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第44話 獣王レオンハルト(3)

遅くなって申し訳ありませんでした。

これからは少しずつペースを上げていきます。

「フム、、、少し力を出しすぎてしまったか?」


自身の攻撃によって地面にいくつもの亀裂が走り、崩落した建物の瓦礫が散乱する光景を見てレオンハルトが呟いた。


「しかし、ククク、、、まったく素晴らしい能力だ、、、この力を与えてもらったことだけには感謝しなくてはな、、、」


自分の手を見て彼はニヤリと笑った。

彼は、実のところ、タマやコウガに対する忠誠心などはまったく持っていなかった。

本来は、人間であるコウガから力をもらうなど屈辱的もいいところであるが、いつか獣人の王である自分が奴らを駆逐し、全世界を統べる、その野望のために彼は「チートスキル」と呼ばれる超常の力を手に入れ、それを毎日鍛え続けたのである。


「これはいい、、、このままいけば、あの小娘も、コウガとかいう虫ケラも、いつかは倒せるはずだ。」


レオンハルトは、久しぶりに実戦で使った自身の「チートスキル」の力に、確かな手応えを感じていた。しばらく自分の力に酔っていたが、ふと自分と同じように、特殊な力を持っていたグレッグの存在が気になった。


「、、、原形を留めているとは思えんが、念の為あのよく分からん虫ケラの死体でも確認するとするか。」






「ハァ、、、ハァ、、、ハァ、、、」


レオンハルトの攻撃によって、あたり一面が、災害にでもあったかのような惨状となった中、息も絶え絶えのグレッグは瓦礫の影に隠れていた。


(傷は治っても体力はすぐには回復しない、、、落ち着け、、、考えるんだ、、、獣人は魔法を全く使うことができない、、、だから、あの不可解な攻撃はフレイヤ様が仰ってた「チートスキル」とかいうものに違いない。)


レオンハルトはおそらく自分を仕留めたと思っている。つまりは、考える時間ができたということ。そう判断したグレッグはレオンハルトの能力について思考を巡らせた。


(あいつの攻撃は明らかに回数が増えていた。そしてその増えた攻撃は私に向かって軌道を変えながら向かってきていた、、、攻撃をコピーできるのかもしれない、、、そして、増やした攻撃の動きを操作できる、、、それがやつの「チートスキル」。当たらずとも遠からずなはずだ。厄介だな。)


そう思ってるうちに、ズシリズシリという巨体の足跡が近づいてくるのが聞こえた。


(ッッ!!マズイ!!確認に来た!!)


対抗策を思いついていない今、発見されるとすぐに彼の能力によって殺されてしまう。グレッグはひとまずやり過ごすために息を殺して体を小さく丸めた。


(頼む、、、見つかるな、、、)


「さて、、、やはり奴が生きていることはなさそうかな、、、?」


レオンハルトの独り言がグレッグの耳に入ってくる。グレッグは心の中で必死に祈った。


(クソ、、、早く、、、早く行ってくれ、、、!)


その祈りが通じたのか、レオンハルトの足音はだんだんと小さくなっていく。


(よし、、、よかった、、、)


そう思ったのもつかの間、レオンハルトは立ち止まって口角を上げた。


「、、、ククク、、、感じるぞ、、、儂を狙う愚か者の気配を、、、」


レオンハルトの言葉に、グレッグはビクリと震え、鼓動が急速に速くなるのを感じた。


(まさか、、、バレたのか、、、!?)


その時だった。瓦礫のから二つの影が飛び出して、レオンハルトに剣を振り下ろさんとしていた。


「ヌンッ!!」

ガシッ!

「ガッ!」

「ゲッ!」


レオンハルトは2人の動きを難なく見切って両手でそれぞれ捕まえる。その人物は、先ほどグレッグに逃がされたはずのアイザックスとビューフォードであった。

2人は最初は逃げていたが、レオンハルトを倒すために戻り、常に様子を伺っていた。

しかし、渾身の不意打ちも全く意味がなく、彼らはレオンハルトの巨大な腕に握りしめられる状態となってしまった。


「ぐあぁ、、、っ!! く、くそ、、、!」

「愚かな奴らだ。わざわざ儂に殺されにくるとはな。おかげで探す手間が省けたというものだ。褒美に少しは楽に死なせてやろう。」

メキメキメキッ

「「アァァァァッッ!!」」


レオンハルトが手に力を込めたことで2人の全身からミシミシと音が鳴り、今まさに身体中の骨が砕けようとしていた。


(今だ!)


凄惨な光景が繰り広げられているのにも関わらず、グレッグは意外と冷静であった。

レオンハルトの両手は完全に塞がっている。

彼に致命的な一撃を与えるチャンスだ。

そう思ったのとほぼ同時に、近くに転がっていた棒状の瓦礫を手に取って、勢いよくレオンハルトに向かっていった。


「ヌゥッ!?」

「うおおおおっっ!!」


レオンハルトは迫り来るグレッグに気づいたが、あまりに咄嗟のことで、反応が遅れた。その遅れを見逃さず、グレッグは地面を蹴って飛び上がると、破片の先端を振り下ろした。

狙いはレオンハルトの顔。



ズッ



破片の鋭い先端は、レオンハルトの左目に深く刺さった。一瞬、レオンハルトは自分に何が起こったのか理解することができなかった。



「ギャァァァァァーーーッッッ!!!」


自身の目が潰されたことを認識したレオンハルトは掴んでいた2人を離すと両手で顔を覆って倒れ込んだ。


(クッ!致命傷じゃない!!)


脳を貫くつもりの突きだったが、グレッグのパワーが足りず、レオンハルトの目を潰すだけに留まった。


「グググ、、、おのれ、、、虫ケラ如きがよくも、、、よくも、、、!」


ワナワナと震えるレオンハルトがゆっくりと立ち上がる。未だその顔は隠れているが、彼がどれほど怒っているのかはよく分かった。


(マズイな、、、倒しきれないどころか、怒らせてしまっただけか。)


グレッグが自身の失態を後悔していると、レオンハルトは顔から手を離し、残ったもう一つの目で、かつてないほど怒りに支配された視線を向けた。


「よくもこの俺の顔に傷をつけやがったな!!いい気になりやがって!!テメェら全員ズタズタの八つ裂きだ!!死体は魔物の餌にしてやる!!肉片一つ残さん!!覚悟しやがれっっ!!!」


凄まじい殺気の暴風が吹き荒れ、グレッグは恐怖で倒れ込んでしまいそうになるが、なんとか踏ん張って正面からレオンハルトを睨み返す。


「やっとその見た目に適した本性を出したな、やってみろ!そう簡単に私は倒せないぞ!」

「ククク、やはり単細胞だな。俺のこの力をもう忘れたか!!」


レオンハルトはそう叫ぶと巨大な手を振り下ろす。


ズオッ!!

「ッッッ!!」


巨大な爪の衝撃波がグレッグに迫り来る。一発目の攻撃はなんとかかわすが、


「まだまだぁ!!」


すでに振り下ろした手から第二、第三の攻撃が発生し、またしてもグレッグに迫ってきた。


「チッ!」


グレッグはジグザグと走って攻撃を避けようとするが、衝撃波は真っ直ぐは進まず、不自然な軌道を描きながら彼を追跡する。


そしてやがて、2つの斬撃はグレッグの間近まで迫り、


ザンッ


「グゥゥッ!!」


彼の片手と片足を切り飛ばした。


(やはり追尾機能が!!)

「フハハハハッッ!!どうだ!!」


グレッグが痛みに耐えて歯を噛み締めている様子を見て、レオンハルトは高らかに笑う。


「俺の斬撃は数百キロ先まで届く!!そして、増やした攻撃は貴様を追い続ける!!逃れることなどできようはずがないわ!!」

「、、、チッ。(追尾、、、さて、どうしたものかな、、、)」


腕と足を治したグレッグは、舌打ちをしながら立ち上がると、自身のすぐ背後を見た。そこにあったのは、手足を切り飛ばした後もなお止まることなく進んだことによってできた、巨大な亀裂であった。


「、、、、、、。」


その亀裂と、レオンハルトの潰れた片目を見た時、グレッグはレオンハルトを倒す唯一の策を思いついた。我ながら正気とは思えないほど危険で、単純な作戦だが、正気を保ったままでは勝てないということも彼は理解していた。


「ククク、呆然としてるな!今更怖くなったか!?」

「いや。」


レオンハルトの挑発に動じず、グレッグは真っ直ぐ、巨大な猛獣を見据える。


()()()()()()()。」

「、、、ふん。最後まで口が減らんやつだな。今度こそ終わりだ!!そら!!」


レオンハルトが両手で何度も何度も手を振り下ろし、それによって発生した斬撃がさらに増幅したことで、数えるのも馬鹿らしいほどの衝撃波がグレッグに迫り来る。


「うおおおっっ!!」


レオンハルトが最初に放つ真っ直ぐ飛ぶ斬撃は強化された身体能力を駆使して避け、増加した追尾型の斬撃は、斬撃同士がぶつかって対消滅を起こすように逃げ続けた。

大分避けるのにも慣れてきたが、それでも全てを完璧に避けることはできず、彼の体にはいくつもの切り傷ができる。


「光栄に思え!!貴様は前菜だ!!貴様を殺したら、今度は()()()()を八つ裂きにしてやるわ!!」


レオンハルトには、主人であるタマへの忠誠心は全くない。それどころか、彼の心は、自分が持っていた全てを奪い去ったタマとコウガへの憎しみで満ち足りていた。





かつてレオンハルトが王として治めていた獣人国は、建国の父であるレオンハルト一世の教えのもと、強さこそが全ての国であった。


レオンハルトは、そんな国の王子として生を受けたが、彼は幼い頃から武勇に秀で、成年に達する頃には歴代王家で最強と呼ばれるようになっていた。

順調に父から王位を継ぎ、国民からはその強さを讃えられる。レオンハルトはまさに我が世の春を謳歌していた。


そんな状況が一変したのが、今から12年前のことであった。レオンハルトの国の首都に突如、コウガと名乗る男をリーダーとした一団が現れたのだ。

当時の獣人国は、魔王軍という未曾有の脅威に対抗するために、人間側と同盟を結んでいた。そのため、他国の使者や兵士など、獣人国に人間が訪れるということ自体はもはや珍しくなかったが、あの有名なコウガのパーティーが来たということで、宮廷は一時期騒然となった。


最近冒険者としてどんどん頭角をあらわしている、異世界から来たという男、コウガの噂は、レオンハルトの耳にも届いていた。そんな彼のパーティーが、レオンハルトへの謁見を求めてきたのだ。


家臣の話によると、彼のパーティーは合計5人で、リーダーのコウガ以外は全員女性という、なんともバランスの悪いパーティーであるとのことであった。しかし、そんなことはどうでも良く、レオンハルトが気になったのは、パーティーの1人が獣人で、しかもコウガを心底慕っているという情報であった。


現在は同盟を結んでいるとはいえ、人間に良い印象などこれっぽっちも持っていないレオンハルトにとっては気に食わない話であった。


しかし、レオンハルトにはコウガを冷遇する気はなかった。とても真実と思えないようなコウガの武勇伝はレオンハルトも聞いていた。そのため、わざわざコウガに悪印象を持たせる気はなく、適当に歓迎してさっさと帰ってもらおうと思い、謁見を快く許可する旨の書類を持たせた使者を宿にあるコウガのもとへ送ったのであった。


かくして、レオンハルトはコウガのパーティーと話をすることになったのだが、そこでコウガの口から出てきた言葉は、レオンハルトを驚愕させた。


「バ、バカな!?そんなことふざけたことがあるものか!?」


コウガたちが求めていたのは、獣王レオンハルトの、全国民の前でのタマへの謝罪であった。

曰く、彼のパーティーメンバーである猫獣人のタマは、非力ゆえに幼い頃に村を追放され、奴隷商人に攫われ、コウガに救われるまで奴隷として働かされていた。そのようになるきっかけを作り出した、獣人国の王家の末裔から謝罪を求めるというのは、辛い目にあってきたタマの正当な権利ということだった。


レオンハルトからすれば、意味の分からない話であった。より強い獣人の血を残していくために、弱き者が淘汰されるというのは獣人国の伝統であり、第三者にとやかく言われる筋合いはない。

そもそも、タマという者が結果的に強くなったらしいことを考えると、それを見抜けず幼い段階で追放したのは過失と言えるかもしれないが、それはタマを追放した村の首長の責任である。

第一、強さの象徴である獣王が、人間に、しかも国民の前で謝罪などできるはずがない。


そう反論したが、コウガたちは聞く耳を持たなかった。それどころか、コウガは来た当初からの軽い態度を全く改めることなく、「デカいくせに肝の小さい男」だとか、「野獣のようにギャーギャー騒がしいやつ」だとか、こともあろうにレオンハルトを散々に罵倒したのだった。


「無礼者め!!かかれ!!」


獣王たるもの、ここまで言われて黙っていることなどできない。レオンハルトは兵士に命じて、コウガたちを捕えさせた。しかし、


「フンッ」


レオンハルトの目には、コウガの隣に立っていたタマの姿が少しぼやけて見えた。その次の瞬間には、コウガたちに飛びかかった衛兵数十人全てが、吹き飛ばされ壁に叩きつけられていた。


「なっ、、、!?」


衛兵たちは、タマの攻撃で一瞬で無力化された。それは明らかであったが、レオンハルトの脳は理解を拒んだ。獣王たる自分が、獣人の村娘にすぎないタマの動きをまるで捉えられなかったのだ。


(な、なんだ、、、今のスピードは、、、明らかにそこらの獣人とは次元が違う、、、っ)


呆気にとられているレオンハルトを見て、コウガはわざとらしくため息を吐いた。


「ハァ、、、。この程度で驚いてちゃ世話ないな。偉そうに玉座に座ってても所詮はその程度か。」

「グ、、、貴様、、、!!」


心が折れかけたレオンハルトであったが、コウガの挑発を聞いて奮起する。


自分は誇り高い獣人の主なのだ。

このような無法者に屈するわけにはいかない。


獣王としてのプライドが、レオンハルトを奮い立たせた。


「後悔するなよ!!カァァァァァッ、、、!」


レオンハルトの体は一瞬で倍近くの大きさとなる。


「どうだ!これこそが儂の王たる所以だ!!」


城そのものが崩壊しそうになるほどの暴風が玉座の間に吹き荒れるが、コウガたちは全く動じず至って涼しげな様子であった。


「全く、、、勘違いも甚だしいな、、、その程度で「王たる所以」だなんて、、、聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるよ。」

「な、なんだと、、、?」

「この時代遅れの王に見せてやれタマ!!君の力を!!」

「分かったニャッ!!フニャァァァァァァッッ、、、!!!」


コウガの声に応え、タマが全身に力をこめ始める。その時、覚醒したレオンハルトが押しつぶされそうになるほどのプレッシャーが城全体を覆いつくす。あまりの圧力に耐えきれず、城にいたほとんどの獣人はすぐに意識を手放してしまった。


「な、なに、、、!?」


自身とは比べ物にならないほどの膨大なエネルギーを放出するタマを前にして、レオンハルトは本能的な恐怖から体が震え、首筋を汗がつたう。

さらに彼を驚愕させたのは、タマの姿であった。彼女の体は見る見るうちに成長していき、少女からあっという間に成年となる。さらに全身には稲妻のようなエネルギーを纏い、バリバリと音が鳴る。その姿は紛れもなく、天賦の才を持った獣人が、厳しい修行の末にようやく発現することができるという獣人の極致、俗にいう「覚醒モード」であった。それをこんな田舎出身の小娘が、それも、王であるレオンハルトよりもはるかに強い覚醒に至っていることなど、にわかには信じられなかった。


「どうしたニャ?ビビってるのかニャ?タマが昔受けた苦しみを味わってもらうニャッ!!」

「クッ!おのれぇぇッッ!!!」


獣王レオンハルトとタマの戦いが始まった。

しかし、実際のところそれは、戦いと呼ぶことなどできないものであった。

レオンハルトは徹底的に打ちのめされ、ぼろ雑巾のようになり、それどころかその無残で無様な姿を国民に晒された挙句、国民たちの前でタマに対してこれまでの罪を詫びて土下座をさせられるという、王としてこの上なく屈辱的な行為を強要された。


その瞬間、レオンハルトはこの国の王ではなくなり、建国時から彼の代まで続いてきた王家は途絶えることになった。

獣人にとって、弱い王はもはや王ではないのである。

レオンハルトの目の前で、タマは国民から崇拝とも言えるほどに称賛され、新たな王としてそれまでレオンハルトがかぶっていた、タマにはあまりにも大きすぎる冠を無理やり頭に乗せ、即位を宣言した。


そのような光景を目の当たりにして、並の国王であれば自ら命を絶っていたかもしれない。

そういう意味では、レオンハルトは並の国王ではなかった。彼はあまりある屈辱を復讐心に変え、タマに屈し、いたって従順なフリをしながら、その爪を研ぎ続けた。


やがて、タマへの忠誠が認められた彼は、チートスキルを与えられたのであった。





「そうだ、俺はこんなところで終わりはしない!!この力で奴を殺し、俺はもう一度栄光を手に入れるのだ!!」


屈辱的な過去を思い返したレオンハルトは、グレッグへの攻撃をさらに加速させていく。

それに伴い、回復魔法が追いつかないほどに、グレッグの体に切り傷が増えていく。


「今度という今度こそ、終わりだ!!」


彼はトドメを刺すために、渾身の力を込めて手を振り下ろす。その瞬間、かつてないほど巨大な斬撃が発生、そのうちチートスキルで増加した攻撃は、グレッグを追跡する。


(攻撃が私を追うなら、それを利用するまで!)


ここに来て、避けてばかりだったグレッグは動き出した。彼は一瞬で、レオンハルトの視界から消えたのである。


「な!?どこに行った!?」


困惑したレオンハルトが怒鳴ったとき、何かが接近してくる気配を感じた。

次の瞬間には、レオンハルトの潰れた右目の側からグレッグが現れ、レオンハルトの巨体に飛びかかり彼の体をがっしりと掴んでいた。


「な、何をする貴様!!もしや!?」


グレッグの狙いに気づいた頃にはもう遅かった。グレッグを追跡したレオンハルトの斬撃が、もう目の前に迫ってきていた。


「く!!は、離せ!!離せ!!!」 


グレッグを何度も殴りつけるが、彼は一向に手を離さない。


(俺の夢!俺の野望がこんなところで、こんなやつに!!)

「おのれ!おのれぇぇぇぇ!!!」


レオンハルトの斬撃は、グレッグの片手と片足を容易く切断し、その勢いのままレオンハルトの体を切り裂いた。


「カ、カハッ、、、」


レオンハルトの口から空気が漏れるような音が溢れ、彼はズゥンと地面に倒れた。


「ハァ、、、ハァ、、、ふぅ、終わったか、、、。」


グレッグは切断された手足を再生して、乱れた服を整えながらゆっくりと立ち上がった。


「勝った、、、?勝ったのか、、、?」


物陰に隠れていたアイザックスとビューフォードがそろそろと出てきて確認する。

グレッグがそれに対して頷くと、壮年のビューフォードはふぅと安心したようにため息をつくだけだったが、対照的に青年のアイザックスは大きな声で笑い始めた。


「ハハ、、、ハハハハハッッ!!!ざまぁ見やがれ獣風情が人間様に逆らいやがってよ!!クソが!!クソッタレ!!地獄に落ちやがれ!!」


アイザックスはレオンハルトの亡骸を何度も蹴り付ける。

グレッグもビューフォードも、本来はそれを止めるべきであり、実際そうしようと思ったが、アイザックスからは止めても無駄なほどの底知れない怒りが感じられ、さらに、2人とも疲れ果てていたため結局レオンハルトを蹴り続けるアイザックスを見ていることしかできなかった。


「この、、、クソ野郎が、、、!ハァ、、、ハァ、、、」

「お、落ち着けアイザックス。もう終わったんだ。」


アイザックスが少し大人しくなったのを見計らい、ビューフォードは彼の肩に手を置いた。


「戦いはもう終わったんだ。もう大丈夫だ。」

「いえ、そうとは限りませんよ。」


ビューフォードの言葉を否定したのは、回復魔法で自分の体の修復を終えたグレッグであった。


「な、なんだって?」

「まだタマが、こいつらの大ボスが残ってます。私の仲間が彼女と戦っているはずですが、もしかしたらまだ戦闘中かも、、、」


その時だった、鼓膜が破れそうなほどの轟音が響き渡り、3人は一斉に音のした方向を向いた。


「な、なんだあれは、、、?」


分厚い黒雲の下で、途方もないほど巨大な無数の稲妻のようなエネルギーが、生き物のように空を走っている。

かつて持っていた聖書に書かれていた「神の審判」のような光景を前に、グレッグは絶句するほかなかった。

直後、エネルギーの塊が、グレッグ達の頭上を通り過ぎた。そのエネルギーは遥か彼方まで飛んでいき、やがて地面へ、、、


「あ、危ない!!伏せろ!!」


かつて熟練の戦闘員だった勘から危険を察知したビューフォードは2人を抱き抱えて地面に倒れ込む。

その直後、またしても遠くで大爆発が起こり、3人は吹き飛ばされそうになる。


「くっ、、、!」


爆発の衝撃を耐えた3人が顔を上げると、その方角には巨大な光の柱が立っていた。地面に着弾したエネルギー波は、爆発して消えることなく、全てを破壊する光の柱として残り続けた。


(この破壊力は、、、ジョナサンの切り札と同じかそれ以上だ!!)


グレッグの記憶では、レイスには魔法は使えない。だとするならば、今のエネルギー波と空を駆ける稲妻の主はタマということになるだろう。


「レイス君はあんな化け物と戦っているのか、、、!」


あまりにも次元が違う。今の攻撃と比べると、レオンハルトの攻撃など蚊のように思えてくる。

レイスの強さは知っている。しかし、あんな超常の力を振るう怪物を相手に、はたして殴る蹴るしかできないレイスが戦えるのだろうかと、グレッグは不安になった。


その時、



ピカッ




一瞬世界全てが光に包まれたような気がした。一呼吸おいて、先ほどとは比べ物にならないほどの轟音と衝撃が彼らを襲った。


「うわあああっっっ!!!」


吹き飛ばされた3人は、それぞれ地面に打ち付けられる。


「うぅ、、、今のはいったい、、、?」


何が起こったのか分からず困惑していると、空から何かが降ってくるのを感じた。

そして、その何かはグレッグ達の近くに着弾した。

その落ちてきた物体を見た時、グレッグは目を疑った。


「、、、え?レ、レイスくん、、、?」


その物体は、一部が炭化してしまうほど焼け爛れた、とても生きているようには見えないレイスであった。


「え!?ちょっ!?え!?なにがっ!?ちょっ!?え!?だ、大丈夫ですか!?ちょっと!?」


訳がわからず混乱に陥っているところに、別の物体が彼らの近くに降り立った。


「ニャ〜。これじゃあチートスキルのウォーミングアップにもならないニャ。」


現れたのは、二十歳くらいの見た目の、金色のエネルギーを身に纏った獣人の女。姿こそ違うが、その女が誰であるのか、グレッグにはすぐに分かった。

転移者コウガの最側近の1人にして、魔王以上にアルフガンドを地獄に変えた張本人。


「、、、、、、最悪だ。」


突如訪れたタマを見たグレッグは、思わず絶望の声を口からこぼすのであった。

読んでくださってありがとうございました。

いよいよ次回からコウガランド編およびアルフガンド編のクライマックスです。

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