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第46話 廃園(2)

「ここは、、、どこだ、、、?」


気づいた時、アイザックスは見覚えのない場所に立っていた。

そもそもそこを「場所」と表現してもいいのかすら分からなかった。なにしろ、ただ明るいだけで辺りには何もなく、立ってはいたが、その足の下にあるのは地面ではなかった。ただ、「空間」としか言いようがない現象がはるか彼方まで広がっていた。


「そうか、、、俺は死んだのか、、、。」


彼の記憶に最後に残っていたのは、今にもその爪を振り下ろさんとするレオンハルトの姿。

きっと、自分は気づくまもなく命を落としたのだろう。


「ここがあの世か。天国か?地獄か?」


「どちらでもない。」


背後から突然声が聞こえてきて、アイザックスは慌ててそちらの方を向いた。


「う、うわあああ!!!」


そして、アイザックスに話しかけてきた謎の存在を見た時、あまりの衝撃に彼は悲鳴をあげた。なにしろ、その生き物は、全身がオレンジ色の炎でできていた。まさに炎が人の形をとったと呼ぶ以外に表現できないような見た目だったからである。


「ひどいやつだな。お前が疑問を感じていたから我がわざわざそれに答えてやったというのに、出てくるのが感謝ではなく絶叫とは。」


その謎の生き物は、苦言とは裏腹に、特に何の感情もこもった様子もなくやれやれと肩をすくめる。見た目からして明らかに普通の人間とは異なるその生き物の様子に、アイザックスはどのような反応をしたら良いのか分からずただ呆然としていた。


「あ、あんたは、、、?」

「我か?すぐに教えてやる。今お前にとって重要なのはここがどこかということ、違うか?」


謎の生物はアイザックスを指さした。


「結論を言ってしまうと、()()()()()()()()()()()。だからここはお前たち人間が言うところのあの世ではない。ここはお前の精神世界で、外の世界では時が止まっている。そして我はお前の魂に宿る神だ。」

「?????」


せっかく答えを教えられても、アイザックスはその答えの1割も理解できなかった。それを謎の生物も読み取ったのか、またしてもやれやれと肩をすくめた。


「まったく、、、どうやらオツムはあまりよろしくないようだな。お前みたいのが我の()()()とは、、、まぁ、我も贅沢を言っていられる立場ではないこともそうだが。」

「お、おい、、、さっきから何を」


アイザックスが言い終えるより先に、認識すらできないほどの速度で急接近してきた神を名乗る謎の生物は、アイザックスの頭を掴んだ。


「うわあ!!な、何しやがる!!」

「じっとしていろ。面倒だ。一旦お前にこの「世界の真実」を理解させてやる。」


その瞬間、アイザックスの脳に多数の情報が流れ込んできた。


神々による宇宙の創造、転移者、神と転移者の戦い、そして、それによって世界がどのように変わったのかや、生き延びた神々がどこへ行ったのか。


「ッッッ!!!ハァッ!ハァッ!」


あまりにスケールの大きな話に、アイザックスは脳がパンクしてしまいそうであった。


「い、今のは、、、幻覚か、、、?」

「真実だ。神の力を持ってすれば人間に過去を見せることくらいなんてことはない。」


にわかには信じられないことだったが、目の前にいる謎の生物が超常的な力を持っていることは間違いない。そう判断したアイザックスはひとまず彼の言うことを少しだけ信じてみることにして、話を進めていった。


「あんたが現れた理由は何だ?」

「なに、簡単なことだ。さっき見せたもので何となく分かっているだろうが、我の肉体はすでに転移者どもに殺されている。あの忌々しい恩知らずのクズどもにな。魂だけ何とか分離した我は、我との融合に値する適合者を探し求めた。」


今まで淡々としていた神だったが、転移者の話になった時僅かに感情を昂らせたのを、あいざっくすは見逃さなかった。目の前の神は転移者に並々ならぬ怒りを抱いていることを理解した。


「それが12年前の話だ。そのあたりからこのアルフガンドでは獣人が権力を握るようになった。その時のお前はまだ子供だったが、何となく記憶に残っているのではないか?」

「、、、確かそうだった気がする。」

「それで、だ、その頃から我はお前が我の適合者であるということを知り、お前に力を譲り渡すその時が来るまでお前の精神世界に隠れていたというわけだ。」


一通り説明を受けてようやくアイザックスも理解してきたが、一つどうしても分からないことがあった。


「どうして俺があんたの適合者だと?」

「意図したものではない。要は相性の問題だ。我も最初はなぜこのような子供がと思ったが、ある時から我の中でお前の評価が変わったのだ。」


神が指を鳴らすと、周囲に見覚えのある光景が現れた。


「ここは、、、俺がいた修道院、、、」

「その通り、お前は赤子の頃にこの修道院の前に捨てられ、ここで育った。」


アイザックスの前に数人の子供が現れる。そして、獣人の子供数人が人間の子供を痛めつけていた。その人間は幼少のアイザックス本人であった。


「非力だったお前は、同じ孤児院に住む獣人のイジメのターゲットになった。それがきっかけでお前は獣人に敵意を持つようになった、、、」

「ああ、その通り」

「それだけではないな?」


アイザックスの肯定の言葉を遮るように、神は言葉を挟んだ。そして次の瞬間には場所が変わり、古びた本屋が現れた。


「ここは、、、」

「読書が好きだったお前は、修道院の本では足りず、小遣いを握りしめてよく古本屋に足を運んだ。そして10歳の時、ある本を見つけた。それはどこかの国の教授が書いた本で、内容は、「亜人は人間よりも劣った存在であるから、人間の完全な統制下に置かれるかあるいは絶滅されるべきである。」といったものであったな。タイトルは確か、「絶滅主義」だったか?」

「「()()()()()()()」だ。」

「ああ!それだそれだ!何年も前に燃やした割にはよく覚えているじゃないか。とにかく、本は子供のお前には難しい内容だったが、少しずつ読み進めていくうちに、イジメの件もあってお前はその思想の虜になった。そして、夜に修道院を抜け出して、近くの街のエルフの服屋やドワーフの鍛治屋の窓に石を投げ込んだり落書きをしたらなどを繰り返した。獣人の支配が本格化すると本を処分したが、どうやら内容は覚えているようだな。」

「、、、、、、。」


亜人への差別思想は、アルフガンドでは一般的に悪とされる考えであった。

もちろん、いくつかの獣人の国では人間を敵視する者も多かったし、争いとなることもあったが、魔王の誕生以来、全ての生き物が協力しあわなければならないという考えを元とした、平等主義の考えが主流となり、亜人を排斥する思想はすっかりマイノリティーの側となった。

幼いながらもアイザックスはそれを理解しており、そのため自身の思想は誰にも話していないし、バレないように細心の注意を払ってきた。


「、、、何が言いたいんだ。」

「我は、お前の破壊的な考えが気に入ったのだ。事実、お前はいくら虐げられていたとはいえ、好機だと思った瞬間、迷いなく獣人を殺してみせた。」


次の光景は、ほんの数時間前、アイザックスが1人の獣人を殴打したのを皮切りに、人々が一斉に獣人たちに襲いかかった場面であった。そして次の瞬間には、過去の光景全てを破壊し尽くすように炎が辺りを覆い始めた。


「、、、我は火と破壊の神スルト。宇宙全てを司る最上位神の1柱。火は創造と破壊を加速する。お前には破壊の才能があるアイザックスよ。故に、我の力の全てをお前に与えよう。」

「あ、あんたと融合?ってやつをすると、俺の人格はどうなるんだ?」

「我はもはやただの精神体にすぎない。お前と融合し、力を与えた瞬間、我は消滅する。だからこそ聞こう。お前は我の力を得て何を成す?」

「俺は、、、俺の望みは、、、」


ふと、アイザックスの脳裏にビューフォードの顔が浮かぶ。勇敢な息子とアイザックスを重ねたあの男が。


(ごめん。ビューフォードのおっちゃん。やっぱり俺はあんたの息子とは似ても似つかないよ。)

「俺の望みは、人間より強いからと驕り高ぶる亜人どもを1人残らず、人間様に屈服させることだ!」

「それを邪魔する者がいたらどうする?」

「邪魔するやつは、転移者だろうが神だろうが、1人残らず駆逐してやる!!」


そう叫ぶと同時に、アイザックスは差し出されたスルトの手を掴んだ。その時、アイザックスは表情がわからないはずのスルトが笑ったように見えた。







「トドメだくらえ!!」


レオンハルトは呆然と立ち尽くすアイザックスに最後の一撃を与えた。

その一撃は確かにアイザックスの体を捉え、彼は大きく後ろに飛んで地面に倒れ、レオンハルトは勝利を確信した。


「ハハハハハッッ、、、ハ、、、」


高らかに笑うが、それは途中で止まった。アイザックスの死体に違和感を感じたからである。

アイザックスの体は両断もされておらず、血も一滴も出ていない。


「うわ!びっくりした!」


不思議に思っていると、倒れていたアイザックスが当然のように起き上がった。


「驚いたな、、、戻ってきたらいきなり吹き飛ばされるんだからな、、、。」

「おい貴様、、、何をした?」

「え?」

「何をしたと聞いている!!なぜ貴様は死んでおらん!!なぜ貴様の体には傷がついてないのだ!!」

「さぁ?お前の攻撃がへなちょこすぎるだけじゃないか?」


平然と答えるアイザックスに対して、レオンハルトは怒りよりも困惑の感情が勝った。ほんの数秒前まで、アイザックスはレオンハルトにとって確かに取るに足らない虫ケラに過ぎなかった。

しかし、今のアイザックスはまるで先程とは別人のように自信に満ち溢れた様子だった。


「ク、、、!いいだろう!マグレで助かって調子に乗っているようだが、それならば2度と奇跡など起こらぬようバラバラに切り刻む!!」


自身の怪我も忘れレオンハルトは覇気を取り戻し、常人には感じ取ることもできない速度で斬撃を繰り出してアイザックスにぶつけ、轟音とともに砂煙が舞い上がった。


「ハァ、、、ハァ、、、どうだ、、、。」

「同じ技ばかりで、本当に芸がないな。」


煙が晴れるとそこには無傷のアイザックスが立っていた。


「な、、、!?そ、そんなバカな、、、!」


体のどこにも傷がない。その事実に驚愕に目を見開いた。避けられるならばまだ分かる。しかし、攻撃をまともに受けて傷ひとつつけられないなど、レオンハルトの経験上あり得ないことであった。


(これまでずっと手加減してたのか!?いや違う!そのような素振りはまるでなかった!!第一そんなことをする理由がない!!)

「何が、、、このわずかな間に貴様に何があった!!」

「何が、か、、、うーん、、、」


アイザックスは少し考えるような表情をした後、ふぅとため息をついた。


「話したとしても、ケダモノ程度に理解できるとは到底思えん。その貧相な脳みそで頑張って妄想でもしていろ。もっとも、貴様はすぐに死んでしまうからどっちにしても無駄だけどな。」

「ふっ、ふざっ、ふざけるな!!この俺が貴様如き虫ケラに負けるわけがない!!」


レオンハルトは今度は巨大を活かしてアイザックスを殴りつける。アイザックスの上半身ほどもある巨大な拳は彼に直撃したが、


「、、、、、、!!」


レオンハルトの感触は、さながら巨大な岩をそのまま殴りつけたかのようなものであり、アイザックスはまるで微動だにしない。

直後、彼はレオンハルトの拳を片手で掴み、強引に体から離す。人間のものとは思えないほどの腕力と握力に、レオンハルトはなす術もない。


「お前は供え物だ。野望への一歩を踏み出したこの俺へのな。」


そういうと、アイザックスの体からオレンジ色のエネルギーが放出され、彼の体を纏い、彼の髪の色も、元々の金髪からオレンジがかったものに変化した。それに伴い、彼の周囲は一瞬にして真夏をゆうに超えるほどの温度になる。


「な、なんだこれは!?なんだこの熱量は!?」


レオンハルトが困惑していると、彼の拳が急激に熱せられるのを感じた。彼の拳を掴むアイザックスの手は凄まじい温度となり、レオンハルトの手を焼き尽くす勢いであった。


「グァァァァッ!!?は、離せ!!離せ!!」


余った手で何度もアイザックスを殴りつけるが、彼は相変わらず微動だにしない。しかし、彼は言われた通りに手を離し、レオンハルトは大きく後ろに下がった。その手はすでに重度の火傷を負っており、自由に動かすこともできない。


「グ、グゥゥッ、、、!こ、こんなことが、、、!」

「お前に殺された全ての者たちの恨みを受けるがいい。」


ほぼ間髪入れず、アイザックスはレオンハルトに接近していた。


「ま、待て!」

「ドォッ!!」


アイザックスの拳は、レオンハルトの腹部を直撃した。彼の高温の拳は、肉が焼けるような音とともに、レオンハルトの内臓を焼き尽くした。


「グッ、、、ハッ、、、」


白目を剥き、口から煙を吐きながらうずくまる。


「グギ、、、ガ、、、ゴ、、、ゴ、、、ギ、、、」


もはやろくに動くことも話すこともできないレオンハルトに対して、アイザックスは右手を突き出した。手のひらには熱が集まっていき、火の塊が生まれる。


「グ、、、グギ、、、ギ、、、ッ、、、た、、、たす、、、たすッ、、、たすけ、、、ッ!」

「死ね。」


アイザックスの手から放たれた熱の光線は、レオンハルトの体を容赦なく包み込む。それだけに止まらず、光線は扇状に広がり、彼の視界にあったものを何もかも焼き尽くした。レオンハルトは細胞一つ残らず消え、遊具や建物や植物も全て消滅。残ったのはグツグツと煮えたぎった地面だけであった。

その恐ろしい光景を目の当たりにして、アイザックスは口角を吊り上げるのであった。

読んでくださりありがとうございます。

3人目の神との融合者、アイザックスのお話でした。

アイザックス関係のイベントは書いていてとても楽しかったです。

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