめそうだと思ったのにがっかりだニャ。じゃあもう、殺しちゃうね?」
グレッグではもうこれ以上遊べないと思ったタマは、凍てつくような殺気を放つ。その殺気にあてられ、グレッグの全身の穴という穴から冷たい汗が噴き出る。
「う、うわあああああ!!!」
やけくそになったグレッグは、タマに向かって突っ込んでいく。ここにきて初めて、グレッグはタマを攻撃する意思を見せた。
「くそったれめ!!うおたたたた!!!」
彼はタマの顔に何度もパンチを叩き込むが、彼女自身はびくともしない。それどころかグレッグの拳のほうが、さながら金属をそのまま殴っているような激痛に襲われる。
「もしかして、これはパンチかニャ?」
「ク、クソ、、、!」
グレッグの決死の攻撃は、悲しいほどに効いていなかった。覚醒状態で高身長になっているとはいえ、華奢に見えるタマがグレッグの攻撃を正面から受けきったという事実に、彼は衝撃を受け、タマが拳を握りしめていることに気づかなかった。
「お手本を見せてやる、、、ニャッ!!」
バチィンッ!!
これまでとは比較にならないほどの強烈な一撃が、グレッグを襲った。一瞬で意識を奪われていたらまだ楽だったのであろうが、神と融合したグレッグの体がタマの攻撃に中途半端に耐えてしまったために、彼は気絶売ることもできず、激痛を伴って吹き飛ばされることになった。
「ガ、、、!ゴ、、、!ガギ、、、!グブッ!ブォエエエッ!!!」
地面に落ちたグレッグは、胃から一気に逆流してきたものを耐えられず地面にぶちまける。その様子を見たタマが怒りの表情を見せて走ってくる。
「コウガのための遊園地を汚すニャッ!!!」
勢いそのままに、四つん這いになったグレッグの顎を蹴り上げた。その衝撃で、グレッグの歯は何本も折れてしまう。
「ヒ、ヒィィッ!!」
夥しいほどの血が流れる口元を押さえて、涙がボロボロと流れる心の底から怯えた目でタマを見るグレッグを見て、彼女はため息を吐いた。
「どうやら、本当に打つ手がなくなったみたいだニャ。もう面白い事も無さそうだし、、、しょうがニャい、今度こそトドメを刺すニャ。」
爪を伸ばしながら近づいてくるタマに対してグレッグがとった行動は、
「ヒェェッ!!た、助けてください!!殺さないで!!」
命乞いであった。絶望した彼は、自分の体さえも治すことができない。圧倒的な力を前にして、彼は完全に心が折れてしまった。涙と鼻水でグシャグシャになりながらタマの前に跪く。
「、、、、、、。」
その姿勢がタマの嗜虐心を刺激した。彼女は爪を引っ込めてゆっくりとグレッグに近づく。
「フ、フフフ、、、ようやくいい顔になったニャ。」
パンッ!
タマは跪く彼の顔を軽く叩く。それだけでもグレッグにとっては十分な威力で、彼は地面を勢いよく転がった。
「ヒィィッ、、、!痛い、、、!」
「すぐに殺すのはやめだニャ。アンタはタマの気が済むまでオモチャになるニャ。」
バキッ!
間髪入れず追撃を放ち、抵抗する気力もないグレッグはただ地面を転がるしかなかった。
「カ、、、カハッ、、、!許して、、、助けて、、、」
這いつくばってタマから距離を取ろうとしても、すぐさま彼女はグレッグの前に立ち塞がって、何度も何度も追撃をかけてくる。
「アンタみたいな弱者は、タマみたいな「選ばれし強者」のためだけに生きる。それ以外は許されることはないニャ。」
「ヒィッ!うわああああっっ!!!」
狂気的なタマの笑みを見て、グレッグは体の怪我を忘れたように、タマから逃げだした。
「まったく、、、どこまでもみっともなくで愚かなヤツだニャ!」
やはり即座にタマはグレッグの前まで移動して、彼を蹴り飛ばした。
「ぐああっ!!!」
一際強烈な攻撃を受けたグレッグは、地面と垂直に飛ぶ。
「どこまでもバカで愚かなヤツだニャ。人間はアホばっかりだけど、ここまで頭が悪くて無様なヤツは初めて見たニャ。」
圧倒的な実力差を理解しながらも、タマに立ち向かい、挙句みっともなく命乞いをして、最終的には逃亡しようとした、グレッグの愚かさを心底嘲り笑った。
しかし、
「アハハハハッッ!!かかったなバカ猫ーーーッッ!!!」
突如、地面と並行に飛ぶグレッグが叫び始めた。
「知恵比べはこの私の勝ちだーーッッ!!まんまと引っかかったこの大マヌケがーーッッ!!」
直後、グレッグは地面に墜落し、大きな土埃が舞う。
「、、、なんニャ?とうとうおかしくなったニャ?」
タマはグレッグの奇行とも言える行動が理解できなかった。ダメージの受け過ぎで、グレッグがおかしくなったのかとも思ったが、彼の勝利を確信したかのような大笑いが気になった。
一瞬、タマは忘れていた。
グレッグが何を自身の勝利条件としていたか。
「、、、ッッ!?この方角は!まさか!?」
タマがその可能性に思い至った時には、グレッグの計画は達成されつつあった。
ズル、、、ズル、、、
「そう、、、だ、、、この、、、方角、、、だ、、、」
墜落したグレッグは、地面を這いながら、目的のものに近づいていく。
タマが爆発に気を取られた最大のチャンスを防がれた時点で、グレッグは自力でそこに辿り着くことを諦めた。
だから、タマに運んできてもらうことにした。
そのために、命乞いをして、タマに自分を殺すのではなく痛ぶらせるように誘導し、
タマ自身の手で自分を目的の場所に近づけてもらうために、あえてその目的の場所から離れるように逃げ出した。
この瞬間のために。
「させるか!!」
グレッグの狙いを察したタマは手のひらに雷を生み出し、それをグレッグが墜落した場所目掛けて放った。
砂煙のせいで正確な位置は分からないが、それはどうでも良かった。なぜなら、タマが放ったエネルギーの塊は、何かに触れた瞬間、周囲を塵にしてしまうほどの大爆発を引き起こすからである。
しかし、
バチンッ
乾いた音と共に、砂煙からタマのエネルギー波が空に打ち上げられ、上空で大爆発を起こした。
「ニャッ!?」
一瞬空に気を取られ、即座に前を睨む。自身の攻撃を弾き返せる存在など、少なくともこの場には1人しか思いあたらない。
やがて、砂煙がようやく晴れてきた。
「グレッグ、、、ありがとう、、、。」
そこにいたのは、すでに意識を失ったグレッグを抱えた、無傷のレイスであった。
タマはグレッグをわざわざ、レイスの近くまで吹き飛ばしてしまったのである。
(く、、、!タマとしたことがしくじったニャ、、、!!)
「グレッグ、、、あなたのおかげで俺たちは助かった。俺はあなたよりも強いから守らなくちゃならないと思ってたが、それが甚だしい思い上がりだったと心の底から思い知った。あなたの覚悟と勇気は、俺たちに力を与えた。」
レイスはゆっくりとグレッグを地面に下ろし、タマと向かい合う。
「、、、フン。復活したところで、死ぬのが少し遅れただけだニャ。オマエはついさっきまでタマに手も足もでニャかったのをもう忘れたのかニャ?」
レイスの復活に一瞬驚いたタマであったが、すぐに冷静さを取り戻した。それもそのはずで、彼女はいざレイスが復活しても倒すことなど容易だと思っていた。
「勘違いするニャ。タマはオマエが怖かったからそこのグレッグとかいうヤツを止めたんじゃニャイ。タマはコウガの「どんな弱い敵にも油断しない」という姿勢に倣っただけだニャ。オマエなんてタマがその気になれば一瞬で消し去れるニャ。」
「じゃあ、やってみれば?」
「言われずとも、一瞬で終わらせるニャ!」
タマの右手に、先ほどとは比べ物にならないほどの巨大な雷が生み出される。
「雷の審判」
大きく振りかぶって撃ちだされた雷は、光を超える速度でレイスに向かってまっすぐ飛んでいく。そしてそのまま大爆発と共に、レイスとグレッグは細胞一つ残さず消滅する。
はずだった。
「フンッ!」
ガッ
なんと、あろうことかレイスは、タマの放った雷を普通に受け止めた。
そして、彼は雷を持ったままクルリと回転する。その中で彼は右手に持った雷を左手に移し、、、
「うおおおおおっっ!!!」
回転の遠心力そのままに、左手の雷をそのままタマに投げ返した。
雷はタマの顔スレスレを通り過ぎて、彼女の背後で大爆発を起こした。その間、実に0.000001秒に満たない。そもそもレイスの動きが速すぎて「時間」の概念を突破しており、何かに触れたら大爆発を起こすタマの雷自身も、「触れられたことすら認識してなかった」。
「、、、、、、ニャ?」
あまりの出来事に思わずタマもポカンと口を開ける。
レイスはその隙を見逃すほど甘くなかった。
「ドラァッ!!」
ゴッッッ!!!
「ヴッ!!」
レイスはタマに急接近して、彼女の腹に蹴りを入れた。タマは声にならない叫びをあげ、光を超えた速度で上空に蹴り上げられたのであった。
読んでくださりありがとうございます。




