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第45話 廃園(1)

(最悪だ、、、!最悪を12段階飛び越えたくらいの最悪だ、、、!)


グレッグは目の前のタマとボロボロのレイスを見比べながら心の中で舌打ちをする。

獣人たちのど真ん中に放り込まれた時も中々だったが、今回はそれとは比べ物にならないピンチだ。


「マヌケなレオンハルトがぶっ倒れてるニャ。アンタがソイツをやったのかニャ?」


タマの言葉にはなんの感情もこもっていない。ただ淡々と質問した様子だった。コウガにしか興味がないタマにとって、部下である獣人たちの安否などどうでも良かった。


「、、、、、、っ!」


グレッグはそれに答えることなく、返答がわりに黙って構えをとり、なけなしの戦闘の意思を示した。


「へぇ、、、タマとやる気なのかニャ?色白ノッポのわりにはいい度胸だニャ。」


タマもそれに応えて構える。

こうして、グレッグとタマの戦いが、、、



始まらなかった。



「トウッ!!」

ダダダッッ!!


グレッグはタマに背を向けて、猛ダッシュで倒れ込むレイスに向かっていった。


(私が戦っても負けるのは分かりきっている!ここはレイスの治療を優先だ!!)


戦う姿勢を見せたのは、タマの虚を突くためであった。少しでもタマの思考が止まっている間に、できるだけレイスに近づき、迅速な治療を行うというのがグレッグの狙いであった。


(もう少しで射程範囲だ!!!)


グレッグはレイスに向けて、限界ギリギリまで手を伸ばす。


「そうだと思ったニャ。」


必死で走るレイスの真横から、タマの冷たい声が聞こえてきた。直後、


「フンッ。」


タマが何気なく放ったパンチが、グレッグの鳩尾に刺さった。


「アグゥッ!」


まともに攻撃を受けたグレッグはゴロゴロと地面を転がる。


「うぅ、、、オ、オエエエエッッ!!」


蹲りながら、胃酸が逆流し、吐瀉物を地面に撒き散らすグレッグを、タマは冷たい眼差しで見下ろしていた。


「、、、魔力の感じから、アンタが「回復役」なのはすぐに分かったニャ。」

「ち、ちくしょう、、、!スピードが違いすぎる、、、!」


グレッグの狙いはすでにバレていた。それ以前に、瞬きをする間もなくグレッグに接近するなどタマにとってはなんでことはないので、どちらにしてもグレッグの試みが成功する確率は限りなくゼロに近かった。


「まぁ、もしアイツを治したって状況は変わらないニャ。タマはアイツより圧倒的に強いんだニャ。」


それも、グレッグは理解していた。そもそもレイスをあのような状態に陥らせたのはタマだ。レイスを治したところで、勝てる可能性は低いことは承知であった。しかし、グレッグはまだ諦めてなかった。


「何がなんでも、絶対にレイスのもとに辿り着く!」


意を決して、グレッグは地面を蹴る。そして、その勢いのまま、タマに殴りかかる、、、


「タァッ!!」


()()をして、タマから3メートルほど離れた地点で思い切りジャンプをし、グレッグとレイスの間に陣取っていたタマを飛び越えようとした。


「芸がないニャ。」


しかし、瞬時に上空に飛び、グレッグの目の前に現れたタマは、ハエのように彼を地面に叩き落とす。


「あぎゃぁ!!」


グレッグは地面をバウンドし、最初よりもさらにレイスから遠ざかってしまう。


「アンタの動きニャんかたまには止まって見えるニャ。ムダムダニャ。」

「う、うぅ、、、ちくしょう、、、。」


神との融合により体が頑丈になったため、常人なら塵も残らない威力のタマの攻撃を受けても致命傷こそ負っていないが、あまりにも絶望的な戦力差。

グレッグは地面に這いつくばりながら奥歯を噛み締めることしかできなかった。




「、、、何が起きてるのかほとんど分からんが、逃げた方が良さそうだな。タマの意識が向こうに向いているうちに逃げよう。」


そこから少し離れたところでグレッグたちの動向を伺っていたビューフォードは、冷静に判断を下してアイザックスに提案する。しかし、アイザックスは手にしたスコップを握りしめて、タマのもとに歩き出そうとする。


「オイオイオイ!!どうしたどうした!?」

「さっきは失敗したが、今度はうまくやる。奴が神父に気を取られているうちに、あの野郎を後ろからぶっ潰してやる!」

「何考えてるんだ!成功するわけないだろ!さっきでさえあのザマだったんだ!」


実は先ほど、グレッグにレオンハルトから救助された後、ビューフォードはすぐさまその場を離れようとしたが、アイザックスが強く反対し、隙を見て攻撃することになったのであった。

結果としては、さらにその隙をついたグレッグの猛攻でレオンハルトの目を潰すことには成功したものの、彼らの攻撃自体はレオンハルトにはまるで意味をなさなかった。


「俺は2度と逃げたりしない!例えこの身が塵になっても、この世から()()()()()()()を根絶やしにしてやる!」


アイザックスの怒りに歪んだ狂気的な目を見て、ビューフォードはそれ以上何も言えなくなった。


「逃げたきゃさっさと乗り物でも奪って逃げな。あんたは子供と奥さんに会うためについてきたんだろ?」

「、、、、、、。」


ビューフォードは何かを言いたげな様子だった。


「あ、き、聞いてくれ、アイザックス。俺は」


その時だった、


「グオオオオオッッ!!!」


野獣の雄叫びとしか思えない轟音が、2人の耳を貫いた。


そちらの方を向くと、なんと、死んだと思われていたレオンハルトが立ち上がっていた。


「ゴホッ ゲホッ き、貴様ラ、、、!ゆるサン、、、!許さんぞ、、、っっ!!」


口からは血と涎が絶え間なく流れ落ち、満身創痍であることは誰の目にも明らかであったが、その怒りに燃えた目は2人を震え上がらせた。


「こ、こいつ、、、死んでなかったのか、、、!」


胴体に巨大な傷を2つも作ったというのに立ち上がるレオンハルトの執念は常軌を逸したものであった。


「殺スッ!!殺してヤルッッ!!」


殺意に全てを支配されたレオンハルトは狂ったように腕を振り回す。

レオンハルトにはチートスキルや獣爪拳を使うだけの余力は残っておらず、その攻撃は野獣の暴走に等しいものであった。しかし、その暴走もアイザックスとビューフォードにとっては十分脅威に値するもので、2人は辛うじてレオンハルトの爪を躱わすのが精一杯だった。


「クソッ!死にかけのくせになんて速さだ!」


すでに体力を消耗していた2人は、だんだんとレオンハルトの攻撃を避けるのが難しくなる。そしてついに、


「くらえ!!」


レオンハルトの渾身の爪の一振りが、アイザックスの体を捉えた。


(あ、これ、死、)

「危ない!!」


あまりに絶望的な光景にアイザックスは思考停止に陥り、それを見たビューフォードは飛び出していく。


ズゥゥンッ


レオンハルトの攻撃は、地響きとともに、地面に巨大な亀裂を作った。彼は自身の攻撃の確かな手応えを感じ、ニヤリと口を歪める。


「う、うぅ、、、」


あまりの衝撃に吹き飛ばされたアイザックスは、一瞬意識が飛んでいた。


(重い、、、何か乗ってる、、、?)


体にのしかかる重量を感じ取ったアイザックスは、ゆっくりと目をあけた。


「、、、、、、。」


アイザックスの上に覆い被さっていたのはビューフォードであった。彼は無言のままぴくりとも動かない。


「お、おい、おっちゃん、、、?」


ビューフォードに呼びかける中、アイザックスは違和感を感じた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「く、、、。」


ズルズルとビューフォードの下から這い出て、アイザックスは彼の体を確認した。


「な、、、。」


アイザックスが見たもの、それは、下半身が切り飛ばされ、切れ目から腸が流れ出た、上半身だけになった無惨なビューフォードであった。


「お、おっちゃん!しっかり!」


呼びかけるも、ビューフォードからはわずかな呻き声しか聞こえてこない。もはや彼が助かる道はないであろう。


「ハハハハハッッ!!次はお前がこうなるのだ!怖いか!?怖いだろう!!ハハハハッッ!!」


レオンハルトの挑発も、アイザックスの耳には入らない。彼は、あまりの光景に呆然としていた。


一縷の望みにかけて、回復魔法を使えるグレッグのほうを見るが、彼は既にタマと対峙して打ちのめされており、こちらの方に来る余裕は明らかに無さそうだった。


「ち、ちく、、、しょう、、、。」


アイザックスの心は壊れる寸前であり、間近に迫る死を前にして思考停止に陥りかけていた。


「アイ、、、ザック、、、ス、、、」


そのとき、ビューフォードが弱々しくも言葉を発したことで、アイザックスは我に帰った。


「ッ!?おっちゃん!!しっかり!!」

「俺は、、、もう、、、だめだ、、、君だけでも、、、逃げ、、、」

「何言ってんだよ!家族に会うんじゃなかったのか!?」

「か、家族は、、、もういない、、、。」

「え?なんだって?」


突如聞かされた信じられない言葉に、アイザックスは聞き返さずにはいられなかった。レオンハルトの方も、ジワジワと死んでいく彼の様子が見たいのか、追撃せず2人の様子をニヤニヤとしながら眺める。


「息子は、、、俺には、、、勿体無いほど、、、勇敢だった、、、じ、獣人に、、、対抗して、、、そして、、、お、俺の目の前でし、死んだ、、、妻も、、、後を追って、、、」

「、、、、、、。」

「獣人に、、、反抗した君は、、、息子に、、、よく、、、似てて、、、また、、、息子と、、、戦えたよう、、、だった、、、こ、心が壊れて、、、奴らの言いなりになるしか、、、できなかった俺が、、、ひ、久しぶりに、、、い、生きてると、、、実感、、、できた、、、あ、ありが、、、と、、、。」


アイザックスに感謝の言葉を伝えたビューフォードは完全に事切れた。


「おっちゃん、、、。」


どうすればいいのか分からず、呆然としていると、レオンハルトが近づいてきて、無慈悲にもビューフォードの亡骸を踏み潰した。


「しぶとい奴だったな。ところで、思い出したぞ。そうだ。俺がコイツのガキを殺してやったんだ。ハハハハハッッ!!親子まとめて!俺があの世に送ってやった!!ザマァ見ろ!!ギャハハハッッ!!」

「くっ!こ、この!」


なけなしの勇気を振り絞って手にしたスコップで殴りかかるも、あっけなく弾き飛ばされる。


「安心しろ。お前もすぐにコイツと同じ地獄に送ってやる。人間の分際でこの獣王を手こずらせたことだけは褒めてやる。」


トドメの一撃と言わんばかりに、レオンハルトは大きく手を振り上げた。もはやアイザックスには、これから来るであろう攻撃を躱わす体力も気力もない。


(ここで俺は死ぬのか、、、俺の野望は成し遂げることができないのか、、、。)


絶望したアイザックスに向けて、最後の一撃が振り下ろされた。

読んでくださってありがとうございます。

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